羽生雅の雑多話

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より進化したチェン&メドベージェワ~2019世界フィギュア感想

 本日は喉と耳の痛さで起床、風邪を引いてつらい土曜日です。

 
 2019世界フィギュア、始まりました。女子ショートがあった20日は、昔お世話になった元上司を囲む飲み会があり、元上司は終電で帰りましたが、私は後輩たちと4軒ハシゴして朝帰りだったので、観戦できず。翌21日の春分の日は気持ちが悪くて夕方まで寝ていて、なんとか男子ショートの放送が始まる前に起きてテレビ観戦をしたという体たらくで、その日はイチローの引退会見を見て終わりました。
 
 ということで、フィギュアの感想の前に、まずはイチロー選手についてひと言。28年間お疲れ様でした。大リーグシーズン最多の262本安打、WBC決勝、10年連続200本安打……数々の歴史的偉業の瞬間をリアルタイムで見せてもらいました。そのたびにドキドキとワクワク、そして偉業が達成されたときの言い知れぬ感動を味わわせてもらいました。こんな凄いことをファンにしてくれる野球選手はこの先二度と現れないでしょう。ありがとう。彼こそ誰もが認める本物のレジェンドだと思います。
 
 で、フィギュアの話になりますが、男子ショートはアメリカ勢が素晴らしかった。ネイサン・チェン選手、文句なしのノーミス首位発進です。以前私は、いずれネイサンの時代が到来すると記事でも書きましたが、ついにその時が来たような気がしました。名門エール大学に進学した彼は、フィギュア一辺倒ではなくなったからか、いい意味で肩の力が抜けて、精神的にも楽に滑っているように思います。そこがやたらと不必要な力が入りすぎているショーマと違うところですね。それでいて集中力は増したように感じられますし。限られた練習時間の賜物だと思います。限りある時間内での練習は極限まで効率化されているでしょうから、いま必要なもの、そうでないものが厳密に取捨選択され、跳べるジャンプはより確実にして精度を高め、4回転の回数の深追いや、それを可能とするために必要な体力の増強などの練習は削ぎ落されて、かえって表現力など彼がもともと持っていた長所が伸ばされているのではないでしょうか。また、ネイサン自身も学業のせいでスケートがダメになったと非難されたくない、やっぱり無理だった言われたくないと、死に物狂いで頑張っているのだと思います。学業もスケートもあきらめられない、大変だとわかっていながらも、それを両立することを自分自身が決めて――すなわち他人から課せられたのではなく、自らより厳しい茨の道を進むことを選んだ人間だからこそ持てる強さが存分に発揮された演技でした。
 
 ショート2位のジェイソン・ブラウン選手も持ち味を十分に発揮してくれました。出来栄えの良さで加点が増え、ミスが命取りとなる新ルールになり、4回転なしで、表現力と完成度の高さで戦うと決めた彼の真髄を見たような、吹っ切れた演技でした。彼の躍進で結果的にはユヅとショーマのダブル表彰台が難しくなった今大会ですが、ジェイソンが世界選手権のメダリストになれるのなら、日本の二人が表彰台に乗れなくてもいいと私は思っています。現役スケーターでは髙橋大輔選手に次いで好きな、世界観のある美しいスケートを滑る選手なので。この絶好のチャンスをぜひものにしてほしいです。
 
 22日は午前中仕事をして、午後からさいたまスーパーアリーナへ行き、アイスダンスのリズムダンスと女子フリーは生で観てきました。私は男子シングルが一番好きなので本日行われる男子フリーが観たかったのですが、先行予約からすべてのチケットサイトで申し込みましたが、総スカンで、まったく当たりませんでした。このままだと日本開催――しかも日帰り距離の埼玉開催の世界選手権を観ずに終わるということになり、それだけは絶対に嫌だったので、半分保険のつもりで男子に比べればまだ入手しやすかった女子フリーのチケットを急きょ手配。複数申し込んでいる男子フリーのチケットがダブったらエラい出費になるので気が気ではなかったのですが。そんな心配は無用なほどの激戦で、試合前日のチケットトレードの抽選まで粘りましたが、結局男子フリーは取れなかったので、とりあえず女子だけでも行けてよかったです。

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 男子同様に日本勢のメダルの可能性があった女子ですが、結果は紀平梨花選手が4位、坂本花織選手が5位、宮原知子選手が6位ということで、表彰台には乗れず。でも、納得の結果でした。台に乗った3人は本当に凄かったので。
 
 金メダルはオリンピックチャンピオンのザギトワ選手。圧巻でした。第3グループあたりからスタンディングオベーション連続の演技が続いていたのですが、演技が終わった瞬間、勝ったのは彼女だと確信しました。彼女の凄さは、演技内容の濃さですね。技と技のあいだの密度がとにかく濃い。ジャンプの回数は同じでも、倍の要素をこなしていると思います。まったく隙がありませんでした。そんな濃密なプログラムをノーミスで演じたのですから、こちらも文句なしの1位です。そして、ノーミスであることももちろん素晴らしいのですが、特筆すべきは技の完成度の高さ。ジャンプは着地を成功させるのが最重要点ですが、跳んだときに両手を挙げた手から体、脚まで真っすぐの姿勢には惚れ惚れしました。ザギトワ選手の後に滑った今回銀メダルのトゥルシンバエワ選手は冒頭にシニア公式戦女子初の4回転サルコウを決めて衝撃的ではあったのですが、直前に滑ったザギトワ選手に比べると演技内容はかなりあっさりして見え、表現力もまだまだに見えましたから……細い体形から受ける印象もあるかと思いますが。
 
