羽生雅の雑多話

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兵庫寺社遠征 その1~円教寺

 昨日一昨日と輪島と金沢で仕事だったので、今日は白川郷に行き、8時過ぎに帰ってきました。白川郷の記事はそのうち書きますが、まずは3連休に書きかけて途中で終わっている兵庫遠征記をこの土日で仕上げたいと思います。

 

 さて、姫路城を見たあと、プレミアムナイトツアーまで時間があったので、西国三十三所第27番札所である円教寺に行ってきました。草創1300年記念行事を機に西国三十三所巡りもしているので、次に姫路を訪れたときには必ず円教寺まで足を延ばさなければならない、それも記念行事が終わる2023年3月までには――と思っていたところに姫路城の特別公開があったので姫路行きに固執していたのですが、今年の夏はとんでもなく暑く、姫路城だけならまだしも、高低差があり広い書写山の境内を歩いてまわるのは相当厳しいだろうと思ったので、お盆休みの姫路遠征は断念した次第です。

 

 で、9月に仕切り直したわけですが、まだ日中は28度ぐらいあったので快適とは言えず、しかし歩くのが苦というほどの気温ではないので、当初の予定どおり奥の院まで行くつもりで大手門前バス停へと向かいました。書写山ロープウェイ行きのバスは1時間に3本で、次は姫路駅前発が12時35分だったので、その2、3分後のはずでしたが、バス停の前に鱧や牡蠣を食べさせる魅力的な店があり、客もひと組いるだけで席も空いていたので、急きょ昼食を摂ることに。店の前の看板にあった鱧の蒲焼き丼を食べるつもりでしたが、席に着いてメニューを見せてもらうと、気になるものが他にもたくさんあり、ちょうど暑くて喉も渇いていたので、レモンサワーを頼み、すべて単品でつまむことにしました。プレミアムナイトツアーにはコース料理が付いていましたし。

鱧の蒲焼き風。養殖鱧についての説明も一緒に出てきました。

蒸し牡蠣。あまりに美味だったので、焼き牡蠣も頼んでしまいました。

マアジのハンバーグ

食事をした「はりかい」。大手前通り沿いの店なので、席によっては姫路城を見ながら一杯飲めます。私は人通りを避けて、家老屋敷跡公園に近いほうの席で、大通りを見ながら飲んでいましたが。

 

 どれもこれも好みの味だったので、レモンサワーをお代わりし、すこぶる上機嫌で店を後にしました。結局最初乗るつもりだったバスより2本遅いバスに乗り、30分ほどで書写山ロープウェイバス停に到着。姫路城に行く前に姫路駅構内にある観光案内所に寄り、そこで教えてもらったバスとロープウェイのセット券を駅前のバス案内所で買っていたので、直接乗り場に行ったのですが、15分ごとの運行で、ちょうど行ったばかりで次の出発まで10分ほどあったので、外にあったトイレに寄ることに。外観が銭湯の玄関風で中も広い、姫路城より入りやすいトイレでした。姫路城ではトイレに入らなかったので、中の様子は比較できませんが。

書写山山内図

 

 14時発のロープウェイに乗り、下車して道なりに歩いて入山受付に着くと、入山料は500円でしたが、別途500円の特別志納金を納めると観音堂の摩尼殿までシャトルバスで連れていってくれるそうなので、計1,000円を納め、すでに待っていたマイクロバスに乗車。奥の院まで行くので極力体力を温存したく、文明の利器の力を借りることにしました。入山受付から摩尼殿までは歩くと25分ぐらいで登り坂。500円で登山を省略して楽ができ、20分を短縮できるのなら安いものです。時間も体力も限りがあるものなので。

 

 円教寺は「西の比叡山」とも呼ばれる天台宗の別格本山で、比叡山伯耆大山と並ぶ三大道場の一つです。標高371メートルの書写山の山上に広がる境内は東谷、中谷、西谷に区分され、西国三十三所札所の中でも最大規模を誇るとのこと。映画やドラマのロケ地としてもよく使われ、トム・クルーズ主演の「ラストサムライ」などもこちらで撮影されました。実際に羽柴秀吉の中国攻めにあたっては境内に陣がしかれたそうなので、これ以上ないロケ地だと思います。開山は性空上人で、上人が康保3年(966)に入山し、西谷に庵を結んだことが当寺の起源。入山受付でもらったパンフレットによれば、摩尼殿の本尊は如意輪観音で、御本尊の像は上人が根のある生木の幹に彫ったものだそうです。現在年に1回公開しているのは、この像を模して昭和時代に造られた像らしいですが。

摩尼殿。独特の舞台造りです。

円教寺の案内図

摩尼殿からの景色その1

摩尼殿からの景色その2

久しぶりに凶を引きました。「万事我たのみにおもふものにうらぎりせらるるかたちなり」……つい最近思いあたることがあり、かなり凹みました。おみくじ、侮れず。

 

