日曜に宝塚星組公演「ロミオとジュリエット」を観てきました。私の好きな三大ミュージカルの一つで、宝塚での再演は2013年以来8年ぶり、しかも歌ウマトップスターのこっちゃん(礼真琴さん)主演とあっては絶対に見逃せなかったので、先月の雪組に続き再び宝塚まで遠征してきました。
大劇場内の壁に飾られた、こっちゃんのポートレート(中央)
やはり何度観ても名作だと思う完成度の高い作品です。原作はシェイクスピアなので、ストーリーに破綻がなく、起承転結は完璧。ミュージカルになっても間延びするような箇所は一切なく、場面場面がオーバーラップするような演出もあって、たたみかけるように展開していきます。けれども、スピード感があるからといって話がすっ飛んで訳が分からないということもありません。始まりから終わりまでの流れがカンペキです。そして何より、すべての楽曲が文句なしに素晴らしい。単にメロディが美しいだけでなく、耳馴染みがよく、どの曲もおぼえやすいのです。こんなミュージカルは他に「エリザベート」と「オペラ座の怪人」しかなく、その中でもロック調なのは「ロミジュリ」だけ。なので、本当に唯一無二のミュージカルだと思っています。あくまで個人の感想ですが。
ということで、とにかく大好きな作品なのですが、私は月組公演を観てハマり、まさお(龍真咲さん)主演バージョンを2回、みりお(明日海りおさん)主演バージョンを1回観て、さらにDVDとCDを買い、CDを聴きまくって、ここ数年も変わらずにお気に入りとして聴いているので、まさお主演バージョンが基準。そのせいで、今回の公演も時折ついつい比較してしまい、多少物足りなく感じるところがあったので、観劇後すぐに月組のCDを聴きたくなり、帰ってきて聴き直しました。とはいえ、前回の星組再演よりはよかったと思います。星組の再演はまったく印象に残っていないので……「夢咲ねねのジュリエットは苦しいな」と思ったことぐらいしかおぼえていません。ロミオとジュリエットはもちろん、ティボルト、マーキューシオ、ベンヴォーリオ、ロレンス神父、乳母、キャピュレット夫妻、モンタギュー夫妻、ヴェローナ大公、パリス伯爵という、ソロやデュエットがある主要キャストのすべてがそれなりに歌えなければいい舞台にならない、実にハードルの高い演目で、その反面、だからこそトップスターや二番手以外にも見せ場があり活躍できる素晴らしい演目でもあるのですが、記憶にないということは、前回公演はその高いハードルをクリアするものではなかったのでしょう――何分おぼえていないので断言はできませんが。
今回の星組は及第点だと思いますが、足りなかったものを端的に言えばドラマ性で、月組のほうが圧倒的にドラマティックでした。「芝居の月組」なので芝居も表現豊かですが、歌もドラマティック。そもそもトップスターのまさおが「まさお節」と言われたクセのある芝居がかった歌い方ですし。「僕は怖い」なんて、まさにまさお節炸裂で、「そう、友よ聞いてくれ~♪ 僕は見えるんだ~♪ 無頼と放蕩に明け暮れたその先に~♪ 待ち受ける何かは~♪」の「待ち受ける」とか、「君が爪弾くギターの音色~♪」の「君が爪弾く」とかのフレーズがやたら印象的です。一方、こっちゃんが歌うこの歌は、上手いのですが、まさおに比べるとあっさりしているなと思いました。月組の場合、他の組子もみんながみんな特別に上手いというわけではないのですが、かつての月組トップスターのウタコさん(剣幸さん)のように、芝居の歌としての表現に長けているのです。歌いながら芝居をしているというか、歌である前にまずメロディにのせたセリフであることを意識しているというか……。だから歌としてはやや粗雑な発声になったとしても、それも味のように思えて気になりません。ちゃぴ(愛希れいかさん)ジュリエットとかマギー(星条海斗さん)ベンヴォーリオとか、歌う前の芝居が熱いので、歌も勢い余ってという印象で、あくまで芝居の延長という感じ。それに比べて今回の星組は、こっちゃんをはじめ大事に丁寧に歌いすぎていて、歌を歌いこなすこと、上手く歌うことがまず重要という感じが強く、芝居っ気が薄いように思えました。まあ、一人でも歌が下手だなと思うところがあると、観る者はそこで不必要な引っかかりをおぼえてしまい、舞台全体が台無しになる作品なので、慎重にならざるを得ないとは思いますが。
それと、月組バージョンはハーモニーがいいのが特徴。声質や歌い方がバラエティに富んでいるので、合唱したときの声の違いが明らかで、おもしろいようにハモります。じゅんこさん(英真なおきさん)のロレンス神父と美穂圭子さんの乳母は歌ウマの男役と娘役のデュエットなので言うまでもありませんが、このとき就任したばかりの新トップコンビだったまさおロミオとちゃぴジュリエットのハモリもいい。上手いとか下手とか以前に、まさおの歌もちゃぴの歌も大げさなくらい抑揚のある、存在感がある歌なので。
高低差がある男役と娘役のハモリだけでなく、娘役同士、男役同士のハモリもよいのが、月組バージョンの特筆すべきところでもあります。今は宝塚ホテルの支配人である元月組組長のすーちゃんこと憧花ゆりのさんのキャピュレット夫人と、花瀬みずかさんのモンタギュー夫人の娘役同士のデュエットも素晴らしく、花瀬さんの正統派アルトの声にすーちゃんの個性的で独特な声がスパイスのようにきいている、本当に素敵なデュエット。特に花瀬さんはデュエット曲「憎しみ」の出だしである「あなた~たちの~♪」と、エンディング前の「罪びと」の出だしである「息子は帰ら~ない♪ どんなに嘆いても~♪」がすごくよくて、後者はイントロのリズムが始まると、続く歌がわかっていても泣けてきます。この月組の二人に比べると、今回同じ役を演じた娘役さんは歌にも声にも特徴がなく、二人の差もなくて、裏声に変わる高音の出し方もそっくりだったので、歌い手が変わっても変化に乏しく、デュエットの妙味がまったく感じられませんでした。一人一人はそこそこ歌えていましたが。
