羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~三拍子そろった実力派新星組トップスター、礼真琴の課題

 毎年ふるさと納税をしていて、今年は「本能寺の変お知らせハガキ」が届く福知山市の他、甲賀市に申し込みをし、先日返礼品が届いたのですが、開ける暇がなくて、本日ようやく開封しました。

f:id:hanyu_ya:20200830181821j:plain信楽焼のトトロ(by『となりのトトロ』)と、カオナシ(by『千と千尋の神隠し』)です。

 

 2月に京都に行ったときに高台寺の土産物屋で信楽焼のトトロを見つけて、あまりに可愛かったので欲しかったのですが、大中小の3点セットで衝動買いをする価格ではなかったことと、割れ物を持ち歩いて寺社巡りをするのが面倒だったので、その時はあきらめ、帰ってから通販で買えないか調べたら、ふるさと納税の返礼品になっているのを見つけて、京都で見た物以外の種類もあったので、迷わず申し込みました。トトロは炎型のミニLEDライトに被せるようになっていて、ほんのりと光り、信楽焼らしい土色の陶器を通したあたたかみのある灯りに、なんとも癒されます。


 さて、昨日は久しぶりに日比谷で宝塚を観てきました。演目は、幻想歌舞録「眩耀の谷~舞い降りた新星~」と「Rayー星の光線ー」。新星星組の新星、新トップスターとなった、こっちゃんこと礼真琴さんの東京お披露目公演です。本来なら3月に観る予定でしたが、コロナ禍で5か月遅れの観劇となりました。でも観られたのでよかったです。今月の東京公演も途中で休演がありましたから。

 有望株ぞろいの95期生の首席で、入団以来星組一筋のこっちゃん。研5で「ロミジュリ」のベンヴォーリオを、前星組トップスターのベニー(紅ゆずるさん)と役替わりで演じるという抜擢時から注目してきましたが、以降トップ路線をまったくブレずに走ってきました。「眩耀の谷~舞い降りた新星~」は、宝塚で長らく振付師として、また演出家として活躍してきた謝珠栄さんが初めて脚本から手がけた作品。ということで、お披露目用のオリジナルなので、ほとんどの役が当て書きでしたが、さすがに宝塚をよく解っている、礼真琴をよく解っていると感じた秀作でした。ストーリーも筋がしっかりしていて破綻がなく、無駄な場面も間延びするようなところもない。やや詰め込みすぎている感と主人公以外は語り切れていないという物足りなさはありましたが、限られた時間内では仕方がないこと。珍しく芝居、歌、ダンスのすべてが及第点以上という、三拍子そろった実力派新トップスター礼真琴の魅力はバッチリ見せきってお披露目公演としての役割は十分に果たしていたので、あれはあれでよいと思います。現星組随一の歌ウマであるこっちゃんが歌いまくるのはいつものことですが、今回は芝居でも踊りまくっていましたからね。ダンサーで振付師としての実績が長い謝さんの作品だけに、踊りで感情表現をしてストーリーを進める場面も多く、なので先月観たダンスの花組の「はいからさんが通る」より数倍踊らされていました(笑)。もちろん、こっちゃんが同期の新花組トップスター、カレー(柚香光さん)より何倍も歌って踊っていたことは言うまでもありません。

 しいて難を挙げれば、主役のこっちゃんも作品自体も力が入りすぎていて、気負いというか、力みが伝わってきてしまったことでしょうか。作品のテーマも、現代にも通じる民族問題という社会性の強いものなので、作品も真面目、主人公も真面目で、観る人によっては疲れるかもしれません。前回、前々回の星組作品は笑いあり涙ありのコメディで、コメディとしての全体的な完成度も高かったので、その要素を期待していた人がおもしろく思うかは微妙です。あと、こっちゃんが演じる丹礼真が好青年すぎて人物的に面白味がないので、そのへんがつまらないかもしれません。一人の人間としては、理想と現実の間で揺れ動いて屈折し、生き方を変えていく管武将軍のほうが共感できるので、彼をもう少し掘り下げてほしかったですね。二番手の役どころでしたし。真っすぐで曇りのない礼真との対比をもっと強調させれば、ストーリー的にはさらにおもしろかったと思います。

