羽生雅の雑多話

引越してきました! 引き続きよろしくお願いします!

「貴婦人の訪問」とボジョレーヌーボー

 土曜にシアタークリエで「貴婦人の訪問」を観てきました。いやぁ、救いのない話でした。個人的には好きだし、おもしろかったけど。

 現在イギリスのEU離脱アメリカの大統領選などで表面化しているポピュリズムや群衆心理の怖さが描かれた舞台でしたね。内容がヘビーだから、歌が上手くないと説得力がなくなり、台無しになる難しい演目。アングラでストレートプレイならまだしも、エンターテインメントで取り上げる題材じゃないだろと思いましたが、薄っぺらなハッピーエンドより断然よかったです。楽しかったという感じは、まったくありませんでしたが。

 かなめクレア、圧巻でした。これぞ涼風真世という感じ。かつて妖精と呼ばれた(本人弁)端正な容姿を裏切る、あの細い体のどこから出るのかという、潤いのある深い声で声量も豊かに歌い上げる圧倒的な歌唱力。今回は主演で、歌う場面が多かったので、久しぶりに堪能しました。セリフより歌でクレアという人物を語っていましたね。彼女の悲しみも憎しみも愛も。

 クレアの相手役であるアルフレッドに扮する山祐さんは、年齢のせいか、「エリザベート」のトート役を降りたあたりからここ数年歌い方を変えていて、今回もヘタレな役なので、セリフも情けなさを出したのかファルセット気味の発声でしたが、ラスト近くで覚悟を決めた後の歌は、往年のパワー全開の歌い方で、こちらもこれぞ山口祐一郎でした。

 今井清隆さん扮する市長は、欲望に惑わされ個々の理性を見失って、自分たちの利になる流れに同調していく市民の心を象徴するような、低く響く歌声。まさしく悪魔のささやきでした。

 今拓哉さん扮する警察署長は、友人として味方でありたい、けれどもなれずに最後は断罪者にまわる、アルフレッドにとって誰よりも近しく、それゆえに残酷な役どころを、持ち前のさわやか青年な感じで演じていましたので、かえって背筋が寒くなりました。意図したわけではないかもしれませんが、けっして悪人ではない、悪気のない善人の裏切者がどんなに質が悪いか、彼をキャスティングしたことで、うまく表現されていました。

 校長役の石川禅さんはもう、苦悩して壊れていく役で歌わせたら、この人の右に出るものはないという感じ。不満を感じたことは一度もありません。どこか「モンテ・クリスト伯」の時の役柄とダブりました。役名は忘れましたが。

 アルフレッドの妻、マチルデ役のあさこは、力量的には問題ないのですが、宝塚の男役時代の歌い方はすっかり影を潜めて女優の歌になっていたので、いささか残念な気になりました。特徴がなく、もはや聴いただけでは瀬奈じゅんとはわからないので、きれいで歌が下手でなければ、あさこでなくてもいいと思いました。実際去年の初演はおさ(春野寿美礼さん)がやっていたみたいですし。これならいっそあさこには踊ってほしかったと思ったくらいです。確かに、男役の歌い方は声の出し方からして違いますが、かなめとかいっちゃんは、キーが多少高くなったかなぐらいの印象の違いで、あくまでも涼風真世の歌、一路真輝の歌なんですよね。替えはきくかもしれないけど、代わりはいない。だから、ヅカの男役を卒業して何年も経っているけど今でも観たくなる。

 「レベッカ」のダンヴァース夫人も、かなめとシルビア・グラブさんの両方を観ました。どちらも個性的で、明らかに違うタイプの歌なのに、二人とも甲乙つけがたいほど素晴らしかった。「ガラスの仮面」のいっちゃんの月影先生も観たかったけど、今回と違って観たいのがいっちゃんだけだったので、忙しいけど万難を排してでも行くという気になれないまま公演が終わってしまいました。今回の公演は、ダブルキャスト、トリプルキャストだったら、絶対にこの人たちの回を選ぶというメンツです。この先、帝劇や日生の肝いり公演(日本初演とか)でもこれだけ揃うのは難しい豪華キャストだと思います。

 終演後は一緒に観劇した中学以来の友人が、ここのところイマイチな私の体調を考えて自然薯料理専門のお店を予約してくれたので、そこで夕食を摂ることに。寺社遠征やら何やらで忙しかったので久しぶりに会ったのですが、重いのに柿や林檎、梅酒まで持ってきてくれて、本当にありがたいことです。

 お店は5時からで、「貴婦人~」は3時半には終わったので、有楽町電気ビルのプロントで時間をつぶすことに。まだバータイムではありませんでしたが、ボジョレーヌーボーがあり、それは今の時間でも注文できるとのことだったので、グラスでもらいました。今年の初物です。

 ワインは好きで、好きが高じて、ブルゴーニュ・シャブリ、ボルドーサンテミリオン、ソーテルヌ、ランス・エペルネ、ヴァッハウ渓谷、ポルト・ドウロ渓谷、マデイラ島全部行きましたが、いろいろ飲んだ中でもボジョレーはあまり好みではないので、年間行事で新酒を解禁後に軽く飲むだけです。だからこだわりはなく、プロントでもコンビニ物でもOK。でも最近はそれでも十分な味で、店で飲む物とそうレベルは変わらないと思っています。先週は勝沼に行って4か所ほど醸造メーカーを巡り、新酒も含めて甲州ワインをいろいろ試させてもらったのですが、試飲程度の酒量で気持ちが悪くなり、夕食もパスして夜はホテルで寝てる羽目になりました。ぶどうが合わなかったのだと思います。メルローシャルドネが好きなので。露店で一房500円で買った甲斐路はとてもおいしかったのですが。

 予約してくれたのは、東宝ツインタワービルの「山薬清流庵」というお店で、自然薯料理はどれもおいしく、メインは鍋だったので、久保田の千寿をもらいました。ワインスキーですが、鍋にはやっぱり「日本酒があいますね」ということで。