羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~七海ひろき&礼真琴、彩凪翔&彩風咲奈の関係性の相似

 昨日は日比谷で宝塚星組公演――「霧深きエルベのほとり」と「ESTRELLAS(エストレージャス)~星たち~」を観てきました。雪組「ファントム」の次だけに出来が心配でしたが、ミュージカルもショーもわりとよかったです。宝塚らしい二本立てでした。


 ミュージカルの「霧深きエルベのほとり」は往年の名作で、36年ぶりの再演になります。劇作家の菊田一夫さんが宝塚のために書き下ろした作品で、起承転結がはっきりした筋、破綻のない内容はさすがだと思いました。ただし、一切無駄な場面がないから、役が少なく、トップスターコンビと二番手男役、専科の他はあまり見せ場がない役で、その点は気の毒ではありました。けれど、最後まで飽きさせないし、簡潔明瞭でわかりやすく、シンプルでいい作品だと思いました。潤色はウエクミこと上田久美子さんですが、脚本がしっかりしたものを演出させたら、彼女はやはり見せ方が巧いです。

 そしてベニー(紅ゆずるさん)のよさが存分に発揮された作品でもありました。月組のみやるり(美弥るりかさん)に続いて、次公演での退団を発表したベニー。二人とも「近いうちに……」とは思っていましたが、立て続けだったので、ショックでしたね。みやるりは今のイチ押しですし、ベニーは、何度も言いますが、特別に好きというわけではないのですが、この人の作品を観て不満に思ったことがないので……しいて言えば、おふざけが過ぎたスカピンぐらいでしょうか。毎回期待して観ているみりお(明日海りおさん)の作品には何度も裏切られていますが(笑)、それほど期待していないのに、ベニーはいつも「紅ゆずるでないとできないよなぁ」というパフォーマンスを見せてくれ、それなりに満足させてくれます。期待度が低いからかもしれませんが。今回も紅ゆずるならではの個性あふれるカール・シュナイダーを見せてくれました。マルギットと別れてハンブルグに戻ったあと、出航前にヴェロニカに感情を露わにして泣きつく場面は、まさにベニーの真骨頂で、相手が懐の深いじゅんこさん(英真なおきさん)だから受けきれて成り立つ場面だとつくづく思いましたし。ベニーは人間の強さと弱さを表現する芝居が巧いと思います。この二つは必ず人間の内に共存しているものなのに、相反するものなので、一人の人間として表現するのは難しいのですが、その両者の別をはっきりと、さらに同じ人物の中に共存していることが矛盾ではないということをきっちりと見せてくれます。少々大げさなので、一般演劇には向かない役者かもしれませんが。

 二番手のこと(礼真琴さん)のフロリアンはハマリ役で、まったく問題ありませんでしたが、意外性もなく無難すぎて面白味に欠けたので、生まれも育ちもいい上流階級の青年ではなく、上流階級に蔑まれる船乗りという立場のカールを演じたらどうなるだろうと思って観ていました。想像がつかない役をこなせたら、こともトップになってもよいと思うのですが、まだ早いような気がします。蘭とむ(蘭寿とむさん)は「TRAFARGER-ネルソン、その愛と奇跡-」、だいもん(望海風斗さん)は「オーシャンズ11」を観たとき、もうトップになってもいいと思えましたが、ことにはまだそう思える役を見せてもらっていませんし。ショーを観ていると歌もダンスも人一倍上手く、誰よりも目立っていて印象に残るのですが、芝居における存在感が、同じ二番手のさき(彩風咲奈さん)やキキ(芹香斗亜さん)に比べると、まだ弱いと思います。というか、ことが背伸びしなくてもできる役しか与えられていなくて、機会を得られず殻を破ることができないでいるようにも感じられます。

 かい(七海ひろきさん)はこの公演で退団ですが、ビジュアルにあれほど恵まれていながら、二番手にもなれなかった理由が今回わかったような気がしました。宙組時代の「銀河英雄伝説」の時から気になっていた美人サンなのですが……。ミュージカルではそれほど差は出ないのですが、ショーになると、ダンスよし歌よしの水を得た魚のごとき礼真琴の輝きがすごすぎて、すべてにおいて劣って見えてしまいます(劣って見えるのは、かいだけではないのですが……)。銀橋ソロの印象は段違いだし、ベニーの左右で踊るダンスアンサンブルにおいても、ことよりかいのほうが顔も身体的なバランスもきれいでビジュアルは勝っているのに、動き出すと敵わない……どこか雪組のナギショー(彩凪翔さん)の立場に似ています。芝居でもショーでも動いているときの彩風咲奈の魅力は強烈でハンパないですから。ナギショーも目を瞠るような美人サンなので、立ち姿は目立つのですが、動き出すと、華があり人目を引くさきに視線が移ってしまいます。その点、ベニーやだいもんはさすがで、スター性や貫禄といったところで、ことやさきの上を行き、彼女たちを圧倒し格下に見せてしまうところが、やはりトップスターだなと思います。

 というわけで、総じて満足した公演だったのですが、どうにもお粗末に思えたのが、娘役トップスターの綺咲愛里さん。彼女もベニーと一緒に退団するので、もうどうでもいいですが。トップになってベニーは歌やら何やら上達が見られましたが、彼女は進歩が見られませんでした。なので、このトップコンビのデュエットは相変わらず壊滅的で、組によってレベルも特性も違うのが宝塚だと理解している人間はいいのですが、「ファントム」を観て宝塚ファンになった方々に「ファントム」の次に聴かせるものではないと思いました。さぞかし幻滅したと思います。銀橋ソロで聴かせたせおっち(瀬央ゆりあさん)や、デュエダンの影ソロはよかったので、星組にも一応こと以外にも歌える人がいることはわかり、多少は安心しましたが。