羽生雅の雑多話

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平昌オリンピック フィギュア団体戦 無念のテレビ観戦記

 始まりました、平昌オリンピック。

 
 本日のフィギュアスケート団体戦フリーとスピードスケート女子1500メートルの観戦に行く予定でしたが、7日に熱が出て8日に医者に行ったらA型インフルエンザの診断。今回は風邪とか肺炎の手前とかではなく明らかな感染症なので、当然のことながら、平昌行きはキャンセル。観戦チケット代は戻ってこないし、同行予定だった友人には一人で行ってもらうことになったし、もう踏んだり蹴ったりです。外出もできないので、ふらふらゴホゴホしながらテレビ観戦しています。
 
 さて、その団体戦ですが、カナダが金メダルでした。長年男子シングルを引っ張ってきたパトリック・チャン選手にとっても初めての金メダルですね。おめでとう。パトリックにオリンピックの金メダルを一つぐらい取らせてあげたいと思っていたのでよかったです。今回はショートとフリーの両方に出場し、ショートは不本意な演技ながらも、フリーでは4回転+3回転と4回転単独をクリーンに決めて1位となり、最後のアイスダンスの結果を待たずに金メダルをほぼ確定させました。なので、もちろんソツなく演技をしたチームメートたちの力もありますが、自分の力でもぎとったという思いがある満足のいくメダルではないでしょうか。
 
 カナダは、アイスダンスで、メリチャリことアメリカのメリル・デイヴィスチャーリー・ホワイト組としのぎを削っていたテッサ・バーチュー&スコット・モイヤー組が1年前に現役復帰して参戦。リフトの入り方一つとっても他のペアとは違う完成度の高い貫禄の演技で、ショートもフリーも素晴らしかったのですが、フリーは棄権しなければ金メダルという状況での演技なので、精神的に余裕があったと思います。欲を言えば、自分たちの演技でメダルの色が決まるような切羽詰まった状況下で、鬼気迫る彼らの演技が観たかったですね。メリチャリに比べると気品という点では劣るのですが、派手さとセクシーさでは現時点でこの組に敵うペアはないと思っています。私は品があるスケートが好きなので、メリチャリのほうが好きだったのですけどね。でも、今のアイスダンス選手の中では彼らの演技が一番好きです。とにかく迫力があって見ごたえがありますから。
 
 女子シングルフリーに登場したデールマン選手の演技もよかったです。彼女は足だけでなく全身の動きが素晴らしい。キレがあってアスリートの動きです。ショートに出場したオズモンド選手は点数が出過ぎのような気もしましたが、演技がダイナミックでインパクトがありました。ただしその分、ミスしたときの印象も強く、人より目立ってしまっている感じはしましたが。
 
 銀メダルは、OAR=オリンピック・アスリートfromロシア。国として参戦できないので、てっきり団体戦には出られないと思っていたのですが……あたりまえのように出ていましたね。女子シングルの二人――メドベージェワ選手とザギトワ選手、凄かったです。特にフリーに出場したザギトワ選手の「ドン・キホーテ」は見事でした。点数が1.1倍になる後半にすべてのジャンプを入れるという構成はショートなどで最近よく見られますが、そのジャンプが、ちょうどバレエにおいてピルエットのあとピタリと止まってポージングを取る音楽のところに嵌め込まれていて、きっちりと音と合っているうえに、いずれも加点が付くジャンプでしたから。ジャンプだけでなく、ミスのない安定した演技で全体を通して美しさが損なわれず、まるでバレエを観ているような印象がありました。柔らかさはメドベージェワ選手、端整さはザギトワ選手といったところでしょうか。個人戦、姉妹弟子でもある若き二人の熾烈な争いが見られそうで、楽しみです。
 
 銅メダルは、前回に続いてアメリカ。バンクーバーオリンピックの女子シングルで4位だった長洲未来選手が女子シングルフリーに出場し、トリプルアクセルと3回転+3回転を決めてザギトワ選手に次ぐ2位となり、ついにオリンピックメダリストになりました。おめでとう。男子シングルフリーに出場したアダム・リッポン選手も独特な表現力のキワモノ部分が薄れて、純粋に美しいと思える演技だったのでよかったと思います。本当に上手くなりました。ショートに出場したネイサン・チェン選手にとっては棚ぼたのメダルだと思いますが、初のオリンピックで個人戦の前にいい経験にはなったと思います。
 
 ちなみに今回、女子シングルにおいて、伊藤みどりアルベールビル)、浅田真央バンクーバー)に続く三人目のオリンピックでのトリプルアクセル成功者となった長洲選手は、トリプルアクセルを24歳で習得しました。フィギュアは競技年齢が若く、24歳といえば引退も考える年ですから、すごいことだと思います。30歳で3回転+3回転のコンビネーションを跳ぶコストナー選手にも驚きましたが。二人とも、普通では年齢が年齢だから仕方がない、できない、無理だ、と思うところをあきらめずに努力して、一般的には限界と思われているところを超えて結果を出し、長らく第一線で活躍してきた十分なキャリアがありながらもさらに進化して、今なお現役のオリンピックアスリートとして輝いています。
 
 かつてネイサンはフリーに4回転を6回入れたことがあり、ユヅはそれを超えるために7度の4回転を入れるプログラムにしてきました。もはやコーチに言われたことしかやらない、今までと同じことしかやらない、常識の範囲内のことしかやらない選手は勝てない時代になったのだと思います。そういう意味では、人の言うことを聞かない羽生結弦選手は、限界を超えていく選手の先駆けで、それゆえに絶対王者と言われる立場にまで至れたのかもしれません。一方で、今回の団体戦に出場した日本人選手たちは、その点ですでに負けていたような気もします。年齢的にも若いし、つまり明らかに経験不足ですね。
 
 トップ選手の宿命である限界を超えていく挑戦を続けた結果、ユヅはオーバーワークで怪我をして崖っぷちに立たされているわけですが、やってきたことが間違いではなかったと認めさせるためには、結果を出すしかありません。同じように限界を設けずに努力して限界を超えて、結果を出している選手たちがいるのですから、本人も言っているように、ユヅにできないことはないと思います。とにかく悔いのない試合をしてください。でも、くれぐれも無理はせずに。まだ次がある年齢なのですから。場合によっては、あきらめる勇気も必要です。
 
 テレビ観戦中に江陵アイスアリーナに行っている友人から「髙橋大輔」と題したメールが来て、「すぐ近くにいる。すれ違い様にちょっとしゃべった」とのこと。もういろいろな意味で悔しくて悔しくて、激しく咳き込んでしまいました。
 
※追記
 観戦予定だったスピードスケート女子1500メートルで、高木美帆選手がみごと銀メダルを獲得しました。おめでとう。返す返すも現地で観られず残念です。