羽生雅の雑多話

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2023世界フィギュア感想とロシア勢不在について思うこと

 前回の記事の最後に触れましたが、昨日はさいたまスーパーアリーナ世界フィギュアアイスダンスフリーと男子シングルフリーの試合を観てきました。いつもは夕方から始まる試合の第3グループぐらいから観に行くのですが、今回は昼過ぎの12時半から始まるアイスダンスフリーの第2グループから観はじめ、最終滑走者のショーマが終わったのが夜の9時半という長丁場だったため、2回ほど会場の外に出て休憩をしました。よって全部の演技は観ていません。

25日の滑走順リスト

 

 アイスダンスはすごい試合で、かなだいこと村元哉中&髙橋大輔ペアは初めてノーミスの演技を披露してくれたのですが、その後に演技をしたペアも立て続けにシーズンベストを連発で、ミスらしいミスをしたのが、金メダルを獲ったマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組ぐらい。ただし、このペアは転倒で1~2点減点されても優勝は決まりだろうと確信できる圧倒的な内容でしたが。

 

 それに比べると、ショーマこと宇野昌磨選手は、男子フリーで2連覇を達成しましたが、5回挑んだ4回転ジャンプの精度が低く、ベストには程遠い出来でした。怪我の影響もあったのでしょうが。規制退場だったので、遅くなるのと混雑を避けてショーマの得点は見ずに会場を出ましたが、正直なところ、フリーは直前にほぼノーミスで演技をしたチャ・ジュンファン選手にかわされたかと思いました。ショートの貯金があるので、優勝はできるだろうと思っていましたが、帰りにスマホで確認して金メダルを獲れたことを知ったときには、ホッとしました。チョック&ベイツ組のように1~2点引かれても勝てるというような余裕はなかったので。帰宅して改めて調べると、フリーの得点は196.51で、ジュンファンとは0.12点差という僅差。「かわされたか」という感想がそれほど的外れでもなかった、ギリギリの1位でした。ショーマは今シーズン、ネイサンやユヅに対抗できる高難度のプログラムを作り、シーズンを通して滑り込んで自分のものとし、格上の二人がいないシーズンとなろうともレベルを下げるという安全策を取りませんでした。今大会も、本調子でないながらも、今シーズンやると決めた5本の4回転をダウングレードせずやり遂げました。それが最大の勝因だったと思います。

 

 まあ、一方のジュンファンも、ノーミスではありましたが、振付がない部分の手の使い方などがまだまだ甘く、言葉は悪いですが、出来の悪い羽生結弦を見ているような印象。しかも音楽が007で、「ユヅタイプのジュンファンにキムヨナの勝利の方程式を持ってきたら勝てると思ったのか、ブライアン。韓国の選手だからって、いくらなんでもそれは安直だろう」と思いました。ジュンファンのコーチで、キムヨナ、羽生結弦を育てた名伯楽のはずのブライアン・オーサー氏のらしくない稚拙な戦略のせいもあってか、ショーマに比べるとこれがチャ・ジュンファンのスケートという個性があまり感じられなかったので、金メダリストになるためにはもう少し精進が必要だと思います。ともあれ、銀メダル、おめでとう!

 

 そういう意味では、やはり群を抜いて素晴らしかったのが、ジェイソン・ブラウン選手。彼のコーチもジュンファンと同じブライアンですが、ブライアンに師事したときには、すでにジェイソンのスケートはできあがっていたので、あまり大きな影響は受けず。今回は総合5位でしたが、彼には4回転ジャンプがないので仕方がありません。それでもフリーの演技構成点は95.84で、金メダリスト宇野昌磨選手の93.38を超えて断トツの1位。バレエジャンプやスピンの時のキャッチフットのフリーレッグの脚の伸び方など誰も比較にならないほど美しすぎて、かなだいの演技に続いて泣きました。バレエのようなスケートは、もはやアートだと思います。北京五輪以降、競技活動を休止していたジェイソン。全米選手権で復帰し、世界選手権の代表権を手に入れ日本に来てくれて、現役を続けてくれて、本当にありがとう。

 