 ただ、優勝したザギトワ選手にも増して印象的だったのが、銅メダルのメドベージェワ選手でした。一本芯が通ったような力強さを感じる、気迫あふれる演技でした。以前から表現力は定評のある選手なので、それに迫力が上乗せされて、さらに磨きがかかり、凄みを感じましたね。正直いって、私は世界フィギュアを連覇していたときの彼女の滑りより、紀平選手をギリギリかわして、なんとか銅メダルを獲得した今の彼女の滑りのほうが何倍も好きです。そう考えると、メダルを獲ったとか獲らないとか、何色だったとかは本当に時の運で、力と比例するものではないなと思いました。
 
 メドベージェワ選手の次に心に残ったのが、日本勢3人に次ぐ7位に入ったブレイディ・テネル選手。アイスダンスから使用曲がピアソラオンパレードだったので、彼女が滑った「ロミオとジュリエット」は音楽的にも新鮮に聞こえ、最初から引き込まれたのですが、ノーミスの演技で、この耳馴れた美しくドラマティックな曲の世界観を最後まで見事に表現してくれました。ちょっと震えがきましたね。彼女には、私の好きなメリル・デイヴィスを思い出させる気品というか硬質な美しさがあり、今回はそれが完璧な演技とあいまって彼女の魅力を倍増し、素晴らしいフリーを見せてくれました。
 
 日本勢については、技と技のつなぎの部分はやはり宮原選手が素晴らしく、ジャンプの難度は紀平選手、ジャンプの質は坂本選手という感じで印象に残りました。惜しかったのは、それぞれジャンプにおいて致命的なミスが出てしまったことです。今のルールでは加点がないばかりか減点されますので、下手をすればそれで10点ぐらい失うことになります。トリプルアクセルのコンビネーションジャンプを決めても一度でも転倒があれば勝てないことが今回証明されました。ミスをしない――それで初めて世界と戦えるという、なんとも難しい時代になりました。

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女子フリー滑走順
 
 リズムダンスが行われたアイスダンスは10組しか見ていませんが、最終滑走のパパダキス&シゼロン組が抜きん出ていました。演技終了後、立って拍手をしながら見知らぬ隣の方と、「どうしてあんなに違うのか」と話していたくらいです。このクラスになるとツイズルが揃っていることはあたりまえなのですが、上半身の動きが単純に同じ振りをしているというだけでなく、手足の角度や動きのテンポ、強弱のつけ方といった細かいところまでピタリと合っています。ペアのような大技がないアイスダンスは、やはりスケーティングの差が大きいと思いました。しかも上手いだけではダメで、男女二人のスケーティングが上手く、かつ質が同じで、それが見事に調和したときにだけ生まれるのがこの表現力ではないかという、圧倒的な演技でした。

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アイスダンス リズムダンス滑走順
 
 この日は会場に1時半過ぎに着いたのですが、入口に一番近いプログラム売り場では、すでにその日の分は売り切れで、他にどこで買えるのか訊いても「ない」と言われ、どうしたら買えるのか訊いたら、明日明後日はそれぞれの販売分があるので、改めて来てもらうしかないと言われ、チケットもないのに来るわけないだろうと腹立たしく思いながら売店を後にしたら、見知らぬ女性に声を掛けられ、友人とバラバラに買ってダブってしまったので、もしそれでよかったら定価で譲ると言われたので、購入しました。ラッキーでした。また、観戦中は例によってアレルギー症状が出て鼻をグズグズさせ、演技中は懸命に我慢して演技の合間にクシャミを連発していたのですが、隣の人が「花粉症ですか? 大丈夫ですか?」と声を掛けてくれ、「うるさくてスミマセン」と謝ったら、「いえいえ、お互い様ですから」と言って、のど飴と、夜までの長丁場観戦のための腹ごなし用にと、お菓子をくれました。両方とも心が温まる出来事で嬉しくなり、試合も近年稀に見るハイレベルな戦いで素晴らしかったので、表彰式のメダル授与まで楽しみ、十分に堪能して会場を出ました。
 
 外に出ると、暑いぐらいだった昼間に会場入りしたときよりも10度ぐらい低くて、コットンのコートでは襟を立てても寒いぐらいでした。埼玉県から東京都を抜けて神奈川県の家に帰り着いたのは12時前で、結果、本日は風邪ということに……(涙)。思えば、観戦中の不調もアレルギーではなく、風邪の初期症状だったのかもしれません。けれども観戦できてよかったです。幸い寝込むほどではないので、今日はテレビ観戦で男子の戦いを応援したいと思います。

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ガンバレ、ユヅ! 来期に繋がるような演技ができるように。
 
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ガンバレ、ショーマ! シーズンの締めくくりを納得の演技で終えられるように。