2024年初めての記事になります。相変わらず寺社巡りや美術・芸術・舞台鑑賞にいそしみ、昨年末には久しぶりに海外旅行にも行き、それらについて書きたいのは山々なのですが、なにしろ余裕がなく、近況報告はもっぱらインスタグラムで行っております。フォローしてくれている友人知人からは、文がキャプションにあるまじき長さと言われておりますが、本人としては「これ以上削ったら投稿する意味がない」というくらい極力短くしているつもりなので、ご容赦を。
さて、本日のBGMはビリー・ジョエルの「ビリー・ザ・ベスト」です。行ってきました、24日に東京ドームで行われた「ONE NIGHT ONLY IN JAPAN BILLY JOEL IN CONCERT」、訳して「一夜限りの来日公演、ビリージョエル コンサート」。いやぁ~、最高でした。私にとって別格であるデヴィッド・ボウイを比較対象から外すと、過去最高に満足したライブでした。
東京ドーム22番ゲート上の電光掲示
前回の来日は2008年。この時も東京ドームで一夜限りのライブでしたが、それが素晴らしくよかったので、今回も行くしかないと思い、高額チケットにも臆さず前売り抽選に申し込みましたが、あえなく玉砕。追加で見切れ条件付きのS席が発売されましたが、その先着順争いにも敗れたので、毎日公式公演ホームページに通い、リセール情報をチェックしていたら、公演日の16時30分から22番ゲート前で当日券を販売するという情報をゲット。とはいえ、これは朝から並ばないと買えないだろうと思ったので、あきらめの境地で仕事に行きましたが、昼過ぎぐらいから気になって気になって、まったく集中できず。結局あきらめきれず、3時半過ぎに仕事をスパッと切り上げて、水道橋駅へと向かいました。16年ぶりで一夜限り、しかも会場は一番近いアリーナである東京ドーム、そして、ビリーは現在74歳なので、おそらく今回が最後だろうとも言われている特別な日本公演……当日券が買えるチャンスがあるのなら、やるだけのことはやろうと決意しました。
16時10分過ぎに東京ドームシティに到着し、22番ゲートに向かって歩いていると、クリスタルアベニュー沿いにあるタリーズコーヒーの前あたりで最後尾の立札を持ったスタッフを発見。ゲートからはかなり離れた場所でしたが、確認すると当日券の列とのこと。後ろからは続々と人がやってくるので、迷わずすぐに並んだものの、22番ゲートはそこからあまりに遠く、影も形も見えないため、いったい何人ぐらい並んでいるのかさっぱりわかりませんでした。券が何枚あるのかも不明でしたが、4時半を過ぎると、遅々としてですが前に進みはじめたので、買えると信じて並びつづけました。階段を上ってゲートと同じ高さに到達すると、長蛇の列は腸のように何度も折り返した数珠つなぎであることが判明。それを見た瞬間、心にも寒風が吹きつけ、一瞬気が萎えましたが、缶ビール片手に並んで談笑している外国人を見つけて気を取り直しました。最初のうちはアルコールを飲みながらというのはいい時間のつぶし方だと羨ましく思って見ていましたが、この日は寒波襲来で素手ではスマホなど操作できないほどの寒さだったので、この外気温ではとても真似できないと思い直し、それどころか、冷えてトイレに行きたくなったら困るので、手持ちのドリンクを飲むのも控えました。前に並んでいる人のもとに後から連れの人がやってくると咎めるぐらいピリピリとしている人もいて、一度列を抜けたら元に戻るのが難しそうだったので。
並んだときの当日券の列
外国人の他にけっこう多くて驚いたのが年配の方々で、ビリーと同年代なのだからライブに来ること自体に驚きはないのですが、御年70以上と思われる人がこんな極寒の中で買えるかわからない券の列に並んでいることに驚きました。一人で並んでいる車椅子の方も何人か見受けられましたし。前売りのA席、B席は1万円代でしたが、当日券で販売されるのは24,000円のS席のみ。しかも必ず買える保証はなく、それにもかかわらず私が確認できた範囲内で列を抜けたのは、わずかに二人だけ。四方八方から、なんとしてもビリー・ジョエルが見たいという思いがひしひしと伝わってきました。みな、ここまで並んで観ずには帰れないという気持ちもあったとは思いますが。長い時間並んでいると、近くの人たちが暇つぶしに見知らぬ人同士で話をしはじめ、朝一番の新幹線に乗ってきたなどという会話も漏れ聞こえてきたので、自分なんかまだ恵まれているほうだと思え、がんばれました。並んでいるあいだにグッズの販売状況についてのアナウンスが何回かあり、最後までスノードームだけが残っていたようですが、それもめでたく売り切れ、開演は19時でしたが、たしか1時間前にはパンフレット以外完売していたと思います。時間があったらグッズ売り場も覗きたかったのですが、残念ながらそんな余裕はまったくありませんでした。それでも、なんとか7時20分前に22番ゲート近くの券売所に到達し、ようやくチケットを入手。体感温度0℃の中、2時間25分もよく耐えました。ネット情報によると、当日券の列は1000人ぐらい並んでいたらしく、私の後ろにもまだ200~300人はいたような気がします。
