羽生雅の雑多話

引越してきました! 引き続きよろしくお願いします!

半分以上が自叙伝ポエムの壮大なファンサ~羽生結弦 ICE STORY 2023「GIFT」at 東京ドーム感想

 3月になりました。例年どおり一か月以上前から花粉症になっていたのですが、急に暖かくなった数日前からクシャミ、鼻水、目のかゆみが酷くなり、たいそう難儀しています。症状に波はありますが、これがゴールデンウイーク明けまで続くのですから、毎年のこととはいえ、困ったものです。

 

 さて、先月は、月初に仕事仲間と箱根の仙石原に行く予定があったのですが、当日ロマンスカー箱根湯本駅に着いたとたん具合が悪くなり、貧血で顔面蒼白、冷や汗ダラダラ。数時間経ってようやく歩けるぐらいまで回復しましたが、仙石原まではとても辿り着けそうになかったので、あきらめて一人で帰ってきました。そんなことがあったので、飛び石連休も関西に行くつもりだったのですが、中止することに。宝塚の東京公演のチケットが2公演続けて取れず、星組花組を見逃したので、平安時代が舞台の月組は絶対に見逃したくないと思い、大劇場のチケットを取っていたのですが、友人が東京公演のチケットを平日のマチネではありますが私の分も手配してくれ、大劇場のチケットもリセールに出して売れたので、予約していたホテルをキャンセル。当初の予定どおり24日の金曜は仕事を休んで4連休にし、懸命に体調維持に努め、26日に参戦してきました、東京ドーム。

会場入り口の22番ゲート上の電光掲示

 

 平昌オリンピック後の進化によって、ここ数年ようやく「頂点を極めた者にしか見えない、辿り着けない、頂のその先にあるスケート」を見せてくれるようになったユヅこと羽生結弦氏。ライバルは過去の自分という領域に達した者だけが見せられる、より洗練されたパフォーマンスにやっとなってきたなと嬉しく思っていたら、現役引退の知らせ……。残念ながら、競技生活を離れてしまえばスケーティング技術はともかくジャンプなど大技の技術は衰えていく一方なので、選手時代の演技がまだ可能なうちに生で観ておきたいと思い、一か八かでチケットの抽選を入れました。東京ドームなら近いし、東京ドームに初めてアイスリンクを作るというのも、どんなものか見てみたかったので。

 

 で、めでたく当選したので行ってきたのですが、はっきり言って、かなり退屈なショーでした。半分以上ユヅが自分で自分のスケート人生を語るポエムだったので。過去のプログラム演技➡演技時間以上のポエム➡演技➡ポエムのくり返しで、「アイスショーを見に来たつもりだったけど、ファンの集いに参加しちゃったよ、トホホホ」という感じ。私は羽生結弦ではなく羽生結弦のスケートが好きなので、「こんなにポエムを聞かされてもなぁ」と思ってしまいました。五輪2連覇を達成した人です。並々ならぬ努力をし、その陰で人一倍苦しんだであろうことは、ここで改めて語られなくても容易に想像がつきますから。そんな思いも、スケートに込めて氷上でなら存分に表現してくれてかまわないのですが、言葉で滔々と語られてもな……朗読が上手いプロの役者でもイケボというわけでもないし。まあ、スケーターの出演者が羽生結弦一人だけで、ユヅが滑り続けられるのが、せいぜいプログラム1本+αなので、こういう構成になるのも当然かとなかば納得しながらも、「この調子で何時までやるのだろう」と頻繁に時計を見、会場は暗いしポエムの内容も暗いので、気が付くと頭がカクンと下がっていて拍手や歓声でハッとして顔を上げる、の連続。起きているときは遠いリンクを見つめながら、自然といろいろ考えてしまいました――「『氷艶』のほうが断然おもしろくて、コスパもよく、エンターテインメントとして完成度が高かったな」等々。

 

 披露された演技はほとんど過去に試合で使っていたプログラムで、ユヅらしいといえば実にユヅらしいのですが、もはや競技ではないのに一切妥協せず、試合と同様にクワドもアクセルもやっていました。ショーでは珍しいそれらの高難度ジャンプを見られたのはとても嬉しかったのですが、心配したとおり、ベストの状態は長続きせず、第二部で演じた「オペラ座の怪人」ではジャンプをミスっていて、明らかに疲れているように見えました。羽生結弦が手を抜けない人間であり、フルスロットルの前半を考えれば、時間とともに疲労が募ってきて後半はクオリティダウンすることは十分事前に予想でき、それを見越してあらかじめ対処はできるはずなので、「これはオペラやバレエ公演並みのお金を取るエンターテインメントのショー構成としてはどうなんだろう」と思いました。一人でやり遂げることは素晴らしいことですが、ここまで大がかりで、多くのスタッフの力を借り、これだけの観客を動員するからには、もう少し完成度の高いショーを見せてほしかったです。ショーの半分以上がスケートとはほぼ関係のない映像を流しながらのポエム朗読の上、整氷休憩が40分というのは、アイススケートのショーとしてはあまりに密度が薄すぎて、高いチケット代に見合っていないと感じました。これぐらいの金額を取らないと、東京ドームに氷は張れないのだろうとは思いましたが。

