羽生雅の雑多話

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本領発揮、初めて見たメドベージェワの本気

 平昌オリンピックも大詰め。夜には閉会式があり、最終日の今日はフィギュアスケートエキシビションです。久しぶりにハビエルの「エアロビック・クラス」を観ましたが、相変わらず最高でした。これぞ有終の美です。ユヅの「ノッテ・ステラータ」もよかったですね。何度見てもジョニーを思い出す衣装ですが、よく似合っていて美しいです。改めて夕方の放送を観たら、フィナーレの横一列になって手をつなぐところで、ユヅの隣がOARの女子二人だったことに笑いました。どれだけユヅが好きなんだ、エフゲニア。アリーナも負けじと、すかさず反対側の隣を確保。おもしろすぎます。

 
 競技の最終種目だった二日前に行われた女子シングルの金メダルはアリーナ・ザギトワ選手でした。序盤のミスも後半に取り返し、団体フリー同様まったく問題のない演技でしたが、それ以上に目を瞠らされたのが銀メダルのエフゲニア・メドベージェワ選手。技術の高さに加えて、持ち前の表現力と動きの柔らかさ、それと、今回のフリーは一本芯が通ったような、いつもフワフワしたような表現で高い技がかろうじて演技を引き締めていたような彼女からは今まで感じられなかった、キリッとした印象を受けました。シニアデビューから怪我をした去年の10月まで国際大会負けなしの絶対女王で、彼女を脅かす選手がいなかったため、ミスがなければ7~8割程度の力でも勝てるという感じで、率直に言って、技術力も表現力も高いけど、情感を込めて演じている中に、正確だけど美しくないジャンプが入っている、まとまりのない演技で、魅力がありませんでした。手を挙げて跳ぶタノジャンプも、難しいことはわかりますが、手が曲がっていたりして、けっして美しいものではなく、毎回毎回「高い点が取れるからって、手を挙げればいいってものじゃない」って思っていました。それが今回のフリーでは手もちゃんと伸びていて、最初から最後まできちんと丁寧にという意識が感じられ、心がこもった演技でした。エキシビション放映後のまっちー(町田樹さん)のテレビ解説でも、怪我から復帰したあとのプログラムは整理されて洗練されたと言っていましたし。残念だったのは、ザギトワ選手より抑揚のない音楽で、観客やジャッジが共感したり気持ちを高めて行くような劇的なドラマ性やテンポの良さに乏しく、彼女の情感豊かな演技が盛り上がりの部分で欠けていたことです。ザギトワ選手の「ドン・キホーテ」はバレエ曲だけあって、踊りを生かすことが考えられた曲で、メリハリがあります。後半に固めたジャンプも軽快で明るくなる曲調に合わせて嵌め込んであり、ザギトワ選手がきちんと音を外さずに跳んでいるので、違和感がありません。ジャンプの得点の差以上に、そのへんの選択が勝敗を分けたような気がします。試合の翌日――24日の読売新聞に掲載された「荒川静香の目」に、ザギトワ選手の演技について、「選曲や見せ方にも工夫がある。ジャンプを後半に集めると「偏りがある」と評価される恐れもあったが、曲調を利用して演出に見せている。軽快なリズムの曲を選び、15歳のあどけなさも魅力にしている」と書かれていましたが、まさにそのとおりだと思いました。さすがしーちゃん。
 
 ただし、ザギトワ選手はショートのプログラムも「ブラックスワン」でバレエ音楽、衣装もフリー同様にチュチュ風で、厳密にはデザインが異なり、袖があったりなかったりするのですが、パッと見の印象としては色が違うだけという感じがします。ということで、今回は選曲も含めてプログラムがピタリとハマりましたが、今後成長していく中でバレエ音楽とチュチュ以外の衣装でも魅力が出せるのか、力が発揮できるのか、幅広いプログラムが滑れるのか、それが今回と同じように勝てるプログラムになるのかが課題となると思います。すべてのプログラムが後半にジャンプを持ってくる構成では、いずれ飽きられますから。
 
 宮原知子選手は素晴らしかったのですが、自己ベストを更新したあの演技でメダルが獲れないのなら、残念ですが、今のライバルたちがいるかぎり、もはやメダルは獲れないと思います。ノーミスの演技で、ジャンプも懸念していた回転不足を取られることなく、すべてをクリーンに決めましたが、高さと幅がないから、質が高いとは認められず、どんなに完璧に決めても加点が少なく点数を上積みできない。銅メダルのオズモンド選手がそれぞれのジャンプで2点近い加点をもらうのに対し、宮原選手は1点ぐらい。フリーにジャンプは七つありますから、同じジャンプをしても約7点の差が広がります。スピンもステップも取りこぼしはなく、すでにレベル4をもらっていて、これ以上の伸びしろはないため、今のジャンプの質であるかぎり頭打ちです。差を縮めるためには、あとはもう、より基礎点の高いジャンプを組み込んで、それを1.1倍になる後半に持ってきて得点を伸ばすぐらいしか方法がありません。3回転+3回転をルッツとループのコンビネーションにするとか。けれども、ザギトワ選手がすでにこのコンビネーションでプログラムの後半に跳ぶことを実現しているので、ジャンプの質を考えると、同じことをしても彼女には敵いません。引き続き北京を目指すのなら、これからの4年をかけてそれ以上のことをやって習得するしかありません。今回4位で、さらに次のオリンピックを目標とするのなら、それは今度こそメダルを獲るためでしょうから――。今回6位の坂本花織選手をはじめ、宮原選手より若い選手がこれからどんどん追い上げてきて国内における競争も激化し、厳しい道のりだと思いますが、宮原選手がそう決めたのなら、これからも頑張ってほしいです。オリンピックの意味はメダルだけではないと思いますし。
 
 坂本選手は同世代――一つ年上のメドベージェワ選手、二つ年下のザギトワ選手があのレベルの演技をするのですから、それと比較すると絶対的に完成度が低く、まるで大人と子供の演技というぐらい差があり、劣って見えるため、メダルを獲れる要素はありませんでした。坂本選手と同じく去年までジュニアだったザギトワ選手は心身ともにしっかりとシーズンを通してシニアの場で戦っていましたが、坂本選手はまだジュニアの感覚を引きずったままのシニア1年目の戦いでしたね。とはいえ、ジャッジに評価してもらえる質の高いジャンプを持っていることは大きな強みです。スピンやステップのレベルもまだ伸ばせますし、表現力といったものは、今後の取り組み方次第でいくらでも伸ばせます。ジャンプの質を維持しつつ表現力を磨き、総合的な力を上げていってほしいと思います。
 
 今回のオリンピックのフィギュアスケートはどの種目もハイレベルな戦いで、見ごたえがありました。選手の皆さん、お疲れ様でした。素晴らしい戦いを見せてくれてありがとう。これだからショーより競技のほうが好きです。