久しぶりの宝塚メモです。
2週間ほど前に日比谷で宙組公演を観てきました。12月に月組公演も観たのですが、特に不満もなく、かといってリピートするほど感動したわけでもなく――といったところで、なおかつ京都遠征記事を書くのが精一杯で、観劇記事まで手がまわらなかったためスルーしていましたが、宙組を観て新たに思ったこともあったので、一緒に感想を記しておきたいと思います。
演目は、月組がミュージカル「I AM FROM AUSTRIAー故郷は甘き調べー」の一本物で、宙組はミュージカル「エル ハポンーイスパニアのサムライー」とショー「アクアヴィーテ!!」の二本立て。月組は日本オーストリア友好150周年記念と銘打った公演で、「エリザベート」を制作したウィーン劇場協会が手がけた話題作の日本初上陸作品、対して宙組は、伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節団を題材にしたオリジナル作品と藤井ショー。ということで、評判がどうであれ、エリザベート好き、伊達政宗好きとしては、どちらも見逃すわけにはいかず、なんとかチケットを確保し、相も変わらずバタバタと忙しい中、万難を排して行ってきました。
で、感想ですが、ミュージカル作品としては、ウィーン劇場協会の制作だけあって、構成も楽曲も月組のほうが完成度が高くておもしろかったのですが、トップスターの魅力を見せる宝塚作品としては宙組に軍配が上がるといったところ。月組は、どう見ても男役トップスターのたまきち(珠城りょうさん)ではなく、娘役トップスターの美園さくらさんが主人公でしたから。
美園さんはよくやっていましたが、すでに観劇中に、これほど娘役トップが活躍できる内容なら、ちゃぴ(愛希れいかさん)で観たかったと思ってしまいました。いっそうたまきちの存在感が薄くなったかもしれませんが……。男役トップが主役っぽくない外部向きの作品なので、宝塚ではなく東宝ミュージカルとかでいいので、ちゃぴ主演で観たいと思いました。観ていて明らかに主役ではあるのですが、主役にしてはまだまだ美園さんではオーラが足りず、パンチが弱かったので。一座の中心というか一座を率いる座長には見えないし、舞台に出てきても場面が引き締まるといった効果はまったくもってありませんでした。
その点、宙組男役トップスターのゆりか(真風涼帆さん)は、どこからどう見ても主役という抜きん出た存在で、彼女が出てくれれば舞台が華やぎ、さすがトップスターという感じ。その他大勢とは明らかに違いました。たまきちも、ちゃんとした主役であれば、あのくらいの華はあると思うのですが……ゆりかと違って、たまきちの場合は、華というよりも存在感といったほうがいいかもしれませんが。
けれども、美園さん自身は本当によくやっていました。難しい歌も無難にこなしていましたし。今回、宙組娘役トップスターの星風まどかさんを見たら、改めてそう思いました。というか、宙組の娘役はトップだけでなく全体的にイマイチでした。月組のくらげちゃん(海乃美月さん)のように、ともすれば娘1を凌ぐような実力派や若手スターはいないし、トップの星風さんはゆりかと合っているような気がしないし、歌も難有り。高音が厳しいのか、やたらと地声で歌うので、男役とのハモリが全然きれいに聞こえませんでした。下手というわけではないので、男役ではなく、男優となら相性がよいのではないかと思いましたが。
くらげちゃんは、ちなつ(鳳月杏さん)とコンビを組んだエードラー夫妻役がとてもよい出来で、彼らの息子ジョージ役だったたまきちと同じぐらい物語の中心的人物であり、その役にふさわしい存在感がありました。月組は男役も二番手のレイコ(月城かなとさん)も三番手のあり(暁千星さん)も、それぞれがクセのある役を巧く表現していて、メチャクチャ個性的な悪徳マネージャーであり南米プロサッカー選手でありながら、ちゃんとカッコいいという、さすがの路線スターぶりでした。
一方の宙組の男役――二番手であるキキ(芹香斗亜さん)は総じてよかったのですが、この組は娘役だけでなく、舞台を引き締めるような脇固めも駒不足なので、キキが出てくると舞台が落ち着いてホッとするといった具合。なので、もはや二番手ではなく別格スターを見ているようでした。デュエダンでは、シンガーであるキキの存在感があまりに大きくて、踊るトップコンビそっちのけでガン見していましたし。とはいえ、今回も真風涼帆オンステージでした。ゆりか一人の舞台でピアソラの「オブリビオン」を踊るシーンなんか本当に最高でしたから。ダンサーとして上手いとはけっして思っていないのですが、その場面のソロダンスはダンディで色気があり、ゆりかの良さが存分に発揮されていて、あまりに素晴らしかったので帰って調べたら、振付は「ANJU」でした。やっぱりヤンさん(安寿ミラさん)のダンスは違います。花男――ダンスの花組の男役のダンスです。
ということで、とにかくゆりかがカッコいいので、宙組はこれでいいのかもしれないとも思います。今のこの組の魅力は組力といった総合力ではなく、ひとえに宝塚の男役をやるために生まれてきたような、傑出した男役としてのビジュアルの持ち主であるトップスター真風涼帆にあると思うので。よって組子は彼女を至高の存在として見せるための布陣であり、比較してゆりかの下手さがわかるような、上手い娘役とか別格スターは要らないのかもしれません――今はまだ。でも、いつか近いうちに必ず終わりが来るのが宝塚トップスターの宿命です。
最後に余談ですが、宙組公演はやけに男性客が多いと思いました。その日だけなのか本公演だけなのかわかりませんが。年々宝塚の男性客が増えていることは実感していて、エンターテインメントとしての地位が上がったようで嬉しいのですが、ますますチケットが取りにくくなるような気もして複雑です。雪組もまだ確保できていませんし……。雪組の前回公演はギリシャ帰りで疲れていたのか、チケットを入れておいた財布を仕事場に忘れて劇場に行くというポカを犯して見そびれたので、なんとかして観たいと思っているのですが。