羽生雅の雑多話

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フランス旅行記 その2~シャンティイ城(コンデ博物館)、オペラ・バスティーユ

 年初のフランス旅行記一日目になります。

 
 1月3日朝、7時前にパリ北駅でN氏と合流後、宿泊予約をしてある駅前のホテルへ行き、チェックインはできないが荷物は預かってくれるというので、キャリーバッグを預けてコーヒーを一杯もらい、身軽になって北駅に戻り、シャンティイ・グヴィユーまでの切符を購入。チケットに印字されていた時間が希望した列車と違っていたので、「wrong time」と窓口のおねーサンに抗議したら、その切符でどの列車にも乗れるとのこと。2等で座席指定がないから、新幹線の自由席と同じ扱いなのかもしれません。その後、乗る予定の列車まで時間があったので、駅構内にある「レトワール・デュ・ノール」で朝食を摂ることに。体調不良のせいか、機内のミールサービスが美味しく感じられず、機内ではろくに食べられなかったので、その店で食前酒のシャンパーニュから始まって、クロワッサン、チリビーンズソース付きのスクランブルエッグとがっつり食べ、エスプレッソでしめて、ようやく満足しました。
 
 時間になったので店を出て、カフェスタンドに寄ってテイクアウトのカフェオーレを買い、9時7分発のアミアン行き列車に乗車。約25分でシャンティイ・グヴィユー駅に到着し、シャトルバスに乗って、念願のシャンティイ城へと向かいました。

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 現在コンデ博物館として公開されているシャンティイ城には、門外不出のラファエロ作品が三つあります。ラファエロの三枚の絵画を所有するのは、フランスではこことルーブル美術館だけだそうで、しかもルーブルと違い、コンデ博物館の所蔵品は、元々の所有者であるオマール公が現在の所有者であるフランス学士院に寄贈するときに、「けっして陳列の配置を変えてはならぬ」と「貸し出してはならぬ」を条件とし、それが今日まで守られているため、現地に行かなければ見られないという貴重な代物です。というわけで、以前から行きたくて仕方がなかったのですが、パリから往復するには半日でギリギリ、まともに鑑賞しようと思ったら一日は必要なので今まで行けずにいました。
 
 馬の博物館の前でバスを降り、城門まで歩いていくと、ローシーズンタイムで開館時間まで30分ほどあったので周囲をウロウロし、10時半の開門と同時に入城。

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 現在のウィーン美術史美術館と同じく、壁面いっぱいに飾られた絵画の数々――ドラクロワボッティチェリといったメジャー画家たちの作品もその中の一枚にすぎない扱いで、あくまでもこの城を彩る膨大なコレクションの一部なのだと痛感させられる作品群と展示でした。
 
 その中でラファエロ作品は、突き出た円形テラスのようなところに「ロレートの聖母」があり、額にはガラスもなく、しかも移りゆく窓からの自然光をもろに受ける場所で、いわゆる美術館の展示ではなく、住居の中に飾られた絵画鑑賞の本来の形で展示されていたので、作品の前に佇み、なんて贅沢なのかと一人で唸っておりました。日本の展覧会では、作品を守るためとかいって、照明を落とした、本来の色彩がよくわからない暗い空間で観るのが普通ですから。絵画自体は陽の光に晒されているわりに変色なども見られず、近年修復されたのかと思うような良好な状態でした。

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ラファエロ「ロレートの聖母」。この時は左から自然光があたってテカっていたので、真正面から撮れませんでした。
 
 「三美神」と「オルレアンの聖母」は、サンクチュアリと呼ばれる窓のない小さな部屋にありました。置いてあった解説によると、「美術をこよなく愛する人がコンデ美術館の主な作品を前にして瞑想する特権的な場所として1881年に作られた」部屋だそうで……。小絵画を保護するために照明は最低限に抑えられているとのことで、この部屋だけはおなじみの暗い空間で、作品の額にもガラスが入っていました。
 
 この二つは思っていたよりも小品だったので、少々驚きました。というのも、門外不出のコンデ博物館の蔵品ということも含めて、ラファエロ作品としては有名な作品で露出も多く、写真で見るかぎりはサイズ感が曖昧で、「ロレートの聖母」や「草原の聖母」並の大きさと思い込んでいたので……何しろ「システィーナの聖母」があの大きさですし。なのですが、その小ささでも、聖母や女神の表情はラファエロの筆致でしかなく、このサイズでもラファエロだとわかる、らしさが表現できているのは凄いと思いました。画面サイズでいえば、ハガキ大ですから。

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ラファエロ「オルレアンの聖母」。聖母はいかにもラファエロの女性像ですが、子供が珍しく可愛くなく、小憎らしい顔をしています。しかし、この小ささでよく表現されていると思いました。
 
 額装も見事で、小品ではありますが、明らかに大事にされ、特別な場所に飾られることを意識した、手の込んだ美しい額装でした。「三美神」の額装の、いわゆるマット部分は銀板のレリーフでしたし。小品であってもこれだけの額装をする価値がある作品だと、当初から認められていたのだろうと思い、それにはいたく共感しました。
 
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ラファエロ「三美神」。この絵がシャンティ訪問の最大の目的でした。聖母子像ではない稀少なラファエロの女性像です。聖母ではない女性がどう描かれているのか見たかったのですが、女神でも聖母でもラファエロラファエロでした。額にガラスが入っているので、映り込みが避けられなかったのが残念。
 
 満腹というか、これ以上観たら食傷気味になりそうなくらい、住んでいた人間の芸術に対する飽くなき情熱が端々から感じられる素晴らしい美術品と調度品、建物を堪能し、ミュージアムショップでラファエロ作品の絵葉書とシャンティイ城の記念メダルを買ったあと、ちょうど正午近かったので、お昼を食べようということになり、せっかくなので城内にあるレストランに行ってみることにしました
 