 観音様にお参り後、御朱印をいただくと、性空上人が悟りを開いたという白山神社に行こうとしたのですが、山道で険しかったので途中で断念し、三つの堂へ。三つの堂とは大講堂、食堂、常行堂のことで、いずれも国の重要文化財です。大講堂の裏山には白山神社に通じる道があり、この山道はまだ歩けたので、白山神社まで行って同じルートで戻ってきました。靴などの装備がしっかりしていれば、摩尼殿の横から白山神社を経由して大講堂の裏に抜けられ、同じ山道を引き返すようなつまらないことをせずに済んだのですが、仕方がありません。夕食がレストランでコース料理なので、山登りスタイルというわけにはいきませんでした。

白山神社

白山神社についての説明板

白山神社の隣にあった末社。本社も末社も山の中にあります。

 

 白山神社の説明板によると、性空上人の入山以前からこの地には素戔嗚尊を祀る堂があり、その起源は神代に素戔嗚尊が一宿したからとのこと。ゆえにこの山を「素戔の杣」と呼び、書写山の名はそれに由来するといわれているそうです。つまり、素戔の杣=スサノソマ=ソサノソマ=ソサノヤマ=ショシャノヤマ=書写山と転化したということなのでしょう。素戔嗚=スサノオ=ソサノヲなので、スサ=ソサの転化はよく見られますが、ソサ=ショシャならば、かなり訛った転化です。ともあれ、性空上人はソサノヲゆかりの地であることを知っていて、それゆえに他でもないこの山を修行の場に選んだことはまず間違いないと思うので、古刹が存在する地にはやはりそこが選ばれた理由があり、古代の神々の聖地である可能性が高いことが今回も認められました。比叡山はヒヱノカミ=比叡神=日枝神=日吉神ことヤマクイの聖地であり、高野山はタカノカミ=高野神ことイブキドヌシの聖地、西国三十三所の札所である長命寺観音正寺には磐座があるので、こちらも神代の聖地であり、中山寺にも古墳があったので古墳時代の聖地です。

 

 三つの堂の食堂内は宝物館で、仏像や鬼瓦などの寺宝が展示されていて、無料で自由に拝観できるようになっていました。

大講堂。左は食堂。

食堂。圧巻の建物でした。

食堂2階から見る大講堂

食堂2階から見る大講堂と本多家墓所

円教寺の年譜。今年のNHK大河ドラマは「鎌倉殿の13人」ですが、元暦元年(1184)には、源頼朝が平家追討祈願のため梶原景時畠山重忠らを遣わし不断経を読ませたそうです。

食堂の前にある本多家墓所。姫路城オーディオガイドに登場した本多忠刻と宮本三木之助の墓もここにあります。

本多家墓所についての説明板

奥の院の開山堂(左奥)と不動堂(右)。開山堂も国の重要文化財です。

奥の院の開山堂と護法堂(右の二つ)と護法堂拝殿(左手前)。両護法堂も護法堂拝殿も国の重要文化財です。

 

 奥の院から金剛堂、榊原家墓所、鐘楼、松平家墓所などを見て、再び摩尼殿の下まで来ると、バスは往復乗れるのですが、時間的に余裕があったので、帰りは歩くことにしました。摩尼殿前にある端月茶屋の脇道を通り、十妙院、金輪院、壽量院などの塔頭を横目に見つつ、仁王門、入山受付を通り抜けてロープウェイ乗り場へ。

十妙院の説明板。赤松満祐ゆかりの寺院が残っていて、それが西国三十三所札所の塔頭で建物が重要文化財だなんて、少々驚きました。六代室町将軍である足利義教を暗殺した人物なので……。非は義教にあり、満祐は被害者ということで、ゆかりの寺院が維持されて残ったのでしょうか。

仁王門

東坂から見える景色

入山受付の近くにある看板。行きは気づきませんでした。

 

 入山受付の近くにあった看板の説明によると、書写山和泉式部と縁が深く、一条天皇中宮藤原彰子性空上人の教えを受けたくて書写山を訪れたときに、上人は権力者と関わりたくなくて居留守を使って面会を回避したので、中宮は失望して山を下りようとしましたが、側仕えの女房であった和泉式部が上人に歌を届け、その歌に感銘した上人は、中宮のために仏の道を説いた――とのことです。そのとき上人に送られた歌が「冥きより 冥き道にぞ入りにける 遥かに照らせ山の端の月」。恋多き女性で恋歌の秀作が多い和泉式部ですが、この歌の作者だからこそ間違いなく名歌人だと私が認める和泉式部の最高傑作です。この歌を贈られた性空上人が折れて中宮に面会したというのが実に現実的で、上人の心境がよくわかります。上人は橘氏の出身で出家前は都の貴族だったそうなので、文化的素養があり、歌の心を汲み取ることができる人物だったのでしょう。

和泉式部の歌の逸話を伝える看板。『拾遺和歌集』の詞書には「性空上人のもとによみてつかはしける」とあるだけで、場所も、性空上人が何者かもわからなかったので、大好きな歌ですが、書写山が関係しているとは今の今までまったく知りませんでした。

 

 1300年記念特別印入り御朱印をいただき、ソサノヲの聖地であることが確認でき、赤松満祐や和泉式部の意外なエピソードを知り、たいそう実のある参詣だったと大満足で、16時15分発のロープウェイに乗車。35分発の姫路駅北口行きバスに乗り、好古園前バス停で降りて、プレミアムナイトツアーの集合場所である姫路城迎賓館へと向かいました。