羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~雪組「ファントム」の殊勲者は彩風咲奈

 3連休の三日目――月曜は、日比谷で宝塚雪組公演「ファントム」を観てきました。週の仕事が始まる前日は家でのんびりしたいので、慌ただしくなってもスキーは一泊二日にして丸一日休むようにしているのですが、今回の公演はとんでもないチケ難で、この日のチケットしか入手できなかったので。結局痛めた右足は回復せず、足をかばって歩くせいか腰まで痛くなっていたのですが、軋む体に鞭打って行ってきました。

 
 で、感想ですが、長年宝塚を観ていますが、ちょっと憶えがないほどの、すごい公演でしたね。「ファントム」は、私が大好きなアンドリュー・ロイド・ウェバーの「オペラ座の怪人」と同じくガストン・ルルの小説を基にしたミュージカルで、主人公の怪人――エリックも、ヒロインのクリスティーヌも歌が上手いという設定なので、はっきり言って「エリザベート」より難度が高い作品です。二人の歌が出演者の誰よりも上手くなければ成り立ちませんから。
 
 ――ではあるのですが、5組一歌ウマのトップスターである、だいもんこと望海風斗さんのエリックはさすがでした。圧巻です。彼女の歌は上手いというだけでなく、歌の力――歌に人を動かす力があることも感じさせてくれました。雪組の前回公演「凱旋門」の感想記事で、だいもんの代表作になるだろうと書きましたが、商業的にも成功し、まさしくそうなりましたね。
 
 とはいえ、だいもんのハマリ役ぶりは予想の範囲内。想像を超えてきたのが、娘役トップスターの真彩希帆さんでした。クリスティーヌはオペラ座の歌手というだけでなく、「エンジェルヴォイス」の持ち主です。彼女はそのたとえに恥じない声と歌を聴かせてくれました。ビストロで、そこに集っているオペラ座の関係者たちが彼女の歌の虜になっていく場面も十分説得力がありました。だいもんとのデュエットは、どちらも相手に遠慮して加減をする必要がないので、二人とも気持ちがいいくらい全力で歌っていて、舞台上でそれがぶつかり合い、ものすごいエネルギーを生み出していました。
 
 トップコンビの歌が頭抜けて凄すぎるだけに、下手をすれば二人だけ別世界にいるような感じで浮いてしまう危険性がありましたが、本公演がそうならなかったのは雪組生の努力の賜物だと思います。中でも素晴らしかったのが、二番手男役のさき。雪組「ファントム」の肝は明らかに彩風咲奈で、この公演を成功に導いたのは、キャリエール役を最後まで違和感なく演じ、歌においても瑕疵のないパフォーマンスを見せた彼女だと思います。何しろオペラ座の前支配人で、怪人エリックの父親ですから……最初から最後まで出ずっぱりの役であり、しかも息子エリックを演じるだいもんは4学年上の先輩――さきの出来こそが最大の鍵だったと思います。けれども、息子のだいもんと一対一で対峙する難しい場面も含めて、見事に演じきりました。アッパレ!さき
 
 役替わりは、オペラ座パトロンであるシャンドン伯爵がナギショー(彩凪翔さん)で、オペラ座の新支配人であるアラン・ショレがあーさ(朝美絢さん)でしたが、二人もよかったです。ナギショーは久しぶりに正統派美青年役で持ち前の美貌が際立っていたし、真彩クリスティーヌとのデュエットもすごい頑張っていて、聴いていて引っかかったり、へこむこともありませんでした。なんといっても相手は「エンジェルヴォイス」ですから――すごいことです。ナギショーもアッパレ!
 
 あーさも、美貌ゆえに「死の天使長」の異名をとったサン=ジュスト役がハマるような美形の男役路線スターなのに、今回は、野心あふれるプリマドンナ――カルロッタの夫で、彼女のためにキャリエールを追い落としてオペラ座の新支配人に就任した髭面の性悪オヤジ役。幕が上がってしばらくは、あーさだとわからないほど好演していました。
 
 ショレやキャリエールみたいな、酸いも甘いも知る壮年の男の役は、演じる役者自身がどうであれ、役の年齢に合った人間的な深みや味を出せないと、物語全体が薄っぺらくなると思いますが、さきもあーさも、だいもんより学年が下だということを感じさせないぐらい、よくやっていたと思います。本来ならば専科でもいいくらいの役ですが、出番の多さと役柄の重要性を考えると、二番手、三番手の役どころなのかもしれません。ともあれ、この難しい役をやることで、さきもあーさもまたひと皮ふた皮むけるのではないでしょうか。とりわけ、さきの成長ぶりは著しく、徳三郎、ダントン、そしてキャリエール……と、見るたびに驚かされてきました。トップになったらどうなるのか、どんな彩風咲奈を見せてくれるのか――今から楽しみでなりません。