ただいま熱戦が繰り広げられているパリオリンピック。ヨーロッパ開催で時差がきついため夜中のライブ中継が多いのでテレビ観戦も寝不足でしんどいのですが、日本人選手が活躍してくれてメダル争いが連日見られるので楽しんでいます。リアルタイムで決勝をテレビ観戦したスケートボードのストリートでは、男女で日本人選手が金メダルを獲得。とりわけ、男子のディフェンディングチャンピオン、堀米雄斗選手の大逆転2連覇にはしびれました。
柔道女子48㎏級で金メダルを獲った角田夏実選手も見事で、巴投げから腕ひしぎ十字固めの必殺技は、派手さはありませんが、もはや芸術の域、職人芸だと思います。今大会も含めて昨今判定勝負が多くモヤモヤする「JUDO」の試合ですが、ひたすら得意技で勝負し勝利をもぎ取る角田選手の戦いぶりは実にスカッとするものでした。
JUDOは今や国際的な競技であり、開催国フランスでも大人気ですが、豪快な背負い投げなどがめっきり減って、見ていてすっきりしない競技になってしまいました。身一つで極められるので世界中の選手が力を付けてきて、実力が拮抗しているせいもあると思いますが。パリオリンピックでも技ありの認定や指導の累積による反則負けなど審判の判定で決まる勝負が多く、疑惑の判定とされる微妙な判定も多数生じています。
判定で勝敗が決まる試合をいくつか見ていて思ったのですが、両者が決定力に欠け審判の判断が勝負の行方を左右する展開になると、より高い実績を持つ選手のほうが有利な判定をされることが圧倒的に多いような気がしました。おそらく、どちらが勝っても負けてもおかしくない紙一重の場合、半分意図的に実績がある選手を勝たせる判断をしているのではないでしょうか。
基本的に、選手と個人的に関係のない観衆は王者びいき、強者びいきなのだと思います。どこまで勝ちつづけるのか見てみたい、前人未到の記録を見せてほしい、つまり強い人に勝ってほしい、そもそも知らない選手より知っている選手を応援したくなるのは人間の自然な心理だと思います。よって王者が苦戦して格下と拮抗し審判の判断が必要な試合展開になると、観衆を敵に回したくない審判は王者に有利な判定をしてしまうのだと思います、たぶん無意識のうちに。無意識だと思いますが、中には意識的にそうしている審判もいるかもしれません。何故なら、微妙な判定の場合、負けるのが王者よりもチャレンジャーのほうが、クレームになっても傷が浅くて済むからです。連覇や二冠がかかっているような試合で「疑惑の判定」をすれば何を言われてどうなるのかわかりません。身の危険につながることもありえます。無法地帯である現代のSNSのありようを思えば、審判も人間なのでビビって当然ですし、そんな緊張感のある精神状態で立ち合う上に、一流選手としての経験も浅ければ、おのずと判断の精度は落ちるので、必然的に誤審みたいな判定が多くなるわけで……でも今の世の中ではそれも仕方がないような気もします。だから格下のチャレンジャーが王者や世界ランクトップと戦う時は、誰が見ても文句のつけようがない完璧な勝利を収める必要があります。審判に指導をもらった時点で、判定勝負にもつれこんだ時点で、勝機はないのだと思います。以下、そう思うに至ったパリ五輪での試合です。
★女子48㎏級決勝
角田夏実(初出場、世界ランク4位、2021-23世界選手権3連覇)
優勢勝ち
バブードルジ(モンゴル、世界ランク2位、2024世界選手権王者)
角田選手の決勝の相手は自分より上位の世界ランク2位で今年の世界選手権王者のバブードルジ選手でしたが、代名詞である巴投げの技ありで優勝。ほぼ同格なので、技によるポイントがなく、判定勝負となっていたら負けていたかもしれません。
★女子48㎏級準決勝
角田夏実(初出場、世界ランク4位、2021-23世界選手権3連覇)
反則勝ち
バブルファト(スウェーデン、2024世界選手権3位)
角田選手の準決勝は反則勝ちでしたが、相手に与えられた三つ目の指導は対戦相手のバブルファト選手が激しく抗議するほど微妙な判定。バブルファト選手は今年の世界選手権銅メダリストですが世界ランクは29位。一方の角田選手は世界ランク4位で2021-23世界選手権3連覇なので、バブルファト選手より格上。王者びいきが働いた試合だったような気がします。
★男子60㎏級準々決勝
永山竜樹(初出場、世界ランク6位)
一本負け
ガルリゴス(スペイン、世界ランク5位、2023世界選手権王者)
今大会の柔道競技において最大の「疑惑の判定」である永山選手が敗れた試合ですが、永山選手は世界ランク6位で世界選手権は2019年の銅メダルが最高、かたや相手のガルリゴス選手は世界ランク5位で2023世界選手権王者という格上なので、王者びいきが働いたかと思います。