 その管武将軍を演じた愛月ひかるさんは、かつて宙組の路線スターで、けれども同期で花組二番手だったキキ(芹香斗亜さん)が同じ宙組に二番手として異動してきて、どうなるのかと思っていたら専科に異動となり、そのままかと思いきや今度は星組に異動となり、今回二番手に昇格。ただし、トップスターより上級生の二番手であるため、同じ立場だったみやるり(美弥るりかさん)と同じく二番手で退団だと思いますが、本人的にはよかったのではないでしょうか。結果的に同期であるキキやさき(彩風咲奈さん)と同じ番手になりましたし。花組の新二番手である瀬戸かずやさんも同じですね。90期生で、95期生のカレーを支える立場なので、二番手で退団だと思います。有望な95期生とはいえ、トップになれない二番手を置いてまで早々にトップにするのはいかがなものかと思いますが、星組花組も確かにトップスターにないものが補完されていてバランスを取ることには成功していると思います。愛月さんでいえば、彼女が持っている大人の男の色気みたいなものは、残念ながらこっちゃんにはないもので、今回の芝居でもショーでも本当に対極的ないい味を出していましたし。そういう意味では、新三番手である星組のせおっち(瀬央ゆりあさん)や花組のマイティー(水美舞斗さん)も、将来のトップスター候補というよりも、現トップスターに足りない部分を補う役回りのような気がします。二人ともトップスターと同期ゆえにトップスターの向こうを張ることができ、かつ二枚目からアクの強い個性的な役もできる振り幅が大きい男役なので。95期生トップスターの時代を盤石とするために、スター性のある生徒が都合よく使われているのは、ちょっと気がかりなことですけどね。

 三番手となったせおっちも、とてもいい仕事をしていました。役柄は礼真が属する周王朝と戦って死んだ少数民族の王で、霊魂というか亡霊の役でしたが、正体が明らかになるまで、謎の男を謎の男らしく演じていました。礼真を演じるこっちゃんと同期なのに、こっちゃんより年上の、立場も上にある役柄で、物語のキーマン的存在という立ち位置がとてもうまくハマっていて、初めは上級生が演じているのだろうと思っていましたが、周の王がみつる(華形ひかるさん)だったので、「あれ? じゃあ、せおっちはどれ? 何役?」みたいな感じになって、ようやく気づいたぐらいです。「ドクトル・ジバゴ」でのパーシャ役の熱演を思い出し、「まあ、せおっちなら、これぐらいやるか」と妙に納得。せおっちはこっちゃんとの歌のハモリもよく、この二人で「エリザベート」の「闇が広がる」を聴いてみたいと思いましたし(ただし、トートがせおっちで、ルドルフがこっちゃんですが)。ショーでは愛月さんとの並びもよく、黒燕尾姿はこっちゃんよりも、愛月&瀬央ペアのほうが断然美しいと思いました。センターであるトップスターのすぐ後ろにいて、嫌でも三人が一緒に目に入ってくるので、どうしても比較してしまいます。これも足りない部分の補完の一部なのだろうとは思いましたが。

 新娘役トップスターの舞空瞳さんは、前娘役トップスターの綺咲愛里さんほど壊滅的ではないですが、コンビを組む歌ウマのこっちゃんをはじめ、男役がそこそこ歌える中だと歌の下手さが目立ってしまうので、今後は歌を頑張ってほしいと思いました。ダンスは言うことないので。

 そして、これが退団公演となる専科のみつる……お疲れ様でした。強国である周の王たる宣王は腹黒さ、欲深さとともに、山間の少数民族を蛮族と卑下する中央国家の王としての洗練された雰囲気も出さなければなりませんが、みつるならではの端整さと存在感の両方を見せてくれました。とはいえ、やはり圧巻はショーで、二番手愛月ひかるを凌ぐ活躍でした。今回もあんなに踊ったあとにソロを歌わせないでほしいと思いましたが、ダンスの脚の上がり方とか妥協がなく、相変わらず見事でした。彼女のダンスは、本当に古き良き花組のダンスなんですよね。

 ダンスを含めて、こっちゃんのパフォーマンスには隙がなく、その反面、どこか力みのようなものが感じられます。私は元SMAPの中居クンのダンスが上手いとはとても思えないのですが、でも、こなれていて、あれはあれでいいダンスであり、よって彼はいいダンサーだと思っています。あとは好みの問題というか……。こっちゃんのパフォーマンスは完璧さや理想を追求して精進しているという努力が透けて見えるというか、きっちりやろうという意識が手足の隅々にまで現れ、一所懸命であることが伝わってきてしまうところがまだまだのような気もします。サラっとやっていたけど、あとからよく考えるとスゴい、相当努力したんだろうなと思える職人技や職人芸を見せてくれた芸達者が宝塚にはたくさんいたので、ぜひそうなってほしいですね。それと、演技についても、今回の丹礼真役は等身大で、こっちゃんの力なら上手く演じられて当然という役だったので、さきが「ファントム」で演じたキャリエール役のような「え、なんでこの役?」というような意外性のある役を早めに経験して、もっともっと芸の幅を広げてほしいと思います。それが望める力量の持ち主だと思うので。今のままでは、哀愁が漂う渋みのある男は、礼真琴よりも愛月ひかる――という感じで、観られる演目が限られてしまいそうなので。