 12時のオープンとともに入って窓際の席に案内され、シャンパーニュプリフィックスのムニュを注文。ランチメニューであるムニュは肉か魚のメイン料理と名物のクレーム・シャンティイ付きのデザートのセットです。この店はクレーム・シャンティイ(泡立て生クリーム)を考案した17世紀の料理人ヴァテールが働いていたお城の厨房を改装した店だそうで、入店が開店直後だったので、初めの内は店のスタッフも手持無沙汰で暇そうにしていましたが、店を出る1時過ぎには満席になっていました。

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入ったときには誰もいなかった城内レストラン「ラ・キャピテヌリー」の店内。ぶら下がっている鍋類が元厨房であることをアピールしています。

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ムニュのセットメニューの林檎のタルト。デザートは何を選んでもクレーム・シャンティイがこれぐらい付いてきます。ガツンときます。
 
 続いて、コンビチケットを買っていたので、イギリス庭園を経由して、馬の博物館へと向かいました。ここは一見宮殿のような建物ですが、18世紀に建てられた大厩舎で、フランス一美しいと言われる馬小屋です。その前にシャンティイ競馬場があり、馬小屋では今も本物の馬が飼育されていて調教され、調教の一環であるスペクタクルショーなどが開催されています。ちなみに、シャンティイ競馬場は、ロンシャン競馬場がスタンド改修工事で閉場していたため、昨年の凱旋門賞はここで行われたという、名門コースです。

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大厩舎内の馬場。スペクタクルショー前の調教中。
 
 駅行きのバスもパリ行きの電車も1~2時間に1本しかなく、夜はバレエのチケットを取っていたので、4時ぐらいにはパリに戻ってホテルにチェックインし、不要な荷物を置いて身軽になりたいということで、とりあえず記念メダルだけを買って、2時過ぎには馬の博物館を引き上げてシャンティイ・グヴィユー駅へ。駅に着いてみると、急病人が出たとかで、30分ぐらい前に発車予定だった電車が止まっていたので、いつ発車するかわからないが一番早いパリ行きだというので乗車。結局その後ものんびり走って、普通なら25分で着くところが1時間ぐらいかかって、4時半過ぎにパリ北駅に到着しました。バレエは開演が7時半で、とりあえず時間に余裕があったので、アンラッキーではありましたが、その点はラッキーでした。
 
 5時前にホテルにチェックインし、部屋に入れてあったキャリーの荷物を解き、しばし休憩。N氏が6時まで仮眠すると言うので、寝ているあいだ備え付けの紅茶を飲みつつホテルのWi-Fiにつないでスマホでネットサーフィン。まったく便利な世の中です。そうこうするうちに6時10分になったので、N氏を起こして、メトロ5号線でパリ北駅から7つ先のバスティーユ駅へ。
 
 駅からすぐのオペラ・バスティーユに行き、小腹が空いたとき用に劇場内のスタンドでサンドイッチを買い、クロークにコートを預けて、パリ・オペラ座バレエ団の「ドン・キホーテ」を鑑賞。
 
 いやぁ、素晴らしい公演でした。何が素晴らしいって、バジル役のエトワール、マチアス・エイマンがとにかく最高でした。さすがは世界最古といわれるバレエ団のエトワール。宝塚月組公演の「All for One」で、ちゃぴ(愛希れいかさん)扮する太陽王ルイ14世が自分でバレエを創作して踊っていましたが、まんざらフィクションというわけでもなく、ルイ14世が創設した王立舞踊団が現在のパリ・オペラ座バレエ団の起源です。
 
 350年の歴史を誇るバレエ団のエトワールは、やはり質が全然違いました。まさに奇跡の肉体です。手の振りをはじめ体の動きが段違いに柔らかくてしなやかで、それでいてグランジュテはしなやかさを維持しつつも高くて滞空時間が長く、ピルエットも回転が速くて真っすぐなのに止まるときはピタッと微動だにせず、柔らかさと力強さと安定感が非常に高いレベルで共存している素晴らしいダンサーでした。あまり数は観ていないのですが、今までバレエ公演はマヤ・プリセツカヤ森下洋子吉田都など女性舞踊手を中心に観てきたのですが、今回はマチアスが際立っていて、彼にばかり目が行ってしまい、一緒に踊っているとキトリ役のエトワールであるミリアム・ウルド=ブラームなど他の人たちが下手に見えるぐらいでした。残念ながらこれまで彼のことを知らなかったので、幕間に読めないフランス語のパンフレットを購入し、とりあえず名前を確認して、後日スマホで調べたところ、実力派のけっこうな人気ダンサー。我々は日程の都合で偶然この日の鑑賞になったのですが、本当に良かったと、いいものを観たと、かなり興奮気味でホテルに帰着。同じ日の午前中に観たラファエロの感動が何日も前のことのようにすっかり薄れていました。ああ~もったいない。
 
 この公演には、日本でブレイク中のプルミエール・ダンスーズのオニール八菜も出演していて、個人的にはエトワールのミリアムよりもいい踊りをしていたと思いました。もっとも、ミリアムはパ・ド・ドゥが全部パートナーのマチアスにもっていかれていたので、それはそれで気の毒でしたが。

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終演後のカーテンコール。真ん中がマチアスで、その向かって左がミリアム。センターブロック8列目のやや下手、通路沿いの補助席隣の2席という良席だったので、オペラグラスも不要で、よく見えました。
 
 ということで、これにて日程終了です。