羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~大きすぎる美弥るりかの功績と今後の穴

 久しぶりの宝塚メモです。

 
 前回の東京公演――花組の「CASANOVA」は、ゴールデンウィーク前のチケットが手に入らず、ドイツに行って帰ってきたら終わっていたので結局観られなかったのですが、その次の、現在日比谷で上演中の月組は、みやるりこと美弥るりかさんの退団公演なので、あらゆる手段を講じてチケットを確保し、先月13日と今月2日に観に行ってきました。演目は「夢現無双―吉川英治原作「宮本武蔵」より―」と、レビュー「クルンテープ 天使の都」。
 
 「夢現無双」は、物語としてはさほどおもしろくありませんでしたが、舞台としてはそこそこおもしろかったです。テンポがよかったし、わかりやすいし。つまるところ宮本武蔵の修行日記で、起承転結も劇的なクライマックスもなく、「だからどうした」という感じで、極端に下手なスターがいなくて、バイプレイヤーも含めて芝居巧者が多い月組だからこそ成り立つ演目でしたね。下級生にも多く名前のある役というか見せ場のある役が付いていて、その点はよかったと思います。チギ(早霧せいなさん)のサヨナラ公演を思い出しました。なので、退団公演とかではないタカラヅカオリジナル作品の一つとしてならよかったのですが、当代一の麗人ジェンヌ、美弥るりかの男役最後の公演としてはかなり物足りなかったです。
 
 けれども、役付きが多かった分、みやるりの凄さがいっそう際立ってはいました。沢庵和尚、吉岡清十郎柳生石舟斎本阿弥光悦など歴史的にも重要な人物で、存在感のあるキーパーソンが次々出てこようとも、佐々木小次郎の特別感、異質感がハンパなく、出てくるたびに舞台を支配していましたから。人並みを超越した者だけが放つ孤高の研ぎ澄まされた雰囲気というようなものがビシバシ伝わってきました。
 
 ――なのですが、言い換えれば、ただ一人異様で、カンパニーの枠から飛び出しているような感もありました。今回の役柄は天下無双の剣士なので問題なかったのですが……。みやるりの存在感自体は二番手になったときに目に見えて際立つようになり、以後突出し、その点はここ数年変わっていないと思っていますが、それにもかかわらずこの印象の違いは何故だろうと思ったとき、ちゃぴ(愛希れいかさん)がいないからだと気づきました。さらに、組長だったすーちゃん(憧花ゆりのさん)もいなくて、みやるりと渡り合える圧倒的な存在感があった二人がいっぺんにいなくなってしまったため、みやるりが浮いて見えるのかもしれないと結論しました。
 
 特に、娘役トップスターがちゃぴから美園さくらさんに変わったのは大きな変化で、そのため1回目の観劇後は「どうしてこれがみやるりのサヨナラ……」とか、「月組、今後大丈夫か?」と思うほど納得のいかない感じでしたが、2回目は免疫ができていたからか、それぞれがよりブラッシュアップされて役を自分のものにしていたからなのかはわかりませんが、思った以上に楽しく観られました。
 
 現在の宝塚でこれほど宮本武蔵になりきれるのは彼女だけだろうと思えるほど、たまきち(珠城りょうさん)はハマリ役でしたし、くらげちゃん(海乃美月さん)の吉野太夫、新組長の光月るうさんの沢庵和尚、あり(暁千星さん)の吉岡清十郎、レイコ(月城かなとさん)の本位田又八、みんな素晴らしくハマっていましたし。レイコは2回目は休演でしたが。無理せず治療に専念し、早く怪我を治してほしいです。でも、復帰したらいよいよ二番手なので、美貌にふさわしい正統派美青年の役を演じてほしいですね。三枚目や二枚目半が続いているので。
 
 ショーは藤井さんの駄作に入る作品だったと思います。藤井さんのショーはスターを惜しみなく使い、一場面に多くの人数をかけて、勢いと熱気を作り、観客も巻き込んで、とにかく盛り上がるように演出しているのが特徴だと思いますが、今回は盛り上がりきっていないような感じでした。テーマがタイという縛りがあったのが最大の敗因だったと思います。シャンソン系の音楽をバックにしたパリやら、ジャズをバックにしたニューヨークやら、タンゴやギター音楽を使ったスパニッシュやジプシーの場面に比べると、ノリもいまいちで、観ているほうも感情移入しにくいです。2回目はやや改善されていましたが、1回目はみやるりが金の衣装で出てきて踊りはじめるまで見ているのも悲しくてどうしようかと思いました。
 
 2回目は、内容に関しては適当に流し、とにかくみやるりを見ていました。縦ロールやフワフワ前髪という髪型で、あれほど完璧にビジュアルを決められる人もいません。しいて挙げれば、さき(彩風咲奈さん)ぐらいでしょうか。黒燕尾姿でのソロでは、1回目の時はターバンを巻いていたのですが、2回目の時はターバンなし、フワフワ前髪も撫でつけた、典型的黒燕尾スタイルで、これぞタカラジェンヌという格好で立つ美しい姿に思わず涙ぐんでしまいました。変えてくれてよかったです。舞台は生き物で、日々確実に進化し、演目が同じでも同じではないので、ついリピートしてしまうのですよね。
 
 それと、ショーはまゆぽん(輝月ゆうまさん)も凄かった。彼女の芸達者ぶりには何度も驚かされます。爆上げの期待の若手、風間柚乃さんも馬車馬のごとき働きでした。
 
 ということで、新娘役トップスターの美園さんが慣れて力を付けてくれば、それほど月組も憂うことはないような気がしました。なにしろこの組には他組のトップスターにはできない骨太の役ができるたまきちがいますし。トップスターで、トート閣下より剣豪武蔵のほうが適役だと思えるのは彼女ぐらいでしょう。反面、たまきちに欠ける妖しい美貌や色気、妖艶さといったような、男装の麗人ならではの魅力を、その点に関しては現宝塚で随一といってよい器量で補っていたのがみやるりでした。彼女がいたから「1789」「All for One」「カンパニー」はより魅力的な作品になりました。ま、ちゃぴとみやるりが続けて抜けた穴はあまりに大きすぎるので、しばらくのあいだは埋まらず、物足りなさや小粒感を感じるとは思いますが、生暖かい目で見守り、引き続き月組を注目していきたいと思います。