羽生雅の雑多話

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グレート・コメット~名作『戦争と平和』の登場人物による単なるドタバタ劇

 本日、テニスで日本人の世界ランキング1位が誕生しました。大坂なおみ選手、おめでとう。全豪オープン優勝もおめでとう。いい試合でした。


 女子テニスはナブラチロワが好きだったので、グラフ、ヒンギスの時代ぐらいまでは熱心に見ていました。ナブラチロワが来日したときには有明で試合を見ましたし、初めての海外旅行でイギリスに行ったときにも、2泊しかしないのにロンドン見物よりウィンブルドン観戦を選んでナブラチロワの試合を見に行ったぐらいです。私が見ていたころは、日本人選手では伊達公子さんや杉山愛さんが頑張っていましたが、その頃はとても日本人が世界ランク1位になるなんて考えられませんでした。どうしても乗り越えられない壁のような選手がいたので……今の錦織選手にとってのジョコビッチ選手やナダル選手、フェデラー選手のような。なのに、大坂選手はトントン拍子にトップまで上がりましたね。グランドスラムでも初の決勝進出でチャンスをものにしていますし。若いのに見事です。

 ということで、夜7時半からはテレビでテニス観戦をしていたのですが、日中は池袋に出向き、東京芸術劇場でミュージカル「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812」を観てきました。こちらもチケ難の公演ですが、2枚確保できた友人が1枚をまわしてくれたので。本当にすごい盛況で、あんなに立ち見がいる公演も久しぶりでした。

 で、感想ですが、トルストイの『戦争と平和』が原作のブロードウェイミュージカルで井上芳雄が主演――ということで期待していたのですが、正直いって微妙でした。チケットをまわしてくれた友人には申し訳ないですが、イマイチを通り越してイマサンぐらい。観客に手拍子を求めて大騒ぎするような場面が多く、2幕の最後で、ようやくトルストイを原作にしていることを思い出し、井上芳雄を聴いている気分になりました。それまでは井上芳雄の無駄づかいだと思いましたし……1幕のクライマックスの歌は、歌っているのが芳雄クンであっても冗長な感じがして、気づいたら寝ていました。

 全体的に観客を巻き込む演出で、やたらと歌って踊るわりには、大して上手くもないアンサンブルなので、作品を軽々しくしているようにしか思えず、騒ぎ出すたびに19世紀ロシアの作品世界に入り込むのを邪魔され、聞こえてくる歌が美しくないどころか騒がしく耳障りなこともあって、時折不快にすらなりました。先日観た宝塚雪組の「ファントム」のほうが断然よかったです。そんなこんなで私は全然満足できなかったのですが、古典を原作としているミュージカルの演出としては斬新だし、ステージ内にオーケストラボックスと同じように観客席も作られていて、劇中で出演者が降りてきて声をかけたりする参加型なので、楽しめる人は楽しめると思います。

 出演者は芳雄クンときりやん(霧矢大夢さん)ぐらいしかいい印象がなく、芳雄クン演じるピエールと並ぶ主人公であるナターシャ役の生田絵梨花さんは、好き勝手なことをしてすべてを失う愚かな娘という役柄にはうまくはまっていたと思いますが、きちんと歌える音域が狭い上に歌声の声質がよくないので、イメージは合っていても歌は到底ヒロインにふさわしいものではありませんでした。それなのにけっこう多く聴かされるので、つらかったですね。聴いていて厳しいのは生田さんだけではありませんでしたが。この作品は脇役に至るまでソロで歌うことが多いのに、きっとカラオケは上手いだろうという程度の人たちばかりで、芳雄クン以外に正統派の歌ウマがいなかったのも残念でした。奇抜な演出の場合、シーンごとに舞台を任される出演者の全員が井上芳雄霧矢大夢なみに歌やら芝居やらが巧くて、どんなステージの作り方であっても、ステージを支配し、観客の視線を引き付けられる圧倒的な存在感を示してくれないとおもしろくないのだということを実感できたのが、収穫といえば収穫でしょうか。

 とはいえ、ミュージカル作品としてはけっして悪くなく、出演者がもう少し洗練されれば、名作文学をベースにしているとか関係のないエンターテインメントとして純粋に楽しめる作品になるのではないかと思います。ブロードウェイの役者による公演ならば、全体的にもっと迫力も切れ味もあるでしょうから、騒々しさもハイテンションの盛り上がりになり、おもしろいのではないでしょうか。日本でも、役付き全員を井上芳雄霧矢大夢レベルのスター性がある役者で揃えられれば、かなりブラッシュアップされて、ワンランク上の作品になると思います。今回はアングラ作品っぽいというか、それ以前の素人劇団作品くさかったですし。