羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~上田久美子と望海風斗による化学反応というか相乗効果がもたらした驚きのシンフォニー

 現在日比谷の東京宝塚劇場ではミュージカル「fff-フォルティッシッシモ-〜歓喜に歌え!〜」とレビュー「シルクロード~盗賊と宝石~」を上演中ですが、本公演は雪組トップスターのだいもんこと望海風斗さんのサヨナラ公演で、絶対に見逃したくなかったので、先月1日に宝塚まで遠征して観てきました。東京公演のチケットは激戦で、まったく取れる気がしなかったので……。だいもん率いる雪組は「ファントム」以後チケットが以前にも増して取りにくくなり、前作の「ONCE UPON A TIME IN AMERICA(ワンス アポン ア タイム イン アメリカ)」はチケットが手に入らなくて観られず、前々作の「壬生義士伝」は劇場まで行ったけどチケットを入れておいた財布を忘れて観られずという信じられないヘマをやらかして観劇できなかったので、久しぶりの雪組公演でした。

 

 で、感想ですが、いやもう、すごかったです、「fff」。何がすごいって、熱量がハンパなかった。開演10分で「何じゃこりゃ、宝塚まで来た甲斐があった!」と思い、観終わったときには、それなりによかったと思ったブロードウェイミュージカルをもとにした宙組公演が同じ宝塚の舞台とは思えないほど衝撃を受けていました。「宝塚もここまでできるんだ」という嬉しいショックです。ウエクミこと上田久美子さんの斬新な演出も、だいもんの強烈なパフォーマンスも、やってやろう、挑んでやろう、今までを越えてやろう、見たことがないものを見せてやろうという気概にあふれていました。

 

 ストーリーは取り立てて事件的なエピソードのない、ほぼ歴史どおりにベートーヴェンの一生を綴ったもので、彼がその生涯の中で出会った人間や出来事によって味わうことになった数々の苦悩や葛藤の果てに見い出した歓喜は、運命のすべてを受け入れるということだった――というような内容でした。多分に精神的抽象的観念的なテーマでしたが、終始徹底してそのテーマに沿って進むので、筋は通っていて破綻はありません。けれども、本当にとても難しい作品だと思いました。ある意味ものすごく哲学的なので、最後の歓喜の部分に観ている人が納得する説得力を持たせるためには、そこに至るまでベートーヴェンが辿ってきた具体的な過程とその折々の内面的な心情とその移り変わりをいかにわかりやすく描き出し表現するかが重要。例えればシェイクスピア劇に近い感じで、それに宝塚歌劇に求められる歌って踊るレビュー的な要素と華やかさを取り入れて見せなければならないのですから。そんな冒険的な作品を創ったウエクミさんも天晴れですが、その作品の主人公を演じきっただいもんも見事でした。ウエクミさんもだいもんが主役だから書いた、書けた作品だと思います。彼女の大劇場デビュー作である「星逢一夜」は雪組公演で、だいもんの技量は十分にわかっていたと思いますし。トップスターとして真ん中に立てるビジュアルと華、5組のトップスターで随一の歌唱力、花組で培ったダンス力、そしてシェイクスピアが演じられる演技力と存在感……これらを兼ね備えただいもんがいたからこそ生まれた作品だったと思います。しばらく再演は望めないでしょう。

f:id:hanyu_ya:20210314214826j:plain大劇場内の壁に飾られた、だいもんのポートレート(中央)

 

 「オーシャンズ11」のベネディクト役から注目しはじめただいもん。この公演でトップスターの蘭とむ(蘭寿とむさん)に次ぐ二番手になったかと思いきや、当時すでに月組の準トップだった同期のみりお(明日海りおさん)が同じ花組に異動してきて、一時期番手が下がり不遇な時もありましたが、その後雪組に異動してからは、よい二番手、トップスター時代だったのではないかと思います。みりおよりトップになるのは遅れましたが、確実にみりおより作品にも相手役にも恵まれましたから。みりおは相手役である花組娘役トップスターが3度替わり、コンビとしてがっぷり四つ組むということができなかったように思いますが、だいもんとコンビを組んだ雪組娘役トップスターの真彩希帆さんは、だいもんと同時にトップに就任し、今回添い遂げ退団で一緒に卒業。だいもんの歌唱力を活かすために選ばれた歌ウマさんで、「ファントム」など、この二人だからこそ興行的にも大成功した演目もありました。今回の「fff」もその一つだと思います。本公演で真彩さんが演じたのは人間ではなく、擬人化された“運命”でしたが、澄んだきれいな歌声が人ならぬ存在の雰囲気を醸し出し、“運命”として常にベートーヴェンに寄り添いつつ時に言い争い、次第に馴染んでいく様子には、コンビとしての熟成度を感じました。サヨナラ公演はコロナ禍に見舞われましたが、それでも作品に恵まれ、最後まで相手役に恵まれ、二人ともよいタカラジェンヌ人生だったのではないでしょうか。