ここまで苦労してライブのチケットを手に入れたのは初めてでしたが、それだけの甲斐はありました。席は1階3塁側スタンド30列のステージ正面という良席で、ライブは2時間半、アンコール前以外休みなしのフルスロットル。曲紹介やメンバー紹介以外ほとんどMCがなく、衣装替えもないため、歌いっぱなし、演奏しっぱなしで、カバー曲を含めて27曲も披露してくれました。年齢が年齢なので、いつぞや東京フォーラムで見たダリル・ホールのように声が衰えていないか心配だったのですが、杞憂でした。バンドメンバーのサポートヴォーカルが入る部分もありましたが、それはそれで、そういうライブヴァージョンのアレンジに聞こえ、高音を駆使する「イノセント・マン」もまったく問題なし。ビリー自身が「ハイトーンにさよならした」なんて言っていましたが、そう言いながらも、私の大好きなオペラの名曲、『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」を高らかに、かつド迫力で歌い上げてくれ、こちらも実にお見事でした。「16年前より声の調子はよいのでは?」と思ったぐらい。「これはとても連夜はできないな」と心から納得する全力疾走ぶりで、密度の濃さとクオリティの高さに驚きました。体力や喉の状態など、相当入念に準備してきたのだと思います。ステージ上のモニターにピアノを弾くビリーの手が何度か映し出されましたが、衰えを感じさせない動きで、見かけは確かに年を取りましたが、変わらずに正真正銘のピアノマンでした。70代といえば、教授(坂本龍一氏)のように、どれほど精力的に活動してきた人でも力尽きてしまう、走りつづけてきたからこそ無理がたたってガタが来て燃え尽きてしまう年代だと思っていたのですが、ひっくり返してくれましたね。「ふざけるな! この年でもまだまだこれだけやれる。年は関係ない、年齢なんか理由にならない」と言われているような、近頃いろいろ年齢のせいにしている自分に喝を入れられた気分でした。
私がビリーを聴きはじめたのは洋楽にハマった1980年代前半で、よく聴くようになったのは「プレッシャー」からでした。それまでは「オネスティ」や「ストレンジャー」など、70年代に発表されたシングル曲でいくつか好きな曲があるという位置付けのミュージシャンでしたが、「プレッシャー」のあと立て続けに「アレンタウン」「グッドナイト・サイゴン」がシングルで発売され、ノックアウトされました。それらを収録するアルバム「ナイロン・カーテン」から始まって、それまでに発売されたアルバムをすべてレンタルし、「ナイロン・カーテン」「ニューヨーク52番街」「ストレンジャー」、そして「ナイロン・カーテン」の次に発売された「イノセント・マン」の4枚はカセットテープにダビングし、擦り切れはしませんでしたが、劣化するまで聴きまくりました。「ナイロン・カーテン」はシングルカットされた上記三曲の他に「スカンジナヴィアン・スカイ」、「ニューヨーク52番街」は「ビッグ・ショット」「オネスティ」「マイ・ライフ」「ザンジバル」と続く完璧なA面と「アンティル・ザ・ナイト」、「ストレンジャー」は「ムーヴィン・アウト」「ストレンジャー」「素顔のままで」「ウィーン」「シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン」、「イノセント・マン」は「今宵はフォーエバー」と「夜空のモーメント」が大好きです。「アップタウン・ガール」「ロンゲスト・タイム」「あの娘にアタック」も好きですが、根がバラード好きなので。
「イノセント・マン」の次のアルバム「ザ・ブリッジ」は個人的には微妙な出来でしたが、このアルバムのワールドツアーで来日公演があったので、「オネスティ」聞きたさに、代々木体育館で行われた日本公演を観に行きました。これが初めて参戦したビリー・ジョエルのライブです。しかし当時のビリーは「自分はバラード奏者ではない、ロックンローラーだ」みたいな宣言をしていて、「オネスティ」をライブで封印していたらしく、聴くことはできませんでした。それがあまりにショックで、少ない小遣いをためてどうにかチケットを買い、東京まで出向いた埼玉の高校生ファンとしては裏切られたような、もう自分が好きな音楽を届けてくれるビリー・ジョエルではないのだと失望して、以後は新譜を聴くこともなく、ライブにも足を運びませんでした。ところが16年前、初来日30周年を記念した一夜限りの東京ドームライブ開催が決まり、初来日記念ライブなら日本で人気の「オネスティ」をやるだろうと思い、約20年ぶりに参戦。すっかり髪の毛がなくなった変わりようには驚きましたが、ミュージシャンとしてはイイ感じに年を重ねて、もはやロックもバラードもこだわりなく昔のヒット曲を楽しげに歌いこなすビリーに感激し、涙が止まりませんでした。次があったら絶対に行くと決めていましたが、その後長らく来日せず、高齢なので、もう日本でのライブはないだろうと思っていました。それが実現したのだから、本当に観られてよかったです。今回も「オネスティ」「ニューヨークの想い」「ピアノ・マン」で3回ほど感極まり、涙があふれました。
