羽生雅の雑多話

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井上芳雄、明日海りお、浦井健治、望海風斗の豪華すぎる競演~帝国劇場「ガイズ&ドールズ」感想

 暑いです・・・6月で36度とは。いやはや、今からこれでは夏本番が思いやられます。

 

 さて、二週連続で帝国劇場で上演中の「ガイズ&ドールズ」を観てきました。この作品は、みりおこと前宝塚花組トップスター明日海りおさんと、だいもんこと前雪組トップスター望海風斗さんが共演する二人の帝劇デビュー公演で、主演はミュージカル界のプリンス、井上芳雄クン。しかも、芳雄クンがもう一人のプリンス、浦井健治クンと「ニ都物語」以来9年ぶりにミュージカルで共演するという見逃しがたい公演でもあります。行かないという選択肢はなく、これは絶対に見そびれるわけにはいかないと思い、ぴあとイープラスでチケットを申し込んだら、どちらも当たったので2回行くことに。今後いつ実現するかわからない豪華キャストだったので、観ておこうと思いました。

 

 2回とも平日のソワレだったのですが、1回目は東急プラザでシャンパーニュを飲みつつ腹ごしらえをして行ったら2分ほど開演に遅れて、席に案内してもらえるまでモニターの前で待機、2回目は腹ごしらえをしていたら間に合わないので幕間に何か食べるつもりでいたら、売店は水分補給のためのペットボトルしか売っていなくて、仕方がないので劇場2階にあるカフェインペリアルへ行き、軽食を摂ることにしました。ところが、こちらも現在はメニューがチョコスコーン&ドリンクセットのみ。菓子みたいなものはあまり食べたくなかったのですが、空腹よりはマシと思い、案内待ちの列に並ぶと、運悪く私の前でちょうど満席となり、席が空くまで10分ほど待たされることに。コーヒーはなんとか飲み終わりましたが、スコーンは全部食べ切れず、コーヒースプーンとともに持ち帰りました。

「帝国劇場」の文字入りスプーン。コーヒーや紅茶などのホットドリンクを選ぶと付いてきて、持って帰ることができます。昔トロイで買ってきたスプーンが最近折れて使えなくなったので、代わりにちょうどよいと思いました。写真でスプーンの上に写っているのが、その残骸なのですが、見たくて見たくてトルコまで見に行ったトロイの木馬なので、捨てるに捨てられないでいます(笑)

 

 演目の「ガイズ&ドールズ」は1950年初演のブロードウェイミュージカルで、宝塚でも何度か上演されていますが、映像でしか観たことがなく、生で舞台を見るのは今回が初めて。で、1回目を観たときは、ストーリーがあまりにお粗末なので、「こんな内容だったっけ? 出演者の質は高いけど、作品としてはつまらん。みりおとだいもんの無駄遣い」と思いました。宝塚バージョンに対してはそれほど悪い印象がなかったので、何故なのか考えたら、宝塚はギャンブラーたちが総じてカッコよかったからだという結論に至りました。スーツ姿の男役のビジュアルが目で楽しめたので、作品の印象も悪くなかったのだろうと……。そう思い至ると、同時に、物語が薄っぺらい話だからこそ、余計に演者の高いパフォーマンスが必要で、それがないと成り立たない、役者の技量が求められる難しい作品だとも思いました。

 

 ということで、ストーリーがくだらない上にビジュアルが宝塚より劣ることを念頭に置いて観劇した2回目は、演技と歌、演出に集中できたので、それなりに楽しめました。内容がないストーリーではありますが、それゆえ単純でわかりやすくテンポよく進んでいくので、改めて誰もが小難しいことを考えず気楽に楽しめる作品だとわかりました。以前芳雄クンと浦井クンが共演したディケンズ原作の「二都物語」を私も観たのですが、あれはヒロインがすみれさんだったこともあり、ミュージカルとしての出来は正直微妙でした。それに比べれば、間違いなく「ガイズ&ドールズ」のほうが広く一般受けする完成度の高いミュージカル作品だと思いました。見せる側にとっては難しく、見る側は気楽に見られる、そんなある意味奥が深い作品だからこそ70年も残ってきたのでしょう。

 

 スカイ・マスタースン役の芳雄クンとネイサン・デトロイド役の浦井クンはさすがで、安定のパフォーマンスでした。芳雄クンを生で観るのは「エリザベート」のトート役以来、浦井クンを生で観るのは「王家の紋章」のメンフィス役以来です。今回の浦井クンは歌だけでなく芝居もよかったです。婚約者のアデレイドやギャンブラー仲間を口先で言いくるめる役なので、かなり早口でセリフ量も断トツに多いのですが、滑舌の良さが絶品でした。芝居がかった口ぶりの「アーデレイド!」の呼びかけは、そのひと言に家庭に縛られたくない身軽でいたいチャラ男でありながらも彼なりに真剣に婚約者を愛しているネイサンという人物のキャラクターがとてもよく現れていました。しかし、なんといっても一番の見所は、主役の芳雄スカイが「幸運の女神よ」を歌う場面。抑揚のつけ方なんか鳥肌が立ちましたね。歌の強弱で場の緊張感を高めることができるなんて、井上芳雄ならではだと思います。芳雄クンと浦井クンは元男役トップスターのみりおやだいもんよりも背が高いので、それもよかったと思います。

 