 

 また、今回演技を続けて見たことによって、羽生結弦の演技はどれもほとんど同じであるとも感じました。リンクが遠かったせいもあるかと思いますが、たとえスタンドA席からの観戦であっても、各スケーターが滑るスケートの違いや演技のテイストの違いはわかります。けれども、ユヅの演技は音楽が異なるだけで、基本的に同じで、見せ場が高難度ジャンプとイーグルとハイドロ、それと恵まれた体形を活かしたルックスの美しさを見せつける演技。なので、彼の演技が好きな人は何を見ても気に入るだろうけど、私は「ノッテ・ステラータ」が終わったところで気が済んだというか、規制退場に引っかかって足止めを食らうくらいなら「あとはもういいや」という気になったので、混雑を避けてひと足早く退場しました。そして家に帰るなり衝動に駆られて、髙橋大輔氏の「道化師」「道」「ブルース・フォー・クルック」 「eye」「オペラ座の怪人」「スワンレイク」の動画を立て続けに視聴。リアルタイムでテレビか生で観戦しているし、今までに何度もYouTubeなどにアップされている動画を再生して見ている演技ですが、今見ても見入ってしまい、やはり私にとってのベストスケーターは大ちゃんだと再認識しました。今は見入るぐらいで済んでいますが、リアルタイム観戦の時は手汗をかいていたり、身震いしていましたから――バンクーバー五輪の「道」とか、世界フィギュアの「ブルース」とか、全日本の「道化師」とか。

 

 ということで、私にとっては、熱烈なファンでもないのにファンミーティングに参加してしまったような、場違いなところに来てしまった感のある少々座りの悪い微妙なアイスショーではありましたが、後ろの席は何語かわからない外国人でしたし、前の席はシニアの女性4人組で「感激しちゃって涙出る~」とか言っていたので、感動した人もきっとたくさんいるのだと思います。多様な国籍、年代を問わない人々を惹きつけ、感動を与えることができる羽生結弦というスケーターは間違いなく稀有な存在であり、文句なく凄いし、尊敬に値すると思っていることは紛れもない事実です。今回のショーも、これはこれで、新たにいくつかの発見があった貴重な経験だったので、結果的には行けてよかったと思っています

 

※3月4日追記

 平日は時間がないので、たいてい一週間分の新聞を週末にまとめて読むのですが(それゆえ遠征があると、ものすごい溜まる)、「オペラ座の怪人劇団四季ロングラン・キャスト」を聴きながら3月2日の朝日新聞を読んでいたら、「GIFT」についての全面記事(羽生結弦氏と黒柳徹子氏の5段広告含む)がありました。それによると「約3時間にわたるショーで貫いたテーマが「ひとり」と「夢」」だそうで、「自分の歩みを物語風に描いた」前半と「リアルに自分を掘り下げた」後半に分けられていたそうです

 

 その記事の中に、「フィギュアスケートの中に『羽生結弦』という新しいジャンルのエンターテインメントを作れた。これからどう進化させていけばいいのかという思いは正直ある」という文があり、カッコ書きだったのでユヅ本人のコメントだとすれば、言い得て妙だと思いました。確かに、「羽生結弦」は今やエンターテインメントの一ジャンルで、それゆえ彼は、「羽生結弦」というエンターテインメントが観客の期待を裏切らないためにはどう進化していけばいいのだろうと考えているのでしょう。そこに他のフィギュアスケーターの存在はありません。競技選手を終えたあとのスケーターたちのセカンドキャリアの可能性を模索して『氷艶』を試みた大ちゃんとは真逆の方向性だと思いました。競技人生後のスケーターの“セカンドキャリアの模索”という意味では共通項があるかもしれませんが。まあ、仕方がないです。ユヅがやっているのは「羽生結弦」というジャンルのエンターテインメントなので……。それは今までにない新しいジャンルであり、かつ他の誰にもできないジャンルなのだから、支持してくれる人がいるかぎりその道を邁進していけばいいと思います。