羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~類稀な華の持ち主である新花組トップスター、柚香光

 超久しぶりの宝塚メモです。なんと2月に書いた1月の宙組公演以来。仕方がありません、公演がなかったのですから。宙組の次は星組を3月に観劇の予定でしたが、コロナ禍で休演となってしまい、行けませんでした。その3月公演は新生星組のお披露目、次は新生花組のお披露目と、お披露目公演が続くので、いつ再開するのかと心待ちにし、ようやく再開しましたが、ついに公演関係者に感染者が出て、宝塚、東京ともに再び休演となってしまいました。

 

 そんな残念な事態ではありますが、個人的には幸いなことに、先月宝塚で花組公演を観ることができました。演目は「はいからさんが通る」。大和和紀さんの同名マンガを原作とした作品です。前に記事でも書きましたが、私は大和和紀さんの大ファンで、しかも、みりおこと明日海りおさんの後継者である新トップスター、カレーこと柚香光さんのお披露目公演なので、公演が決まったときから絶対に見逃せないと思っていました。で、コロナ対策により販売される席数も少なくなるため、ただでさえいつも激戦の東京公演のチケットを確保するのは至難だろうと思ったので、宝塚まで観に行くことにしました。平日でもB席でもいいと思っていたら、4連休最終日のS席が手配できたので、迷うことなく行ってきました。

f:id:hanyu_ya:20200815162509j:plainバウホール前の看板

f:id:hanyu_ya:20200815162611j:plain開演前に宝塚ホテルがやっている劇場レストラン「フェリエ」で昼食を摂ったのですが、レビューランチを頼んだら、感染対策のため、弁当箱での提供でした。

f:id:hanyu_ya:20200815162644j:plainメニューは、オードブルが「鯛マリネのルーレ オレンジ風味」、メインは「牛ほほ肉のパイ包み焼き ポルトソース」だったのですが、弁当箱のためいっぺんに出てきて、かつ器の縁が立ち上がっているためナイフが使いづらく、色も白い皿と違って朱塗りのため、あまり美味しく思えず、とても残念でした。

 

 さて「はいからさんが通る」ですが、カレーの美貌だけがやたら際立った公演でした。舞台化される前は、ビジュアル的に、緋村剣心ルパン三世を再現することは可能でも、伊集院忍を三次元化することは、いくら宝塚の男役といえども難しいと思っていましたが、まったく違和感がなく、むしろ立ち姿も含めてカンペキでした。そもそも、「るろうに剣心」や「ルパン三世」より作品自体に対する思い入れが強いので、観てガッカリするぐらいなら観ないという選択をしたのですが、「カレーなら幻滅することはないだろう」と信じて行きましたし。なにしろ、あのみりおと一緒に舞台に立って負けることがない華と美貌の持ち主ですから。今までも、たとえ歌が壊滅的であろうがオーラが足りなかろうが、ビジュアルの美しさですべてが帳消しでした。

 

 ――なのに、今回オペラグラスを忘れてしまい、いつもはレンタルがあるのですが、感染対策で中止していたので、劇場内の売店で買う羽目になりました。カレーをオペラで覗けないのは観劇の楽しみを半分以上失うようなものなので……。タカラヅカオリジナルで5組のロゴマークが入ったものだったので、観劇記念のお土産だと思おうと、他にも使えるから割高のお菓子を買うよりいいだろうと、懸命に自分を納得させましたが、お土産にしては高く、痛い出費でした。トホホホ。

f:id:hanyu_ya:20200815163525j:plain大劇場内の壁に飾られたカレーとマイティー(水美舞斗さん)のポートレート

f:id:hanyu_ya:20200815163554j:plain開演前のタイトルまわりには「はいからさんが通る」のマンガの場面がたくさんあしらわれていてました。何回も読みましたから、全部記憶にあります。

 

 作品そのものは「はいからさんが通る」の内容紹介といった感じ。脚本・演出は小柳奈穂子さんでしたが、「へえ、あの場面をこんなふうにしたんだ」というようなおもしろさはあっても、残念ながら舞台作品として純粋におもしろいものではなかったと思います。冗談社編集長こと青江冬星の口から魂魄(のようなもの)が抜け出るシーンとか、「あー、あのコマのあのギャグか」というのを思い出したりして、「マンガの絵を思い出させるなんて、うまく料理しているな」と原作を懐かしみながら私はそれなりに楽しめましたが、展開が早すぎて、マンガを読んでいなければわけがわからず、ところどころのコメディ要素も何が可笑しいのかわからないと思います。コミック7巻分を2時間半に詰め込んだのだから仕方がないですが……。

