羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~物語がおもしろくない作品を無難にまとめた宙組の進化

 10日ほど前に宝塚宙組公演「アナスタシア」を観てきました。ブロードウェイミュージカルで、ロマノフ家がらみのストーリーとくれば、見逃すわけにはいかず、先行予約に申し込んで当たったチケットなので、休演しないかぎり行く予定でした。

 

 元ネタはディズニーの同名映画で、宝塚バージョンは稲葉太地さんが潤色・演出。結論から言えば、可でもなく不可でもないという微妙な作品でした。アニメをミュージカル化した作品としては完成度が高く、宙組のパフォーマンスもよかったのですが、いちミュージカルとしては物語が全然おもしろくない駄作で、宝塚作品としても魅力がないという、ちぐはぐな印象。ロマノフ家を題材にした宝塚作品ならば「ロマノフの宝石」のほうが断然おもしろいし、ゆりか(真風涼帆さん)がトップスターになってからの宙組作品としても「白鷺の城」とか「El Japón(エル ハポン)―イスパニアのサムライ―」のほうがよかったと思います

 

 ストーリーは流れるように展開し、中だるみもなく全体の構成はよいのですが、とにかく肝心の筋がおもしろくない。「だからどうした」という感じ。映画の「アナスタシア」は見ていないので実際のところはどうかわかりませんが、よくこんなつまらない話のミュージカルを作ったなというか、ミュージカル化したなと思いました。音楽や演出などミュージカルとしての完成度が高かっただけに、この音楽や演出で見せるほどの話ではないことが惜しまれました。猫に小判とか豚に真珠といった感じです。音楽も難曲が多く、それでもゆりかをはじめ宙組生はがんばって歌っていましたが、いくらくり返し歌われても歌うのが難しそうだなと思うばかりで耳に残らないのが残念でした。メロディが入ってこなくておぼえられないので、途中から「白鷺の城」のゆりかの歌が頭の中でリフレインしていました。

 

 宝塚のオリジナル作品ではないので主要な役が少ないのは仕方がなく、それでもまだ物語がおもしろければいいのですが、登場人物が少ない上に話がおもしろくないので見どころがなく救われない感じでした。中でも割を食ったのは、主演コンビと敵対する立場の役柄だった二番手のキキ(芹香斗亜さん)で、比較的おいしい役だったのは主演コンビの仲間役だった三番手のずん(桜木みなとさん)。ずんは95期生の中でも後れを取っていましたが、トップや二番手の同期がコロナ禍で足踏みしているあいだに、ステップアップできる役をもらって、一気に差が縮まった気がします。で、主人公ディミトリ役のゆりか、ヒロインであるアーニャ役の娘役トップスター星風まどかさん、グレブ役のキキ、ヴラド役のずん、以上――という感じで、ホントに見甲斐がありませんでした。ヴラド以外はキャラクターとしても魅力がなく、ディミトリは悪人ではありませんが小物で、ゆりかの持ち味を発揮するのが難しく、彼女の良さがほとんど出ていないように思えました。ゆりかの良さはなんといってもビジュアルで、カッコよさであり、美しさなのですが……衣装も振る舞いも地味な役だったので。キキもソロなどを聴いていると「ずいぶん上手くなったよなぁ」と思い、以前キキの下にいた現花組トップスターのカレー(柚香光さん)がトップスターで通用するのなら、キキがトップスターになってもいいのではないかと思いました。しかし今回の役はつまらなく、ソロ以外に見せ場なし。カレーと違いすぎる扱い、開いた差が気の毒になりました。宝塚ではよくあることですが。

 

 宝塚オリジナルではなくても、「エリザベート」や「ロミオとジュリエット」のようにトップコンビと二番手以外にもおいしい役があるミュージカルはたくさんあるので、実に物足りない感じでしたが、あのストーリーをあれ以上のミュージカルにすることはできないと思うので、宙組生はよくやっていたと思います。野球でいえば、日本のプロ野球の上にはメジャーリーグがあり、プロ野球の下には高校野球があり、でも高校野球でもプロ野球やメジャーの試合以上におもしろく十分に感動できる試合があるのと同じで、今回の作品は稀に見る熱戦でいい試合だった高校野球という感じです。選手個人個人にプロ野球で通じる技量があったとしても、戦っているのが高校野球の試合である以上、プロ野球ではないのと同様に、個々のジェンヌのパフォーマンスの出来がどんなによくても元々の作品がエンタテイメントとしては高校野球レベルなので、あれ以上の出来は望めず、したがって可もなく不可もなく、です。ゆりかもキキもブロードウェイミュージカルの役を思った以上にきっちりこなしていましたが、彼女たちは宝塚の男役を演じてこそ光る魅力の持ち主であり、いかにも宝塚の男役という役を演じてこそ輝く役者さんだと改めて思いました

 

 東京宝塚劇場は今年リニューアル20周年で、ロビーの柱に20年間に上演された宙組公演のパネルが展示されていました。その中で一番好きなのが「カサブランカ」です。アニメと実写の差はあれども、こちらも映画が元ネタの作品で、けれどもボギーを思い出しもしないほど、ゆーひ(大空祐飛さん)が完璧にリックでした。ああいう男役の演技とそれがピタリとはまった作品をまた観たいなぁと、幕間のあいだ柱の前で佇みながら、しみじみ思っていました。

f:id:hanyu_ya:20210123180105j:plainゆーひ(大空祐飛さん)がトップの時の作品はクラシコ・イタリアーノ」とか「誰がために鐘が鳴る」とか、印象に残るよい作品ばかりでした

 

 ということで、終演後はかなり消化不良気味だったので、星組ロミジュリはなんとしても観たいと思い、ムラに行こうと決意して劇場を出ました。とにかく舞台も気兼ねなく観に行けるように、早くコロナの感染拡大が落ち着いてほしいです。