本日は日比谷で宝塚花組公演、ミュージカル・ゴシック「ポーの一族」を観てきました。萩尾望都さんの同名マンガを、イケコこと小池修一郎さんがミュージカル化した作品です。
萩尾望都さんといえば、マンガ好きで知らない人はいないという大御所漫画家。私は川越に引っ越した小学四年生ぐらいから新しくできた友達の影響でマンガにのめりこみ、親に隠れて読みまくって、自分では「LaLa」を買い、フレンド、コミック、マーガレットなどは友達から借りて、多い時には月に10冊ぐらいマンガ雑誌を読んでいる子供でした。また、好きが高じて、放課後に友達とマンガを制作したりもしていました。絵が下手だったので原作を脚本のような形で書き、作画は絵の巧い友達に担当してもらって、ジャポニカ自由帳に鉛筆で描いてもらいました。
そんなマンガオタクだったので、80年代以降のマンガは比較的リアルタイムで読んでいるのですが、70年代のマンガはすでに連載が終わっているものが多かったので、興味がある作品だけをコミックで読んでいました。70年代の作品で好きなのは、なんといっても池田理代子さんの『ベルサイユのばら』。そして有吉京子さんの『SWAN』でしょうか。好きな漫画家は大和和紀さんだったので、もちろん彼女の作品は『はいからさんが通る』をはじめ、ほぼ全部読んでいます。一条ゆかりさんとかも好きでしたね。
手あたり次第に読んでいましたが、絵が苦手な漫画家もけっこういて、その人たちの作品はどんなに人気作品でも読めませんでした。細川智栄子さんとか吉田まゆみさんとか……。萩尾望都さんもあまり得意ではなかったので読んでいなかったのですが、あまりに評判がいいので、試しに光瀬龍さんのSF小説を漫画化した『百億の昼と千億の夜』を読んでみました。そうしたらとんでもなくおもしろくて……名作です。かなり処分したのですが、この作品と『銀の三角』はいまだに手放せない本になっています。細川さんや吉田さんの絵はまったく読めないぐらい苦手でしたが、萩尾さんや吉田秋生さん、山岸涼子さんなどは、絵が苦手だけど話がおもしろいので読めるし、読まなきゃ損という感じでした。絵もストーリーも好きだったのは、成田美名子さん。それと、川原泉さんは絵がどうのこうのを超越した別格で、総合的に大好きでした。『ワタシの川原泉』、もちろん持っています。
ちなみに、私の長編少女マンガベスト10+αは下記のような感じです。
・河惣益巳『ツーリング・エクスプレス』
・中山星香『花冠の竜の国』
・木原敏江「夢の碑」シリーズ
・田村由美『BASARA』
・ひかわきょうこ『彼方から』
・由貴香織里『天使禁漁区』
好きな順というよりはほぼ刊行時代順で、見てのとおり、萩尾さんのテイストに近いといえるのは水樹和佳子さんの『イティハーサ』ぐらい。ということで、自分の好みの作風からはズレていたので、『ポーの一族』も読んだことがなかったのですが、『銀の三角』を描いた漫画家の作品ならば話はおもしろいだろうと思っていて、それをイケコが料理するのなら悪い作品にはならないだろうとは思っていました。
で、公演の感想ですが、第一は、やはりイケコはスゴイ、です。原作がある作品の宝塚舞台化は本当に見事です。最初のほうはテンポの良さと楽曲だけがいい作品という印象でしたが、だんだん見ごたえが増してきて、最後まで飽きさせませんでしたから。
はじめのうちは、いくらみりお(明日海りおさん)とはいえ、10代の少年役はキツイよなぁと思って観ていましたが、彼女の役が何年経っても10代の少年の姿のまま永遠の時の流れの中で生きなければならない孤独な男という立ち位置になって、年を取らないために人目を憚って生きる悲哀を漂わせるようになってから、役との違和感はなくなりました。みりおは見た目がいいから、どう見ても人間の少年とは思えない妖しい巻毛の少年姿よりも、美青年の姿の役が見たいという気持ちはたびたび湧き起こりましたが、現在のトップスターでエドガー役ができるのはみりおだけで、この役はこの役でハマリ役だとも思いました。とはいえ、学校の場面などは、みりおを含めてかなり不自然で、見ていて少々つらかったですが。
そんな中で、今回の公演で実質的な二番手だったカレー(柚香光さん)が演じたアランだけは、少年として見た目もまったく問題がありませんでした。みりおと並んでも遜色のない華やかな容姿で、二人の並びがこの作品の美しく切ない世界観を一番表現していたと言っても過言ではありません。そして、カレーは少し歌が上手くなったようにも思えました。
今回はみりおが少年の役だったので、娘役トップスターの仙名彩世さんは、みりおエドガーの義理の母親となるシーラ役。トップスターとコンビを組む相手役といえども、さすがにエドガーより年下の設定である妹のメリーベル役にキャスティングはできなかったのだろうと思いました。母親といっても、二十歳そこそこの若い娘の役ではありましたが。そう考えると、10代半ばの少年役をこなしてしまう明日海りおという役者は、やはりスゴイです。そもそも、みりおとカレーの場面に、他の人が入る余地はありませんでした。そこは、宝塚でも屈指の美貌を誇る男役二人が危うい美少年になりきることで創られた、萩尾ゴシックワールドそのものの耽美な世界でしたから。
瀬戸かずやさんや鳳月杏さんなど、このところあまり役柄に恵まれず気の毒だった花組男役スターたちも、久々に存在感のある役をもらって、思う存分実力と個性を発揮し、それぞれの役を的確に演じていたように見えました。ようやくまもともな作品に出合って、アンサンブルも含めて、花組生たちが今持てる力を出しつくそうと頑張っていたように思えます。フィナーレのダンスは相変わらず「………」でしたが。見た目はカッコいいのに、踊りがカッコよくない。みりおは基本的に動かないし、カレーは動きがオカマくさいし。