 

 ストーリー展開を追いかけるのが精一杯でエピソードを消化しきれず物語に深みがない――マンガ原作作品にはありがちな問題点ですが、今回の作品もそんな印象でした。しいて言えば、細部はすっ飛ばされていましたが、初めから最後までの流れは維持していたので、「天は赤い河のほとり」よりはまとまっていて、まだマシだったと思います。まあ、「天河」は本編が27巻ありましたから。でも、生まれながらの許婚である少尉(伊集院忍)に初めて会ってからしばらくは反発していたマンガの主人公である女学生――「はいからさん」こと花村紅緒がいつのまにか彼を好きになっているし……、上官の陰謀で少尉が小倉に飛ばされたと思いきや次の場面ではもうシベリアに出兵していて軍曹の鬼島と仲良くなっているし……、マンガを知らない観客で、少尉をあきらめようとした紅緒と冬星の結婚式の時に起こった地震関東大震災だと気づいた人が、果たしてどれだけいたでしょうか。

 

 おそらく、原作ファンとそうでない観客とでは目線が違いすぎて、評価が分かれる作品ではないかと思いました。今回は原作が好きな人ほど評価が高いと思います――ここまでよくガンバったって。ロケット(ラインダンス)でロック調にアレンジされたアニメの主題歌が使われていたのもファンとしては嬉しかったですし。ですが、歌劇作品としての全体的な完成度は「るろうに剣心」や「ルパン三世」「ポーの一族」には遠く及ばず。もっとも、るろ剣とポーの演出はイケコで、外部でも引っぱりだこの宝塚随一の人気演出家である小池修一郎氏の作品と比較するのは気の毒というものかもしれません。

 

 みりお時代から引き続き娘役トップスターである華優希さんは、紅緒役をジャジャ馬としてはよく表現していましたが、なんで周りのみんなが紅緒に振り回されつつも、彼女に惹かれていき、その行動を認めて許すのか、その魅力は出し切れていませんでした。描き切れていないといったほうが正しいのかもしれませんが。冬星役の瀬戸かずやさんは、ビジュアルも含めて適役でした。さすが研17。マイティーも適役でしたが、欲を言えば、マイティーの青江冬星が見たかったですね。冬星は常に三つ揃いのスーツを着こなしているロングウェーブ耽美派美青年なので。頬に傷ありのアウトロー青年である鬼島森吾をマイティーならソツなくこなすことは予想の範囲内だったので。

 

 それにしても花組はコマが少ない! 藤枝蘭丸、北小路環、如月など脇役だけど物語全体を通して欠かせない役は、正直もっと存在感が出せる、スター性のある生徒にやってほしかったです。まあ、いないのだから仕方がありませんが……。今回演じた生徒さんにはたいへん申し訳ないのですが、たいそう物足りなく思いました。「はいからさんが通る」はいわばシリアスコメディなので、コメディ担当で、その役割を担いつつ、時にシリアス部分も見せる彼ら脇役が主役級と同じぐらい重要なので……いうなれば物語を味付けしているスパイスのようなものです。如月の役を、月組の光月るうさんやまゆぽん(輝月ゆうまさん)で観たいと思ってしまいました。ビジュアル的にはレイコ(月城かなとさん)なら少尉役もできそうだし。冬星は以前フェルゼン役をやったあり(暁千星さん)ができるし、環はくらげちゃん(海乃美月さん)、蘭丸は風間柚乃さんで。あ~月組で観たくなりました。雪組でもいいです。ナギショー(彩凪翔さん)の冬星とか見てみたいです。

 

 好き勝手いいましたが、ジェンヌのみなさん、劇場関係者のみなさん、気長に再開を待っていますので、心を安くして、それぞれの健康の維持に努めてください。3月に続き、こと(礼真琴さん)の東京お披露目公演のチケットを今月末に取ってありますが、けっして焦って無理はせずに。誰もが不安のない中で、また素敵な作品に出合えるよう、心から願っています。