男役同士は、月組の場合、まさおロミオとマギーベンヴォーリオ、みやるり(美弥るりかさん)マーキューシオのモンタギュー三人組も三者三様の声質なので、一緒に歌っても声が重ならず聴いていて心地よいです。深くて潤いのあるまさおの声、よく通る少々ビブラート気味のマギーの声、男役の中でも低めで一番男らしい(麗しい容姿に反して)みやるりの声……「世界の王」も「街に噂が」も大好きです。特に「街に噂が」はバックコーラス風のハーモーニーが聴きごたえ十分。まさおロミオとじゅんこロレンスの「愛の為に」もいいし。みやるりマーキューシオは、みりおティボルトと歌う「決闘」から「マーキューシオの死」も出色。みやるりの低音はいかにも喧嘩っ早いやんちゃ者らしく、みりおは歌声も役柄と同じく御曹司らしい上から目線のタカビーな貴公子然としていて、この同期デュエットも最高。マーキューシオの「奴は俺を昔から~♪」からの盛り上がりは特にスゴイです。つまり、それぞれの役の性格というか人柄が歌を聴いているだけで伝わってくるのです。その点が今回の星組には足りませんでした。歌そのものはほとんどがソツなく歌えていました。ベニー(紅ゆずるさん)がトップの頃を思えば、組全体の歌が進化していると思います。けれども、ディナーショーやガラコンサートならこれでいいかもしれないが……というレベルで、芝居を伴う歌“劇”としては物足りなかったです。ミュージカル化されて歌がプラスされているとはいえ、古今東西の人間の普遍的なテーマを描いて突きつけるシェイクスピア劇であることに変わりはなく、ロミジュリも単純明快ですが奥が深い物語なので。
歌でも演技でもソツのないパフォーマンスというものは、プロとしてまず手始めに目指すべき目標で、初歩の初歩というか、ほんの第一段階にすぎません。ソツなくこなしているだけでは、観ているほうもおもしろくないものです。こっちゃんはダンス、歌、芝居と三拍子そろった実力者ですが、このあたりを今後の伸びしろと捉えて、組子と共にこれからも精進していってもらいたいですね。どこか昔のだいもん(望海風斗さん)と重なります。だいもんも三拍子そろった優等生でしたが、チギ(早霧せいなさん)やさき(彩風咲奈さん)に比べると個性が乏しく、こっちゃんと違って貫禄や安定感といったものはトップになる前からあったので舞台上で存在感がないということはなかったのですが、観劇後はあまり印象に残らない感じでした。けれども、トップになってからも成長し続けてその殻を破り、今では誰もが認める現宝塚随一のパフォーマーになりました。こっちゃんも現状で満足しなければ、十分その域に至れると思います。
そんなこんなで全体的に物足りなくはあったのですが、今回の公演が一番よかったという役もありました。愛月ひかるさんが演じた「死」です。セリフがない役ですが、メリハリのあるしなやかな体の動きがもたらす見た目のインパクトや目力がすごくて、存在感がハンパなかった。ロミオより見ていたような気がします。自然と目に入ってくるので(笑)。こっちゃんロミオがいささか幼すぎて、「女たちは僕のことを追いかけてくる何もしなくても~♪」というほどモテモテの青年には見えなかったので、余計に「死」のほうに目が行っていたかもしれません。
愛月さんの他には、乳母役の有沙瞳さんも頑張っていたと思います。伸びやかな声質で声量もありド迫力の美穂さんの歌には及びませんが、「やっぱり乳母役は美穂さんでなければ」とは思わなかったので。娘役トップスター候補だと思っていましたが……いつのまにか貫禄がついちゃいましたね。
今回は演出としてイケコ(小池修一郎さん)と共に稲葉太地さんの名があったので、所々よりわかりやすく変化しているのは稲葉演出のせいかと思いましたが、明らかに説明的で、流れの勢いを殺している感じがして、演者に観る者を作品世界に引き込む力があれば不要なものというか、東宝版「エリザベート」でちゃぴ主演に至るまでに行われた改変と同じく蛇足のように思えました。
以上、「ロミジュリ」愛が深すぎていろいろと書きましたが、印象が薄くてまったく記憶にない2013年星組公演に比べれば、本公演のほうが断然好みです。役作りが幼くはありましたが、2013年に主演したチエ(柚希礼音さん)よりもこっちゃんのほうがはるかにロミオは適役だと思いますし。ただ、優等生のこっちゃんが率いる現星組のカラーが出た、優等生的なロミジュリでしたね。それゆえ、その枠を超えた愛月さんのパフォーマンスが光って見えたのでしょう。この公演も役替わりがあり、今回観なかったAパターンでは愛月さんがティボルトを演じているので、もう一度東京で、今度はAパターンを観たいですね――愛月ティボルトは絶対にハマリ役だと思うので。残念ながらチケットが取れる気はしませんが。雪組の東京公演は平日のマチネがなんとか手配できました。来月、最後のだいきほを堪能してきます。
大劇場で買ってきたお土産。荷物になるので開演前から終演まで買うかどうか悩みましたが購入しました。
なんと大劇場限定販売のロミジュリ特別パッケージの「萩の月」6個入りです(笑)。東北に行ったら必ず買ってくる大好物なので、見つけた以上買わずに帰ることはできませんでした。こっちゃんがCMキャラクターをつとめています。