羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~抜群の安定感を誇る新雪組トップスター、望海風斗

 ン十年ぶりかの大寒波のため、寒い日々が続いていますが、昨日ゲキ寒の中、なんとか重い腰を上げて日比谷へ行き、宝塚雪組公演、ミュージカル「ひかりふる路(みち)~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~」と、レビュー・スペクタキュラー「SUPER VOYAGER!ー希望の海へー」を観てきました。だいもんこと望海風斗さんのお披露目公演です。
 
 3時半の開演に合わせて、ちょうど出かけようと思っていたところに新聞の集金が来たので玄関を開けたら、入ってきた空気がすごい冷たかったので、この格好じゃダメだと思い、大急ぎで服を着替えて、暖房がきいている劇場内では汗をかきそうなぐらいの厚着で出かけました。
 
 さて公演ですが、まったく心配するところのない新トップというのも久しぶりで、最初から最後まで安心感があり、落ち着いて気分よく観劇できました。思えば、花組の二番手時代から、いつトップになってもおかしくない実力派スターの、満を持してのトップ就任ですから。だいもんは、前花組トップスター蘭とむ(蘭寿とむさん)に続く二番手として活躍していたら、月組にいた同期のみりおが準トップとして組替えで異動してきて番手が下がってしまい、みりおのお披露目公演だった「エリザベート」ではルキーニ役。その後雪組に異動し、改めて二番手に就任。容姿もダンスも芝居も文句ないけど歌が唯一のウィークポイントと言われた新トップスターのチギ(早霧せいなさん)を支えてきました。雪組時代は、他の組の二番手と違って、トップスターと拮抗するような存在で、チギと、その相手役である娘役トップスターのゆうみ(咲妃みゆさん)と共に「トリデンテ」とか呼ばれていましたし。
 
 そんなわけで、内容的には地味な歴史人物が主人公で一般受けしないと思われる作品でしたが、だいもんを中心に、雪組生たちがみな頑張っていたので、おもしろかったです。だいもんも気合が入っていて、ソロを歌い終わると肩で息をしていて、一日2公演できるのか? 1か月以上もつのか?と思うぐらいの熱演ぶり。デムーラン役のコマ(沙央くらまさん)やタレーラン役のハッチさん(夏美ようさん)の脇をしめる堅実な演技がスパイスのようにきいていたのは言うまでもありません。宝塚によくある群像劇ではなく、ロベスピエール1点に集中したストーリーで、サイドストーリーがほとんどなく、そのため役が少なくて、主人公の周辺とは別の場所で展開される小芝居などもあまり見られませんでしたが、その分、散漫にならずにまとまっていて、完成度の高い作品に仕上がっていました。ロベスピエールは史実で処刑されているので、彼の最期までを描けば当然のことながら死んでしまうので、ハッピーエンドにはならず、その点も含めて、正直ヅカっぽくはありませんでしたが。主人公をはじめとする登場人物がマイナーでエピソードも地味、けれども物語は破綻なくまとまっていて、作品としてはおもしろいという、まるで去年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」のような印象をおぼえました。
 
 音楽は、歌ウマのだいもんのお披露目作品だからか、全編フランク・ワイルドホーンの書き下ろし。意図的だと思いますが、ミュージカル曲にしては技巧的で、どれもこれも歌うのが難しいと感じる音程の取りにくい曲でした。ワイルドホーンらしくメロディアスでいい曲なのですが、何分複雑な曲なので、後に残らず憶えていない(笑)。でも、歌ウマのだいもんはもちろん、相手役の娘役新トップスター、真彩希帆さんも巧くこなしていました。特に驚いたのは、新二番手に就任したさき(彩風咲奈さん)で、だいもんが上手いのはわかっていましたが、さきもそれほど問題なく歌っていたので、ずいぶん成長したなぁと思いました。演技も、役柄のせいもあるかと思いますが、メリハリのある演技で目を引き、インパクトがあって、やたら存在感がありましたし。だいもんのお芝居は、どちらかといえば優等生なので、あそこまで吹っ切って熱演しないと、もしかしたらさきに食われるのかもしれないと思ったぐらいでした。だいもんは歌はもちろんダンスもお芝居も及第点で問題がなく、それゆえ観ていて安心できる安定感があるのですが、少々無難すぎて、言ってしまうといつも予想どおりで、その点が観ていてやや面白味に欠けるところがありますから。
 
