羽生雅の雑多話

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羽生結弦とネイサン・チェンの次元が違う熱き戦い~2019世界フィギュア感想

 いよいよ来ましたね~、ネイサン時代。

 
 世界フィギュアの男子シングルはネイサン・チェン選手が優勝し、2連覇達成で、十代選手による連覇はヤグ様ことヤグディン以来の快挙ということになりました。前回はディフェンディングチャンピオンであり、オリンピックチャンピオンでもある羽生結弦選手が出場していなかった中での金メダルでしたが、今回はお互いが4本のクワドを入れるという高難度プログラムでのガチの真っ向勝負。ユヅも大怪我からの復帰戦だったにもかかわらず、4か月ぶりの実戦とは思えない鬼気迫る演技で、フリー200点越え、ショートと合わせて総合300点超えを果たしましたが、ネイサンはショート107.4の100点超え、フリー216.02の200点超え、総合323.42の300点超えという世界最高得点をたたき出し、結果的には2位のユヅに20点以上の差をつけての圧勝でした。一つ一つのジャンプの質が勝敗を分けたような気がします。
 
 ミスではないのですが、降りたあと流れのない詰まったようなジャンプがいくつか見受けられたユヅと比べると、ネイサンは4回転フリップを降りたときの脚の角度がやや乱れただけで、いずれも安定感のある美しいジャンプでした。4回転+3回転という最高難度のコンビネーションジャンプの加点が3.4、そして4回転アクセルが成功していない現時点では最高難度の単独ジャンプである4回転ルッツの加点が4.7という荒稼ぎで、フリーの技術点は121という驚異的な得点。世界最高峰の舞台で、しかもリンクがプーさんで黄色く染まった羽生選手渾身の演技の直後にこの結果を出したのですから、本当に強くなったと感じます。確実性を増しクリーンになったジャンプもさることながら、ショートプログラムの「キャラバン」の出だしとかを見ると、表現力にもいっそう磨きがかかったと思いますし。
 
 今回3位に入り、初の世界フィギュアメダリストとなったヴィンセント・ゾウ選手も、トリプルアクセルの着地が少々乱れただけのノーミスで、メダルにふさわしい演技でした。ネイサンが19歳で、ヴィンセントはまだ18歳――アメリカ、脅威ですね。
 
 ショート6位、フリー4位、総合4位で表彰台を逃した宇野昌磨選手は、ネイサン、ユヅが出場する試合では勝てないことが改めて証明されてしまいました。順位はゾウ選手の次ですが、点差は最終的にユヅとは30点以上、ネイサンとは50点以上もついてしまいました。もちろんジャンプの失敗が大きかったのですが、成功していても届いたかどうか……。そして、今日の演技はジャンプ云々よりも、「月光」の音楽とも合っていなかったのが問題でしょう。あの出来では今大会のトップ3とはとても勝負できません。やはりクラシックの名曲は、上手くいったときは、より演技を盛り上げてくれていいけれども、いかなかったときには、ごまかしがきかなくて違和感が大きく、諸刃の剣だな――とも思いました。
 
 その他の選手では、6位のミハイル・コリヤダ選手が印象に残りました。もともとキレのある演技をする選手ですが、カルメンの曲が彼のスケートによく合っていて、音楽に合わせたメリハリのある動きが実に見事でした。ここ数年で一番彼の良さが出た名プログラムですね。ショートが終わってネイサンに次ぐ2位で、メダル獲得を期待したジェイソン・ブラウン選手は、4回転以外のジャンプも決まらず、演技も全体的に精彩を欠いて、結局9位……次にいつあるかという世界大会台乗りのチャンスだっただけに残念です。
 
 ということで、女子、男子共にハイレベルな戦いで、これぞ世界選手権という見ごたえのある大会でした。選手のみなさん、お疲れ様でした。今回もよいものを見せてくれてありがとう。ユヅしかできない大技――4回転トゥループ+3回転アクセルのコンビネーションも見られたし、トゥルシンバエワの4回転サルコウというISU公認のシニア大会では女子史上初となる大技が成功した歴史的瞬間にも立ち合えました。見た目は美しく華やかな競技の中に、人間が可能とする技の限界に挑む凄まじい努力の跡が透けて見える――だからフィギュア観戦はやめられません。挑戦にリスクは付き物ですが、誰もが怪我には十分に気をつけて、再び練習を積み重ねて、来シーズンに臨んでほしいと思います。またフィギュアならではの華麗な演技を通して、それでいて一流のアスリートたちによるスポーツならではの真剣勝負――観ていて息詰まるような、手に汗握る戦いを見せてくれるのを楽しみにしています。世界選手権やグランプリファイナルなど世界一を決める大会は本当にチケットを取るのが難しくなっているのですが、国内でやるかぎりは今度も何かしら生で観たいですね。