羽生雅の雑多話

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別格トゥクタミシェワと次期女王候補コストルナヤ~2018グランプリ・ファイナル感想

 紀平選手、優勝おめでとうございます。本当に13年前の真央ちゃんを見るようでしたね。完全優勝ということでショートもフリーもザギトワ選手を上回る高得点でしたが、彼女の演技と比べると、ジャンプの前後やつなぎなどの構成にレベルアップの余地があり、スピンもレベル3がありましたから、まだまだ伸びしろがあります。トリプルアクセルだけにこだわらず、バランスよく総合的に底上げをしていきながら、北京を目指してほしいですね。
 
 紀平選手はジャンプがクリーンで、かつ体型に恵まれているので、ユヅと同じく、決まれば姿勢が美しいから加点がもらえるので得していると思います。とはいえ、体型以前に、まずは高さと幅のあるジャンプを跳ぶことが大前提ですが……。
 
 その点、宮原選手は厳しいですね。紀平選手の登場でますます厳しくなりました。紀平選手の理想的なジャンプと否応なしに比較されてしまいますから。採点競技なので、目に見える基準があれば、どうしてもそれと比較した上での評価になります。6位は妥当な順位で、6人しか出場していなかったから、まだ6位で済んだのだ、とも思います。
 
 4位となった坂本選手は恵まれているというほどの美しい体型ではないのですが、高さと幅のあるジャンプを跳んで決めてくるので、迫力があります。カナダのオズモンド選手に通じるタイプですね。昔で言えば伊藤みどりとかデビ・トーマスとか……。あれはあれで女子フィギュアの一つのタイプだと思うので、伸ばすべきところを迷わず突きつめていってほしいと思います。適性を見誤り、方向性を間違えるとロクなことになりませんから。世界女王にはなれてもオリンピックチャンピオンにはなれないタイプかもしれませんが。それでも、パーソナルベストを出すほどのよい演技をした5位のサモドゥロワ選手より評価が高かったのだから、自信を持っていいと思います。
 
 宮原選手はジャンプを矯正中とのことですが、問題はそれだけではないように思えます。演技そのものがジャンプと似たような印象で、上手くいってもこじんまりとまとまりすぎていて、華がないというか、ダイナミックさがない――はっきり言って観ていておもしろくない、つまり典型的優等生の滑りなのだと思います。安定感はありますが、安定感なんてものはフィギュアにおいて魅力でも何でもありません。安定感と完成度は別物ですし。見ているほうがヒヤヒヤしないというだけで、安定感に心を動かされたり揺さぶられることはありませんから――感心することはあっても。現に、安定感のある無難な演技よりも、大技に果敢に挑戦し、失敗しても立て直す演技のほうが受けが良く評価が高いような気がします――今回の紀平選手のように。ジャンプとともに演技全体の質も見直したほうがいいですね。宮原選手の演技は吹っ切るとか解放するとかいうことを恐がっているように思えます。型にはまっているような、それゆえ窮屈そうで縮こまって見えるのです。もう少しショー的な部分――観ているお客さんがノリノリになるような演技ができるといいのですが……そういうところは、なんか小塚崇彦さんを思い出しますね。彼もそういう演技が苦手で克服できず、スケートは上手いのに見せるのが下手で勝てませんでしたから。そのあたりは性格的な問題もあって練習ではいかんともしがたいのかもしれませんが、ジャンプに関しては、長洲選手は24歳でトリプルアクセルを成功させたのだから、あきらめなければ宮原選手もまだまだ修正して伸ばせる可能性はあると思います。
 
 ザギトワ選手は全体的に硬かったですね。演技前の表情も明らかに険しかったし。本人も言っていましたが、勝たなければいけないという重圧のせいで精神的に追い込まれてナーバスになり緊張していたのでしょう。メドベージェワ選手の気持ちがわかったと思います。
 
 宇野選手はショートもフリーも不必要な力が入っていましたね。責任感を持つことはけっこうですが、楽しんでやることを思い出さないかぎり、この力みは抜けないのではないかと思いました。久々に試合に行きたくないと思ったとか言っていましたし……。スケートが好きで滑っているのだということを忘れないでほしいです。今のショーマこそメンタルが問題なのではないでしょうか。正直いって、今回のショーマはネイサンに勝てる要素がありませんでした。コンビネーションに限らず、ジャンプはほとんど詰まっていましたし。ネイサンは、スケートに関しては学業がおろそかにならない範囲内でやれることをやるというふうに割り切っているので、適度に力が抜けていて、かえっていいスケートになっているのかもしれません。限られた練習時間で集中することも鍛えられていると思いますし。それと、ベートーヴェンの「月光」という曲も今のショーマには負担が大きいように感じます。クラシックの名曲の中でも特に美しいこの曲は流れるような演技が要求される曲だと思いますが、今のショーマのスケートでは、残念ながらその世界観が表現しきれていません。メリハリが要求されるタンゴとかにしておいたほうが無難でした。そのへん、ザギトワ選手のプログラムは選曲が上手いと思います。
 
 男女シングルしか観戦していませんが、この試合でフィギュアの魅力を最大限に発揮してくれたのはトゥクタミシェワ選手でした。ジュニアと大差ない演技を見せるスケーターたちの中で、唯一成熟した、円熟味すら感じられる表現力豊かな大人のスケートを見せてくれました。まだ21歳なのに……(笑)。とにかく表現力が素晴らしい。顔の表情といい、独創性のあるポージングのスピンといい。しかもジャンプの質も高い。特にフリーの後半に跳んだトリプルルッツは見事で、思わずテレビの前で拍手をしていたら、解説の殿(織田信成さん)が「世界一のトリプルルッツジャンパー」とか言ったので、「やっぱりそうなんだ」と我が意を得たりと思い、さらに拍手。そして、こんなピンポイントの的を射たコメントをする殿もさすがだと思いました。現時点であれほどの妖艶さと貫禄を併せ持つ女子シングルスケーターは他におらず、これがエリザベータ・トゥクタミシェワのスケートだという個性にあふれていて、また観たいと思う、この人の他の演技も観てみたいと思わせるスケートでした。私は男子シングルのファンですが、彼女が世界フィギュアに出るのなら、女子シングルも観たいと思いました。
 
 ジュニアの女子シングルで優勝したコストルナヤ選手のフリーの演技もよかったですね。とにかく美しい。トゥルソワ選手は4回転を跳ぶだけという印象ですが(それでも女子ではすごいことなのですが……)コストルナヤ選手はジャンプなどの技術力もさることながら表現力も15歳とは思えないほど豊かで、フリーの演技は非の打ちどころがありませんでした。来期はシニアに上がってくると思いますが、このままいけば、彼女のシーズンになってもおかしくないと思いました。ということで、紀平選手も来期以降が正念場だと思います。ザギトワ選手が言うように、プレッシャーのないシニア1年目は簡単ならば、来期のコストルナヤ選手は確実に勢いがあるでしょうから。急激に身長が伸びたり体重が増えたりする体型の変化、それに伴うメンタルの変化で彼女のスケートが大崩れしないかぎり、メドベージェワ、ザギトワ両選手以上のライバルになると思います。