 

 さあ、次のトップはいよいよさき(彩風咲奈さん)です。93期生の首席で、研3で新人公演主役を務めた逸材。下級生の頃から抜擢されて、一度の組替えもなく、一度も路線を外れず、雪組のトップになることを約束されて雪組で育てられた雪組の御曹司。あまりに早く抜擢され、黙っていても役が付くので、恵まれすぎているせいか、一時は成長が見られない時期もありました。しかし壮一帆早霧せいな、望海風斗という、その時々の5組の中にあって一番芸達者なトップスターたちを見て育ち、さらに彩凪翔という強力なライバルを与えられて切磋琢磨した結果、ひと皮もふた皮も剥けて、飛躍的な成長を遂げました。最初に驚いたのがチギ(早霧せいなさん)のサヨナラ公演の徳三郎役で、次は「ファントム」のキャリエール役。私が知らないだけで、もっとあったかもしれません。今回演じたナポレオン役も、現実のナポレオンとベートーヴェンが思い描くナポレオンのどちらも演じるという、実像と想像の産物を行き来する難しい役柄でしたが、まったく問題なくこなしていました。実像の時はナポレオンが持っていただろうカリスマ性や存在感をいかんなく発揮し、想像の産物の時はだいもんベートーヴェンと真っ向から対峙する役で、熱量豊富なだいもん相手にまったく引けを取りませんでしたから。元来さきの演技にはインパクトがあり、「ひかりふる路」のダントン役の時にも、だいもんロベスピエールを食ってしまいそうな勢いでしたが、最近はキャリエールのような抑えた役も巧くなり違和感がなく板についてきたので、メリハリがあってとてもよいと思います。だいもんがここまで吹っ切れた芝居ができるようになったのは、さきのおかげだと思います。以前は無難すぎて、安定感はあるけれど少々面白味に欠けるという面が無きにしも非ず――という感じだったので。

 

 最後に、トップコンビと共にこの公演で退団するナギショー(彩凪翔さん)について触れておきたいと思います。雪組における彼女の功績は本当に大きいと思っています。彼女の存在は彩風咲奈を成長させ、その結果、望海風斗をも成長させました。

 

 絶対的なトップスター候補である彩風咲奈が1学年下にいて、彼女を奮起させ花開かせるために、彼女の闘争心を刺激する存在としてナギショーは爆上げされているように見えたので、本人はそれをどう感じているのだろうと思っていたことがありました――逆にこの機を利用してトップ候補に躍り出てやると思っているのだろうか等々……。余計なお世話ですし、杞憂だったかもしれませんが。そんなことが感じられてから、さきとともに注目して見るようになりました。以降、眼福という、男装の麗人を目で愉しむのが男役をメインとする宝塚の大きな楽しみの一つですが、私にとって雪組でその役割を担っていたのがナギショーでした。昔から雪組はどちらかというとビジュアル重視というよりは安定感のある実力派気質の組で、それゆえ一方では地味だとか華がないといわれることもありました。その華の部分を長らく背負っていたのがナギショーだったと思います。和洋問わず何のコスチュームを着ても美しく、しかも品のある美しさで、実に見甲斐がありました。みりおもカレー(柚香光さん)もきれいですが、ナギショーの美しさからは理知的なものを感じます。それゆえ今回演じたゲーテも、ナギショーだったから詩人という芸術家の身分がストンときました。しかも芸術家であると同時に政治家でもあるという、クリエイティブで情熱的な面と怜悧で理性的な面を併せ持つ二面性のある人間としてベートーヴェンを諭す言葉にも説得力を感じました。ショーでは、端整な黒燕尾姿もこれで見納めかと思うとうるっときて、チャイニーズマフィアの彩彩コンビのダンスでは二人のこれまでが思い出され泣けてしまいました。ショーで泣けたのは、まさお(龍真咲さん)とみりおのデュエダン以来ですね。

 

 ちなみに、ショーの音楽は菅野よう子さんが担当。菅野さんといえば、私の好きなSMAPの「gift」の作曲者なので、公演前から大いに気になっていたのですが、いい音楽すぎて、最初のうちは音楽ばかりに気を取られて、だいもん他雪組生のパフォーマンスに集中できなかったので、BGMとしてはいかがなものかと思いました。けれども、次第に溶け合っていき、途中からは音楽が特徴的で適度に主張しているおかげで、ダンスなどのジェンヌたちの動きがその音に合わせて振り付けられていること――ちゃんと合っていることがよくわかっておもしろく、音楽と身体の動きのハーモニーのようなものが感じられたので、よかったです。

 

 次は星組。「エリザベート」の次に好きな「ロミオとジュリエット」なので、こちらも絶対に見逃したくないと思い、再び宝塚まで行くことにしました。今月下旬の遠征なので、31日までの会期で、20日から大感謝キャンペーンが始まるびわ湖大津光秀大博覧会にでも寄ってこようかと思っています。