 ジェイソンの次に滑ったケヴィン・エイモズ選手もよかったです。プログラムの持つ世界観を一番表現していたのは彼でした。スケーティングも個性を発揮していましたし。スピンなど独自性の高い技が随所に見られました。技術点、演技構成点、完成度のバランスが一番取れていたのは彼の演技だったと思います。グラディエーターという役柄も彼に合っていましたし。エイモズ選手はフランスの代表なのですが、同じくフランス代表だったフィリップ・キャンデロロさんを思い出しました。彼の三銃士は、いまだに語り継がれる名プログラムだと思います。

 

 銅メダルのイリア・マリニン選手は、この大会でも4回転アクセルを見せてくれました。……なのですが、ジャンプが全体的に大きな加点を望めないクォリティだったので、4回転アクセルの練習をする前に、それぞれのジャンプの完成度を上げたほうがいいのではないかと思います。4回転アクセルは難しいわりにそれほど基礎点が高くなく、他の4回転ジャンプでも加点が付いたら簡単に超えられてしまうぐらいの点数にしかならないので。いずれにしろ、今回の出場は自己紹介のようなもので、これからの選手だと思いますが。

 

 世界選手権にロシア勢が参加していないことについて、ネットでいろいろな意見を見ますが、誰がいようといまいとメダルの価値は変わらないと思います。確かに、女子シングルはロシアが強いので、ロシア代表が参加していたら坂本選手は勝てなかったかもしれません。けれども勝てたかもしれず、それはやってみなければわからないことです。ただ、ロシア代表が国際大会に出場できない現状においては、4回転やトリプルアクセルを跳ばなくてもミスをしなければ勝てるので坂本選手は跳ばないのです。それは戦略で、ロシア勢の4回転に対抗するためトリプルアクセルにこだわり、その結果怪我をして目標としていた北京五輪出場を逃し、今も怪我と付き合いながらの演技しかできない紀平梨花選手とは実に対照的です。大技の習得を捨てて自分の長所を伸ばすことを選んだ坂本選手は、五輪に出場しただけでなく、銅メダルを獲得してオリンピックメダリストにもなりました。坂本選手は回転数の多いジャンプは跳べませんが、ロシア勢を含めた他の選手は4回転やトリプルアクセルは跳べても坂本選手のようなスピードと高さ、そして幅のあるジャンプは跳べません。跳べないから回転数の多いジャンプを跳ぶことで点数を稼ごうとしたのです。出来栄え点という形でスピードや高さ、移動幅などジャンプの質の高さで点が取れるのなら、服薬してまで身体増強しなければできない、怪我のリスクが高い技などやる必要はないと思います。今はそういう選択肢を認めたルールなのですから。この選択肢の存在は、フィギュアスケートの演技の種類の幅を広げるためにも、また、無理はしないしさせないということで選手の健康のためにも有効だと思います。昔からジャンプ偏重には不満があり、このブログでも何回か書いていますが、「跳べばいいってもんじゃない」とずっと感じていました。実際、トゥルソワ選手の演技など4回転をいくつ跳ぼうが何度観てもいいと思えなかったし。スケートの好みや演技に対する感想は人それぞれだと思いますが。

 

 自分以外の参加不参加は、選手のせいではないし、彼らにはどうにもできないことです。今までにもオリンピックイヤーの世界選手権は引退したり休養したりで、世界で一番実力があると思われる選手が不在の大会がたびたびありました。世界王者であるディフェンディングチャンピオンが怪我で翌年の出場を回避することもありました。それでもその年の世界一を決めるとされる世界選手権の金メダリストであるという事実に変わりはありません。誰々がいたらと仮定をすることは自由ですが意味のないことで、自分の力ではどうにもならない自分のこと以外の状況に恵まれるという運を味方にする点も含めて、そのたたかいの場に居合わせて一番のパフォーマンスをした人が文句なしに勝者であり、その栄誉に見合った称賛を受けるべきだと思います。

 

 ということで、改めて、坂本選手とショーマ、2連覇おめでとう! 「りくりゅう」こと三浦璃来&木原隆一ペア、初優勝&グランドスラム達成おめでとう!

 

 彼らの努力が、目に見える最高の結果をともなって報われた、素晴らしい大会だったと思います。

会場の外にあったショーマこと宇野昌磨選手のパネル