羽生雅の雑多話

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春信木版画コレクションの虫干し

 昨日の夜は、先月とは別の元上司と恵比寿にフレンチを食べに行ったのですが、そのとき浮世絵の話が出て、家にある春信絵をしばらく出していないことを思い出したので、本日は虫干しがてら久しぶりに眺めて過ごしました。


 東京国立博物館ミュージアムショップなどでぽつぽつと買い集めて15枚ほどあり、飾る場所がないので普段はたとう紙に挟んで袋に入れて押し入れにしまい込んでいるのですが、以前私の浮世絵好きを知った人にいただいた広重の東海道五十三次日本橋」に、保管場所が悪かったのか、気が付いたら染みができていて、自業自得で泣くに泣けないショックを受けたことがあるので、以降定期的に風を通すようにしています。

 ……ではあるのですが、月日が経つのは早く、今回も前回の虫干しからかなり間があいてしまったので、おそるおそる開いたのですが、なんとか無事でした。

 アンティークではなく現代に彫られた版木で摺られた復刻木版画ですが、それでも印刷物とは明らかに違う、木版画だからこその味わい深い風合いがあります。巧く絵に取り入れられた空摺りとかを見ると、本当に惚れ惚れします。

 私は浮世絵では鈴木春信と歌川国貞の絵が好きで、けれども磯田湖龍斎や他の歌川派はそれほどでもないので、春信と国貞は何故好きなのだろうと考えたことがあるのですが、画風は違っても、計算され尽くしたきっちりとした構図と、くどいほど緻密な描き込み、その描き込みにふさわしい多彩な色づかいという点が似ているからではないかと思いました。どちらの絵もシーンが目に浮かび、ト書きを入れたくなるような物語性があります。彼らの画業が読み本の挿絵から始まっているからかもしれません。どこかグラフィックデザイン的なところもあって、ミュシャに通じるものも感じます。

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「鶴上の遊女」――空摺りで表された白鶴が見事。

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「扇の晴嵐」(「座敷八景」より)――近江八景を元ネタにしたこのシリーズは、リアリティあふれる仕草や姿態、動きなどの人物表現に加えて、調度品などの静物画的な描写も素晴らしく、春信の観察力とデッサン力の高さがわかる傑作。

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「台子の夜雨」(「座敷八景」より)

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「鏡台の秋月」(「座敷八景」より)

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「琴路の落雁(「座敷八景」より)

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「行燈の夕照」(「座敷八景」より)

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「手拭掛の帰帆」(「座敷八景」より)

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「時計の晩鐘」(「座敷八景」より)

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「塗桶の暮雪」(「座敷八景」より)

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「雪中相合傘」――空摺りを駆使した凹凸のある白で表された女と、べた塗りの黒で表された男……いろいろと深読みしたくなる作品。

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「舫い舟」――脱げた草履と足しか見えない人物は何者か想像を掻き立てる一枚。

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「縁先美人」――派手な模様はなく、空摺りで表現された白い着物、薄墨のシルエットで描かれる人影……色の対比で部屋の内と外にいる人間の感情の対比も表す、実に天晴れな作品。

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「梅の枝折り」――定規で線を引き、判を押したようにきっちりと描かれた硬い石壁をバックに、柔軟な体勢で描かれる女子二人……直線と曲線の対比が見事。

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「蛍狩り」――墨潰しで表した夜闇、渦巻く流水、透ける夏の薄衣、虫籠の網目……細かい表現と大胆な表現のバランスが秀逸。

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「雨夜の宮詣り」――広重の「大はしあたけの夕立」に見られる斜めの墨線による雨の表現は、すでに春信が使っている手法。雨はもちろん、木の葉や着物の裾、揺れる提灯から強い風の存在が伝わってくるのはさすが。