 他には、ナイスリー・ナイスリー・ジョンソン役の田代万里生さんが出色でした。他のギャンブラー役は役名はあってもモブ感が大きいのですが、彼だけはどの場面でも輝いていて目を引き、歌と振付のノリというか、聴かせるところ見せるところのバランスがよくて、一番ブロードウェイミュージカルスターに近い雰囲気を漂わせていました。この人も浦井クンと同じく「エリザベート」のルドルフ役で初めて観て、その時から注目してきましたが、いいミュージカル俳優になりました。芳雄クンと同じ芸大出身の万里生クン。最初の頃はオペラ歌手がミュージカルに客演という感じでしたが。

 

 浦井ネイサンの婚約者であるアデレイド役のだいもんについては、宝塚の「ファントム」や「fff」で聴かせてくれた私の好きなだいもんの歌は聴けませんでしたが、男役の時には想像もしなかった新しい歌い方や芝居を見せてくれて、本当に芸達者だなと思いました。ショービジネス界で活躍するスター性のあるアクの強い女であり、それゆえいかにも学のなさそうな、親に見栄を張って現実とはかけ離れたウソの手紙を書いてしまう考えなしで憎めないコケティッシュな可愛い女であり、長い婚約期間にストレスをためる疲れ切った年増女でもあるアデレイド。アデレイドが持つこれらの一面をだいもんはきっちりと表現してくれました。上手すぎて、これが帝劇デビュー作品なのに、もはや常連出演者みたいで、新鮮味はないなと思うぐらいに……。もともと宝塚時代から芝居には定評があった人です。女優としてもいろいろな役への可能性が感じられ、これからもっともっと引出しを開けて見せてほしいと思いました。

 

 芳雄スカイの相手役で本作のヒロインにあたるサラ・ブラウン役のみりおは高音が苦しくて、井上、浦井、望海の歌のレベルが高いだけに、歌の弱さが目立ち、気になりました。特に、芳雄クンとのデュエットが苦しかったですね。だいもんとのデュエットはまだよかったので、苦手な高音を無理に出そうとしているのがよくないような気がしました。男性と女性の声は違うので、女性同士が歌う宝塚の男役と娘役のデュエットは明らかにキーの高さを変えなければきれいにハモれませんが、異性のデュエットではその必要はなく、みりおもアルトの声のままでいいのではないかと思いました。

 

 ただ、みりおの凄さは、やはり際立って華があることです。だいもん演じるアデレイドはショーガールなので、衣装をとっかえひっかえする上に、どれもこれもがキラキラコテコテの衣装ですが、みりおが演じるサラはシスターなので、芳雄スカイにハバナに連れていかれるとき以外は伝道師の制服。それでも、派手なだいもんの存在感に負けないところが、みりおの凄さだと思いました。舞台において華やかな存在感と清らかさを共存させる器量は、花ちゃん(花總まりさん)に通じるような気がします。宝塚のトップスターだった女優のすべてが持っているものでも、持てるものでもありません。それゆえいまだに花總まりは重宝されているのでしょう。

 

 歌の技量も、輝かしい実績から生まれる自信とその自信に支えられた舞台上の存在感も群を抜いている芳雄スカイと、ミュージカル界の第一人者である井上芳雄に近しい実力と実績を誇る浦井ネイサン、そして、宝塚トップスター時代は5組の中でも随一の存在でトップ・オブ・トップといって差し支えなかった望海アデレイドと向こうを張ることのできる、彼らに交ざって舞台で埋もれない、かつ魅力的だと思えるサラ・ブラウンを演じられるのはみりおか、ちゃぴ(愛希れいかさん)ぐらいではないでしょうか。力量的にはちゃぴがサラ役でも全然問題はないと思いますが、彼女は芳雄クンと「エリザベート」で組んでいるので、ちゃぴ&芳雄の主演コンビで他の作品を演じられたら混乱するとか、受け入れられないという人もいるかもしれません。なので、歌に多少難はありましたが、サラ役はみりおで正解だったと思います。

 

 今回は演出も変わっているらしく、全体を通して盆の使い方が巧みで、ハバナで乗った飛行機のタラップが、盆が回って一周すると、帰ってきたニューヨークの地下鉄の階段に変わっていたりするなど、場所だけでなく時間の経過を見せるのも上手いなと思いました。場面転換が流れるようでした。

 

 この公演は出演者にコロナ陽性者が出て、21日と22日の3公演が中止となりました。幸い私は該当しませんでしたが、私のヅカ友はちょうど当たってしまい、観られませんでした。本公演のチケットの売れ行きはチェックしていないので詳しくは知りませんが、公演期間が1か月と短く、私が観た日は見える範囲に空席はなく、補助席まで売り出されていたので、改めてチケットを取り直すのは難しいと思います。そんな人気作品を2回観られてラッキーでしたが、これで運を使い果たしたのか、花組月組の東京公演のチケットが取れず……観たい公演が1回ずつ観られるといいのですが、うまくいかないものです。

 

※6月28日追記

 「ガイズ&ドールズ」の帝劇公演は、再び関係者にコロナウィルス陽性反応者が確認され、21、22日に続いて、26日から6日までの休演も決まりました。公演は7月9日までなので、2回観られたのはかなりラッキーだったと思います。それと同時に、今の時期につつがなく公演を行うことは本当に難しいのだと思いました。