★女子52㎏級2回戦
阿部詩(世界ランク9位、前五輪王者、2023世界選手権王者)
一本負け
ケルディヨロワ(ウズベキスタン、世界ランク1位、2023世界選手権2位)
阿部選手は前五輪王者であり昨年の世界選手権王者、敗戦時に「うたコール」が響いたぐらい人気が高かったので、判定で勝敗が決する拮抗した試合なら王者びいきが働いて勝てたと思いますが、谷落としによる一本負けなので、疑惑が生じる余地もない完敗。
★男子81㎏級決勝
永瀬貴規(世界ランク8位、前五輪王者)
一本勝ち
グリガラシビリ(ジョージア、世界ランク2位、2022-24世界選手権3連覇)
永瀬選手は前五輪王者ですが世界ランクは8位、一方相手のグリガラシビリ選手は2022-24世界選手権3連覇で世界ランク2位、ほぼ同格なので判定で勝敗が決する拮抗した試合ならわかりませんでしたが、谷落としによる一本勝ちを決めて文句なしの勝利。
★女子63㎏級決勝
出口クリスタ(カナダ、世界ランク1位、2023世界選手権王者)
反則勝ち
許美美(韓国、世界ランク3位、2024世界選手権王者)
許選手は今年の世界選手権王者で世界ランク3位でしたが、相手の出口選手は昨年の世界選手権王者で世界ランク1位。王者びいきが働いてもおかしくない条件が揃っているので、勝つためには一本勝ちか一本に匹敵する誰もが認める技ありを取る必要がありました。
★男子90㎏級決勝
村尾三四郎(初出場、世界ランク3位、2023世界選手権3位)
合わせ技一本負け
べカウリ(ジョージア、世界ランク1位、前五輪王者、2023世界選手権2位)
村尾選手は世界ランク3位でオリンピック初出場、一方相手のベカウリ選手は世界ランク1位で前五輪王者、つまり格上で、ということは、王者びいきが発生する条件が揃っているので、判定で勝敗が決する拮抗した試合では勝てません。事実、試合を決める技ありと思われた内股がありましたが、認められず敗れました。
以上改めて振り返ってみると、審判の判定は実績がある選手のほうが有利であることがかなり顕著なので、誤審ではなく、こういうルールの競技のような気もしました。自分の判断で番狂わせを引き起こして非難されたくないという思いが働くからかもしれません。でもそれは仕方がありません。審判も人間なので。SNSのせいで現代の誹謗中傷は凄まじいですし。
であるならば、これからJUDOでオリンピックのメダルを獲りたければ、オリンピックの実戦の前までに接戦の際に王者びいきをしてもらえる実績を作ることが大事になってくるかもしれません。実力が抜きん出ていて一本勝ちによる圧勝が見込めるのならそんな必要はありませんが、判定で決まるような接戦を制して勝ち上がっていかなければならないのなら、オリンピックが始まる前から試合は始まっていて、実績というポイントを積み上げていかなければなりません。実績がなかったり相手より低いと、本番の畳に上がるときにはすでにハンデを背負っていることになります。過去数年の実績がこれほど重要になってくるのは、毎年開催されない4年に1度のオリンピックだからこそかもしれません。
判定で勝負が決まる競技と同様に、採点競技も審判に左右されます。スケボーの堀米選手の最終トリックは圧巻でしたが、ディフェンディングチャンピオンだから出た点数のようにも思えました。その時点で1位と2位の選手はまだ最終トリックを残していたので、ラスト1本でトップに躍り出た堀米選手がそのまま勝っても、暫定1位2位の選手がラスト1本で堀米選手を逆転しても、いわゆる「メークドラマ(by長嶋茂雄)」。選手と無関係な観衆はどちらの結果でも満足したと思うので、堀米選手の最高得点は、審判が批判されることなく、かつ盛り上がりが求められるXゲームの競技らしい劇的な名勝負として試合を終えることができる最上の選択だったと思います。審判の思惑がどうであれ、メダルに届かず終わるかもしれないあの追い込まれた状況下でも最後まであきらめず、最高の結果を出した堀米選手の戦いぶりは誠に天晴れで胸アツ、広く讃えられてしかるべきものでしたが。
余談ですが、先月新たなクワッチがうちにやって来ました。2010バンクーバーオリンピックのマスコットです。大ちゃんこと髙橋大輔さんが、フィギュアスケート日本男子史上初の五輪メダルが決まるかというときに抱きしめていて、その姿をテレビで見て「なんじゃ、あの茶色い可愛いモフモフは!」と一目惚れ。今もいくつか家にいますが、パリオリンピックのマスコットを調べたついでにオリンピックグッズを検索していたら、今まで見たことがないクワッチを発見したので、即購入しました。