羽生雅の雑多話

引越してきました! 引き続きよろしくお願いします!

ミュージカル「タイタニック」辛口さらっと感想

 一昨日、日本青年館でミュージカル「タイタニック」を観てきました。石川禅さん、鈴木壮麻さん、ヤンさん(安寿ミラさん)、きりやん(霧矢大夢さん)という豪華キャストの上、ディカプリオの「タイタニック」が大好きなので。映画は何度観ても飽きません。あれぞ、THE ハリウッド映画です。


 ミュージカルのほうは再演で、再演ということは初演が好評だったということなので期待していたのですが、残念ながら微妙な感じでした。タイタニックの物語はドラマ性があって、実話が元になっているだけに説得力があるので筋はよくまとまっていて、意味が解らないとか話が破綻しているようなところはなかったのですが、はっきり言って、ミュージカル作品として全然おもしろくありませんでした。1幕は退屈すぎて寝そうになりました。船が沈むとわかった2幕からは多少スピード感が出てきて、ヤンさんの好演もあって、やや持ち直しましたが。1幕なんか、ヤンさんの無駄づかいだと思うほど、別にヤンさんでなくてもいいのでは……という役でしたから。

 とりあえず加藤和樹さんが演じる船の設計士アンドリュース役が主人公みたいですが、まったく存在感がなくて、まだ座長を担うには厳しい気がしました。オーラがないので。井上芳雄さんあたりは若いときから主演オーラがありましたが。座長の相手役やライバル役など、一座の二番手、三番手あたりの役のほうが実力を発揮できると思います。「マタ・ハリ」のラドゥー大佐役はあまりいい印象がありませんが、「ハムレット」のレアティーズ役はよかったですから。

 いい人よりも嫌な人間をやらせたら抜群の石川さんも、今回の憎まれ役である船主イスメイ役も上手くこなしてはいましたが、彼の往時のレベルではなく、「モンテ・クリスト伯」や「貴婦人の訪問」の時のような凄みはありませんでした。石川さん、鈴木さんは声が出ていなくてセリフが聞きづらいところもけっこうあって、正直「年を取ったなぁ」と感じました。

 きりやんは、なんとか一等客たちと接点を持とうとする上流志向の二等客アリス役で、芝居心がないと表現しきれない役なので、さすがだと思いました。アリスの夫であるエドガーがしっかりと気の毒に思えたのは、きりやんの演技力に負うところが大きいと思うので……。なのですが、役柄があまり魅力的ではないので、正直に言えば、もう少し違う、見甲斐のある役で見たかったです。

 ヤンさんは、品も貫禄もあってよかったのですが、見せ場が少なすぎ――というか2幕に偏りすぎ。その点についてはヤンさんが悪いわけではないので、気の毒なのですが……。1幕でほとんど何も語られていない、語ってもいないストラウス夫妻が、船が沈むことになり救命ボートの数が足りないため夫婦そろって船に残ることを決めたあと、突然フューチャリングされても感情移入できません。その難しさの中で、しかも短い場面で、ヤンさん演じるアイダとその夫イシドール役の佐山陽規さんは見事に二人の世界を作っていて素晴らしかったのですが、1幕の扱いから考えると唐突感はあるし、他のカップルの場面と完成度に差がありすぎたこともあって、作品の中で浮いているような、しっくりこない違和感が拭えませんでした。

 音楽はきれいな曲が多かったのですが、きれいすぎてメロディが引っかからないというか、耳に残るような曲がなく、また歌が下手という人はいなくて、みんなそこそこ歌えますが、ソロでじっくり聴かせるような印象的な歌ウマの人はなし。「ポセイドン・アドベンチャー」にだってミュージカル映画というわけでもないのに「モーニング・アフター」という名曲を聴かせるシーンがあるのに……と思いました。映画「タイタニック」の「My Heart Will Go On」も効果的でしたが、必然的にバタバタすることになるパニックもののクライマックスには心を落ち着かせるような、心にしみいる挿入歌が必須のような気がします。ということで、濱田めぐみさんとは言いませんが、和音美桜さんクラスの歌ウマが一人ぐらいいてほしかった。映画では世界の歌姫セリーヌ・ディオンが担当した重要ポジションですから、彼女たちぐらい印象に残る歌が歌える、存在感のある歌ウマでないと意味がなく、同様の効果は期待できません。機関士バレット役の藤岡正明さんは特徴的な声で印象に残るのですが、歌い上げるような豊かな声質ではなく、好き嫌いが分かれる個性的なタイプで、私としてもあえて聴きたいと思うような歌声ではないので、どちらかといえば印象的=悪目立ち=浮いているという感じでした。多くの出演者の中で記憶に残るだけ、まだいいのかもしれませんが……。そして、突出した歌ウマがいなかったことにも増して残念だったのが、ハーモニーがイマイチだったこと。カップルが何組も出てくるのですが、きれいにハモっている組み合わせがなくて、よいと思えたのは本当にヤンさんと佐山さんペアぐらいでした。

 群像劇だからなのかもしれませんが、話の筋はまとまっていても、全体的にバラバラな感じで一体感がなかったので、オーディションによる寄せ集めではなく、カンパニーで演じたら、もう少しよいミュージカル作品になるのではないかと思いました。細かい内容はともかく、物語自体は何も問題がなく、文句なしに泣ける話なので、もう少しミュージカルとしてブラッシュアップされ、よりエンターテインメント性の高い新バージョンで観てみたいですね。ぜひイケコ先生に演出してもらって、宝塚版で観たいです。