羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~北翔海莉という職人

 昨日は日比谷で宝塚星組公演を観てきました。演目は「桜華に舞え」と「ロマンス!!」。トップスター、みっちゃん(北翔海莉さん)のサヨナラ公演です。
 
 宝塚は、今は亡き伝説のタカラジェンヌ、ナツメさん(なーちゃん)こと大浦みずきさんに惚れ込んで30年以上前から観ています。彼女の退団後、燃え尽きたようになって、途中気になる演目しか観ないという時期もありましたが、ここ数年はだいたい毎公演観ています。
 
 みっちゃんは、私の中で、雪組のスターだったまっつ(未涼亜希さん)と双璧をなしていた、歌ウマでご贔屓のジェンヌさん。二人とも歌だけでなく、芝居も上手でダンスも問題なしの、三拍子そろった真の実力派スターでした。そういう意味で、みっちゃんは現5組の中でも随一と言っていいトップスター。なので、特別ファンというわけではありませんが、常に絶対に外さない抜群の安定感を発揮してきたので、宙組時代の「カサブランカ」で顔と名前を覚えて以来、注目して、出演した本公演はほぼ欠かさず観てきました。ゆーひ(大空祐飛さん)のお披露目公演だった「カサブランカ」は私の宝塚観劇史の中でも一ニを争う名作ですが(なーちゃんの作品は別として)、みっちゃんの好演も大いに貢献しています(それと萬さん)。
 
 本公演、久々に泣きました。みっちゃんは歌で泣けるんですよね。黒燕尾で「明日へ」と歌う場面では、特に涙腺がゆるみました。タカラジェンヌは歌が上手くなくても他に光る要素があればスターになれるので、正直「歌がなぁ……」というスターさんもけっこういるのですが、上手いとか下手とか、今日はよく声が出ているなとか、文字で書けるような感想はみっちゃんの場合すでに通り過ぎていて、ただもうこの歌が聴けなくなるのかと、ひたすらさみしく思いました。それはまさお(龍真咲さん)の時にも思ったことですが。
 
 万人が認めるみっちゃんに比べて、まさおの歌については賛否両論があり、好き嫌いが分かれるのもわかりますが、私は好きだったので、もう聴けなくなる寂しさというのはみっちゃん以上でした。男役の歌というのは女優になったら変わりますから。宝塚を出れば上手い歌い手さんはたくさんいますが、男役・龍真咲の歌は独特で、まさおだけのものなので。私はロミジュリのミュージカルナンバーが大好きなのですが、外部や本国の来日公演も含めて一番好きなパフォーマンスは月組で、今でもよくCDを聴いています。
 
 そんなまさおはダンスが玉に瑕で難有りでしたが、みっちゃんはダンスも及第点。体の使い方がとても巧いです。生意気なようですが、私のジェンヌダンサーの基準は、宝塚のアステアと言われたなーちゃんですから。
 
 みっちゃんは特にキレるようなダンスをするというわけではありませんが、どう見えるか、見せるということを心得ていて、手足の隅々まで意識が行き届いています。なーちゃんもそうでした。それはダンスに限らず、芝居の時の立ち姿とかにも言えます。脚の折り方、広げた手の指の角度、さようならの手の振り方、どれも研究に研究を重ねた努力が透けて見える、完成度の高い確立された型。もはや職人芸と言ってよいと思います。短いトップ在任でしたが、星組の組子にはいい勉強になったのではないでしょうか。みっちゃんのトップ就任は、彼女が「カサブランカ」のあと苦労してきたことも知っているので、本人にとっても本当によかったと思いましたが、次期トップのベニー(紅ゆずるさん)をはじめ星組組子たちにとっても、よいことだったと思います。
 
 ベニーは、存在感と芝居心は大したものだと思うので、よさを失わずに今後全体的に底上げしていってほしいと思います。みっちゃん演じる主人公の桐野利秋が死んだ場面の彼女の芝居は心揺さぶられるもので、泣かされましたし。
 
 娘役トップのふーちゃん(妃海風さん)もみっちゃんと共に添い遂げ退団ですが、改めて「歌うまいなぁ」と思いました。銀橋ソロを聴いたとき、歌が上手いと言われているみりおん(実咲凛音さん)より上手いんじゃないかと思いました。先月のエリザベートがたいそう微妙だったので。
 
 みりおんシシィは、無難でソツがない分、よくも悪くも引っかかるところがなく、印象に残らない感じでした。アクが強くて受け付けない人もいるけど、耳に残るまさおの歌とは真逆なタイプ。男役を支える娘役としてはよいのかもしれませんが、月組娘1のちゃぴ(愛希れいかさん)や雪組娘1のゆうみ(咲妃みゆさん)はもっと自分らしさを出していて、男役を凌ぐような存在感を発揮していると思います。まあ、もう退団だからいいですけど。でも、今後女優をやるにしても、主演級をやるには華がないというか地味というか押しが弱いというか美人サンなんですけどね。役を選ばなければ外部でも重宝されるような気はしますが。
 
 ちなみに、私のトート&エリザベートのベストキャストは、ウィーンで観たのを除けば、山祐&かなめコンビです。私にとって歌のタカラジェンヌといえば、かなめ(涼風真世さん)とタータン(香寿たつきさん)。もちろん、なーちゃんの歌も好きです。さらっと歌わない、かみしめるような、スタッカートを思わせる歌い方が。
 
 かなめが在団中にショーで歌った「愛遥かに」は大好きで、今でも時折頭の中で響きます。遅ればせながら、来月「貴婦人の訪問」に行く予定。去年行くつもりでしたが、多忙でバタバタしていて気が付いたら終わっていて見そびれました。私のベストトート&ファントムである山祐こと山口祐一郎さんをはじめ、あさこ(瀬奈じゅんさん)も出演する豪華キャストなので楽しみです。あさこといえば、彼女も名ダンサーでした。サヨナラ公演のショーで裸足で踊ったシーンは素晴らしかった。今でも忘れられません。さすがダンスの花組出身。「貴婦人」では踊らないと思いますが。
 
 その翌週は雪組です。なーちゃんの「ロマノフの宝石」以来お気に入りの演出家である正塚さんの作品を、正塚演出の「ロジェ」で衝撃的な殺し屋を演じたときに顔と名前を覚え、以後注目していて、期待を裏切らない活躍を見せてくれている現雪組トップスター、チギ(早霧せいなさん)主演でやるので、こちらも楽しみです。現役ジェンヌさんでは、チギがベストダンサーですね、私にとっては。芝居もいいと思っていますが。お気に入りだったまさおに続いてみっちゃんもいなくなるので、残っているチギには長くトップやってほしいです。卒業したまさおと同期とわかってはいますが。