羽生雅の雑多話

引越してきました! 引き続きよろしくお願いします!

ダリ展混雑に見る、人間の中にある狂気という存在

 あるんでしょうね~、誰にしも。展覧会の質にかかわらず、あれだけ多くの人が来るということは。

 ダリのような、ある種世間とは一線を画した、己を含めたパンピーとはかけ離れ過ぎていて受け入れがたい面もある強い個性に、それでも惹かれずにはいられないという気にさせる狂気的な部分が。
 
 先週所用で六本木のミッドタウンまで行った帰りに、前売券を買っていたのでダリ展に行ってきました。行けるときに行かないと見逃すので。今まで何枚チケットを無駄にしたことか……買っておけば必ず見に行くだろうというプレッシャーをかけるつもりで前売りを買ったりするのですが、展覧会が始まるまでに忘れて、気がつくと終わっているということがけっこう多いです。

 それにしてもイマイチでしたね。マグリット展もでしたが、国立新美術館の展覧会で満足したことが一度もありません。盛況なだけにいつも「メジャーな作品じゃなくても、もっといい作品があるだろう。これがダリ(orマグリット)だと思われたくない。集めりゃいいってもんじゃない」という気になります。「ダリ展~●●を中心に」みたいな言い訳めいた副題がついていれば、所詮こんなものだろうと思えるのかもしれませんが。けれど今回は大回顧展とか大々的にうたっていましたし。上野のほうが断然質が高かったです。絵の好き嫌いなんて、もっとも個人差があり意見が分かれるところなので、今回の展示が必ずしも悪いとは言いませんが、個人的には残念な感じでした。

 それに比べて、春の若冲展は素晴らしかった。過去にプライスコレクション展なども見に行きましたが、東京都美術館の展覧会は、これぞ若冲という品揃えでした。過去に経験したことのない、トンデモ待ち時間でしたが。

 2回見たのですが、どうしてもリピートしたくて、二度目は最後の金曜の夜に行ったので、文字どおりナイトミュージアム。7時半までに並んだ人は全部入れてくれて、その点はよかったのですが、館内に入れたのは10時で、閉館時間は10時半。ぎりぎりまで鑑賞し、退場後グッズ売り場の長蛇の列に並びましたが、ウソかホントか50分待ちとかいう話。粘りましたが、週末なので終電の1本前には乗りたかったので、購入をあきらめて11時前に退館。街灯以外の明かりはすでに消え、都美から出てきた客以外いないという初体験の暗い上野公園を足早に後にしました。

 展覧会には美術、博物問わずよく行きますが、美術館の中ではサントリー美術館東京都美術館がお気に入りです。当然のことながら、テーマによって行くものと行かないものがあり、すべてを観ているわけではありませんが、「●●だけで企画展やるのか」と驚くような企画も多く、展示の仕方にも変なこだわりなどが感じられておもしろいです。若冲展の動植綵絵の展示も見事でした。都美はノルウェーの絵本のキュッパ展とかもやりましたしね。サントリー尾形光琳ではなく弟の乾山展とかやって、展覧会名も「乾山見参(ケンザンケンザン)」とかで、チラシを見たときにはマジ目が点になりました。今月も鈴木其一展とかやっていましたし。琳派好きでもないかぎり知らない画家だろうに個展でよくやるなぁと思いましたが、ミッドタウンでチラ見したら、けっこう混んでいました。両館とも時代の流れに敏感な企画力のあるキュレーターがいるのでしょう。最近は人々の趣味趣向が一律ではなく細分化され、それにきめ細かに応えていかないと生き残れないのかもしれませんし。

 その点、トーハクさんは要努力。金に飽かせて展示品はいいものが集まってきますが、そのせいか、見せ方にあまり工夫がなく、展示自体がつまらない。鳥獣戯画展も、今回初めて見る作品があったというだけで、何年か前のサントリー美術館の展覧会のほうが、よほど印象に残っています。

 サントリーも都美も東博のような規模の大きい美術館ではないので、人気が出て動員が多いと対応に難がありますが、職員の数も予算も国立系とは違うので、対応がまずくても仕方がないとは思います。いつもその人数が来るとはかぎらないわけですから、常にとか、あらかじめ人員やお金を確保しておくことは難しいというより、できないでしょう。

 今回のダリ展に話を戻すと、何枚かは好きな絵もありました。イチ押しは「奇妙なものたち」。しかし帰ったら上野の時の絵ハガキがあって、10年前にも見ていて、その時も絵ハガキを買うほど気に入った絵であったことが判明。前回の邦題は「特異なものたち」でした。原題は「Singularities」なので、どっちでもいいと思いますが。

 上野で買ったのが6枚で今回が3枚、うち1枚は作品ダブりなので、いかに気に入った絵が少なかったかを物語っています。チューリッヒ美術館展でも1枚「薔薇の頭の女」を買っているので、個展のわりには低い打率。ちなみに、あとの2枚は「ウラニウムと原子による憂鬱な牧歌」と「『狂えるトリスタン』のための習作」。今回の目玉らしい「ポルト・リガトの聖母」は、それよりも上野で見た「ピエタ」のほうが好きですし、いくつかあった挿絵作品も上野で展示されていた「カルメン」に勝るものはありませんでした。

 でも、ダリ好きならとりあえずでも見ておいたほうがいいとは思います。この規模の展覧会は、あって10年に一度ですから。

イメージ 1
今回一押しの「Singularities」。上が前回、下が今回の絵ハガキ。印刷の感じも微妙に違います。ダリらしい題材と構図、そして彼ならではの、いかにもの配色。前売券にもこの絵が使われていたので、人気の高い作品なのだと思います。