 ショーは、サブタイトルにもあるとおり、「希望の海」がテーマ。何しろ“望海”風斗さんのトップお披露目公演ですから。
 
 ショーでもさきの成長ぶりが著しかったです。お芝居でアクの強い、顔も浅黒い塗りで、濃いキャラのダントンを演じていたので、やはり正統派トップスターとしてはどうだろうと思っていたのですが、ショーでは、前作の大店のボンボン役、徳三郎を観たときのように、正統派男役として問題なしと感じました。ワイルドホーンをソツなくこなした歌もそうですが、ダンスの上達ぶりもめざましく、もともとそれほど上手いというわけではありませんが、チギの下で頑張ってきただけあるなと思いました。宝塚史に残る名ダンサー早霧せいなの影響を受けて、雪組の中でその流れを受け継いでいるのは、さきのような気もしました。だいもんのダンスは、レベルはともかく、蘭とむや前宙組トップスターのまぁくん(朝夏まなとさん)に通じる、いわゆる花組系なので、ミズ(水夏希さん)やチギとは雰囲気が異なります(ミズも一時期花組にいましたが)。まあ、だいもんは正真正銘、花組出身ですし。蘭とむやまぁくん、だいもんなど花組出身者は、安定感があり、ポーズや動きの美しさや上品さが特徴の、魅せるダンサーで、ミズやチギは身体能力を生かした、動けるダンサーだったと思います。ちなみに、伝説のタカラジェンヌ、なーちゃんこと大浦みずきさんは、その両方を高いレベルで併せ持つ稀有なダンサーでした。考えてみれば、なーちゃん、雪組花組両方の経験者でしたし。
 
 ミュージカルではロラン夫人という娘役を演じていたナギショー(彩凪翔さん)も、ショーでは本来の男役で、相変わらずカッコよかったのですが、フィナーレで二番手の花を背負ったさきと並んだときには、明確についた差に、ちょっと悲しくなりました。
 
 さきが二番手となったことで彩彩コンビが解消し、場面場面の真ん中に立つようになったさきに代わってナギショーと組むようになったのが、あーさ(朝美洵さん)。雪組から月組に異動した同期のレイコ(月城かなとさん)とバーターで月組から雪組に異動してきましたが、ミュージカルではロベスピエールの右腕であるサン・ジュストを演じ、ようやく路線らしい待遇で、本領発揮していました。何しろ美貌の「革命の大天使」役ですから。
 
 余談ですが、私は「ベルサイユのばら」のアニメで、サン・ジュストロベスピエールに向かって「いやだなぁ、先生」と言う場面がえらく好きで、長らく頭の中に残っていて、ずっと忘れられずにいました。そんなこともあって、サン・ジュストは私にとって無視できない人物であり、その上で美貌といえば現在の雪組ならナギショーではないかと思っていましたが、あーさで十分イケてました。「死の天使長」役にふさわしい端整な容姿の、それでいて冷徹な若い革命家役を等身大で演じていました。あり(暁千星さん)と対の扱いだった月組時代から、ひと皮むけたような感じがします。
 
 そして、これがサヨナラ公演となった専科のコマ。お疲れ様でした。男役の姿で「旅立ちの時」と歌った銀橋ソロでは、思わず涙ぐんでしまいました。今回も、芝居では男役、ショーでは男役→娘役→男役とカメレオンのように変化して楽しませてくれました。こんな器用で芸達者なタカラジェンヌは今は他にいないので、とても残念です。舞台にいると、端にいてもつい目がいってしまう個性あふれる存在感のある魅力的な役者さんで、本当に何でもできるので、外部では元トップスターよりも重用されると思います。これからも頑張ってほしいです。