羽生雅の雑多話

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特別展「江嶋縁起」in遊行寺宝物館

 先週の土曜になりますが、藤沢の遊行寺に行ってきました。

 本当は名古屋にフィギュアスケートの世界大会であるグランプリファイナルを観に行きたかったのですが、チケットが取れず。ならば、大河ドラマも大詰めなので、浜松に行って、以前から気になっていた天白磐座遺跡や井伊谷宮でも巡るかとも思っていたのですが、夜更かしが祟って朝早く起きられず。結局起きたら昼近かったので、今月18日までで、どこかで時間を見つけて行くつもりだった遊行寺宝物館で開催中の特別展「江嶋縁起」を見てきました。

 「江嶋縁起」は、江の島に伝わる江島弁財天信仰を記録したものなのですが、定本とも言うべき江島神社が所蔵する真名本と、絵巻として作成された江島神社本と岩本院本という三種があり、今回はその三つの縁起すべての巻を同時に公開する初めての展示ということだったので、嬉々として足を運びました。

 藤沢駅から北に向かって歩くこと約15分。箱根駅伝で知られる遊行寺坂に面した車両も入れる入口から入ると、黄金色の大きな木が目に飛び込んできました。鎌倉の鶴岡八幡宮の大イチョウと並び称される、樹齢700年とも言われる大イチョウです。

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遊行寺の大イチョウ。まさに黄金色です。

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イチョウの幹。樹齢700年というのも頷けるような不気味さです。遊行寺創建以前からあったとすれば、おそらく御神木ですね。

 その先に遊行寺宝物館があります。電車に乗ってからスマホを忘れたことに気づいて取りに帰ったりしていたので、着いたのは入館締め切り前の10分前でした。しかし展示室はひと部屋だったので、十分ゆっくり見られました。私のあとからも人が来て、地味な展示内容なのに10人ぐらいの見学者がいたのは驚きでした。

 江嶋縁起によると、欽明天皇十三年(552)、4月12日の夜から23日の朝まで大地が振動し、空から天女が十五童子を従えて現れ、それに合わせて四天王などの天衆や龍神、水火雷天山神、鬼魅夜叉羅刹たちが雲上より磐石を持って出現し、海底より砂が噴き出す中、夜叉鬼神たちが協力して江の島を造ったとのことです。

 珍しくずいぶん具体的な年月日が記されているので何やら信憑性があるようにも思われるのですが、すでに『ホツマツタヱ』において江の島の存在が言及されているということは、島自体はそれ以前からあったということなので、この時の地震によってできたわけではありません。この地震でさらに隆起して目立つようになったか、あるいは今まで陸続きだったのが陸から切り離されたということではないでしょうか。フランスの聖ミシェル島のように、江の島も地殻変動によって常時陸続きになったり、引き潮時には陸続きで満潮時には島になったりをくり返していたようなので。

 ということで、天女が島を造ったという話は明らかにフィクションなので真面目に考える必要はないのですが、注目すべきは、天女が十五童子を引き連れていたという点です。

 これは、江の島に天女こと江の島神のタキコがやってきたときに15人を連れていたということなのかもしれません。その時のタキコの状態が生きていたのか死んでいたのかはわかりませんが。生きていたのなら伴人で、死んでいたのなら殉死者ということです。あるいは、童子ということなので、タキコに15人の子供がいたという事実を表しているとも考えられます。全員が自分の腹を痛めた子とは限りませんが。であれば、転じて、彼女の夫であるカグヤマツミには15人の子供がいたということになります。
 
 ところで、三姉妹が祀られた神社のうち、タキコの江島神社だけが式内社でも旧官国弊社でもありません。しかし当社は、文武天皇四年(700)に役小角が弁財天を感得して霊場を開き、そののち弘仁五年(814)に弘法大師が岩屋本宮を、仁寿三年(853)に慈覚大師が上之宮(現在の中津宮)を創建したという由緒のある神社です。すなわち、修験道の祖、真言宗の祖、天台宗山門派の祖が無視できなかった聖地ということです。この事実により、式内社や旧官国弊社ではなくても、当社が重要な神社であることが判ります。また、式内社や旧官国弊社ではなくても重要な神社があることも判ります。三姉妹を祀る青森市の善知鳥神社などもその一例です。

 広重の「東海道五十三次」の藤沢の絵にも描かれていますが、遊行寺惣門前にかかる遊行寺橋のたもとには、かつて江島神社の一の鳥居が立っていて、江島神社への参詣道である江の島道はここから始まりました。ゆえにこの地が選ばれて、遊行寺が建てられたのでしょう。

 ちなみに、遊行寺というのは通称で、正式名称は清浄光寺と言います。神奈川でも指折りの名刹です。何しろ一遍上人を宗祖とする時宗の総本山ですから。家茂が上洛するときに立ち寄った場所なので、ずっと行きたかったのですが、なまじ近すぎて行けず。今回江嶋縁起の展示という機会に恵まれて、ようやく行けました。ちょうど大イチョウが一年で一番美しい季節でもあったので、満足して帰りました。

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日没直後に本堂脇から大イチョウを望む。

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遊行寺の見どころの一つ、浄瑠璃や歌舞伎で名高い小栗判官の墓。