ビリーの音楽は、まず曲がメロディアスであることが大きな特徴ですが、その作風は時に都会的な洒脱さがあり、時にノリのよい軽妙さがあり、時にパワフルな重厚さがあり――と多岐にわたり、魅力は一つにとどまりません。またサウンドも多彩で、「ピアノ・マン」のハーモニカ、「ストレンジャー」の口笛、「アレンタウン」の汽笛音などは、今聴いても新鮮でカッコいいと思います。歌い方も幅広く、野太い声からウィスパーボイスまでこなし、また声を一つの楽器のように使うことも多々あります。ただ、どのように歌っても滑舌がはっきりとしているので、歌詞が聞き取りやすく耳に馴染み、学生時代は半分英語の勉強のつもりで聴いていました。おぼえやすいので歌いやすいような気がしますが、音域は広いため、いざ歌うとなるとハイトーンが意外やキツい。とてもビリーのようには歌えないのですが、一番好きな「オネスティ」だけはカラオケ創世期から自分の持ち歌にしたく、ひたすら歌い込んで習得し、今でもたびたび歌っています。
今回のライブでは「プレッシャー」や「素顔のままで」はやらなかったし、どちらかをやってくれればと思っていた「アンティル・ザ・ナイト」と「今夜はフォーエバー」もありませんでしたが、前回は聴けなかった「ビッグ・ショット」や「ウィーン」などが聴けました。私のように聴きたかった曲は観客それぞれにあったと思いますが、誰もが知るヒット曲だけでなく、前回やらなかったので今回も期待していなかった、人によって好みが分かれる隠れた名曲も取り上げてくれたので、総じて満足だったのではないでしょうか。少なくとも私の周囲にいた当日券組はほとんど一人客でしたが、ものすごい盛り上がり方でした。年齢層が高かったせいか、着席ではありましたが。まさしく音楽ライブのお手本のような完成度の高いパフォーマンスでした。世に稀なる天才が、長く豊かな経験を重ねたからこそ表現できた、立派なアートだと思います。
スペシャルな時間をありがとう、ビリー。最後なんて言わず、是非また日本に来てください。
1. MY LIFE(マイ・ライフ)/2. MOVIN'OUT(ANTHONY'S SONG)(ムーヴィン・アウト)/3. THE ENTERTAINER(エンターテーナー)/4. HONESTY(オネスティ)/5. ZANZIBAR(ザンジバル)/6. START ME UP(スタート・ミー・アップ/7. AN INNOCENT MAN(イノセント・マン)/8. THE LONGEST TIME(ロンゲスト・タイム)/9. DON'T ASK ME WHY(ドント・アスク・ミー・ホワイ)/10. VIENNA(ウィーン)/11. KEEPING THE FAITH(キーピン・ザ・フェイス)/12. ALLENTOWN(アレンタウン)/13. NEW YORK STATE OF MIND(ニューヨークの想い)/14. THE STRANGER(ストレンジャー)/15. SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD(さよならハリウッド)/16. SOMETIMES A FANTASY(真夜中のラブ・コール)/17. ONLY THE GOOD DIE YOUNG(若死にするのは善人だけ)/18. THE RIVER OF DREAMS(リバー・オブ・ドリームス)/19. NESSUN DORMA(誰も寝てはならぬ)/20. SCENES FROM AN ITALIAN RESTAURANT(イタリアン・レストランで)/21. PIANO MAN(ピアノ・マン )
アンコール
1. WE DIDN'T START THE FIRE(ハートにファイア)/2. UPTOWN GIRL(アップタウン・ガール)/3. IT'S STILL ROCK AND ROLL TO ME(ロックンロールが最高さ)/4. BIG SHOT(ビッグ・ショット)/5. YOU MAY BE RIGHT(ガラスのニューヨーク)
1. THE STRANGER(ストレンジャー)/2. ANGRY YOUNG MAN(怒れる若者)/3. MY LIFE(マイ・ライフ)4. THE ENTERTAINER(エンターテーナー)/5. JUST THE WAY YOU ARE(素顔のままで)/6. ZANZIBAR(ザンジバル)/7. NEW YORK STATE OF MIND(ニューヨークの想い)/8. ALLENTOWN(アレンタウン)/9. HONESTY(オネスティ)/10. MOVIN'OUT(ANTHONY'S SONG)(ムーヴィン・アウト)/11. PRESSURE(プレッシャー)/12. DON'T ASK ME WHY(ドント・アスク・ミー・ホワイ)/13. KEEPING THE FAITH(キーピン・ザ・フェイス)/14. SHE'S ALWAYS A WOMAN(シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン)/15. THE RIVER OF DREAMS(リバー・オブ・ドリームス)/16. HIGHWAY TO HELL(地獄のハイウェイ)/17. WE DIDN'T START THE FIRE(ハートにファイア)/18. IT'S STILL ROCK AND ROLL TO ME(ロックンロールが最高さ)/19. YOU MAY BE RIGHT(ガラスのニューヨーク)
アンコール
1. ONLY THE GOOD DIE YOUNG(若死にするのは善人だけ)/2. PIANO MAN(ピアノ・マン)