羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~トップ就任後もっとも明日海りおらしかった公演「ある御伽話」

 久しぶりの宝塚メモです。


 はや半月ほど前のことになりますが、宝塚に行ってきました。日比谷ではなく、兵庫県宝塚市にある大劇場――通称「ムラ」のほうです。宝塚歌劇の殿堂で開催された大浦みずき展以来の遠征なので、かれこれ5年ぶりぐらいになります。
 
 当初の予想どおり、ユヅが出場する世界フィギュアなみの超激戦と化した、みりおこと明日海りおさんのサヨナラ公演。仕事で知り合ったみりおファンさんが譲ってくれて、唯一確保できていた14日ソワレの貸切公演のB席チケットがあったので観に行ってきました。今までB席で観たことがなかったので、大劇場か東宝のS席かA席を手に入れるべく、ダブるのもかまわずに申込みを入れまくったのですが、東京のみならず大劇場公演の抽選を入れても1枚も当たらず。13日のローチケとぴあの落選結果を受けて、急きょエクスプレス予約で新幹線の切符を取り、関西に出張ることにしました。みりおのサヨナラを観ずに終わるというのだけは、なんとしても避けたかったので……。2階の14列でしたが、上手の通路側だったので、前方の視界がよく、距離は遠かったのですが、思っていた以上によく見えました。
 
 演目は「A Fairy Tale―青い薔薇の精―」と「シャルム」。どちらもtheみりお’sサヨナラ公演という感じで、再演はとても無理だと思いつつ観ていました。みりお以上に薔薇の精役が似合うトップスターはこの先出てこないと思うので……。まさしくみりおのために作られた作品であり、みりおに己の魅力を最大限に発揮させるというよりも、みりおの魅力を観客に最大限に見せることに徹した作品だと思いました。ゆえに、過去に観た作品の中でも一番みりおらしく、みりおの魅力が感じられる作品でした。それは裏を返せば、どれだけトップスターになってから演目に恵まれなかったかということと同義かもしれませんが……。「ポーの一族」は秀作でしたが、見た目が巻き毛の少年という時点で、みりおの魅力は半減されていましたし。
 
f:id:hanyu_ya:20190929184129j:plain大劇場正面T階段脇に飾ってあった青い薔薇
 
 みりおの魅力――それは他のジェンヌの追随を許さない美しさです。だからこそ巻き毛の少年というハードルの高いヴィジュアルも通用したのだと思います。ノーブルな容姿とバランスの取れた体形、のびやかな歌声……すべてが美しい。それも品のある美しさで、しかも華がある。それは上手い下手を超越した魅力であり、一時期は芸事の実力も伴ってほしいと願っていましたが、次第にもはやどうでもいいと思いました。どんなに頑張っても努力では得られない天からの授かりものに恵まれた奇跡の麗人は、見ているだけで眼福でしたから。今回のお芝居の脚本・演出は植田景子さんでしたが、“薔薇の精”という人外のものを持ってこなければ、みりおの美しさは表現しきれなかったのだと思います。とにかく美しく、そして悲しみを背負うという設定の主人公――。この「悲しみ」というのも、薄幸や華のある儚さとともに、みりおが表現するのを得意とするところなので、ひたすらみりおがきれいだと思わせる作品としては十分に成功していました。物語としては、楽しい、おもしろいというように心を動かされることはなく、感動が薄いため、良くも悪くもありませんでしたが、でもそれでよいのだと思います。「フェアリーテール」と題しているからには、所詮おとぎ話なので……おとぎ話とはそういうものです。
 
f:id:hanyu_ya:20190929184037j:plainバウホール前の看板
 
f:id:hanyu_ya:20190929184415j:plain大劇場壁に飾られたみりおのポートレート
 
 そして、人外の美を誇る薔薇の精みりおを舞台の中で違和感のある浮いたものにしなかったのが、次期トップスターに決まった二番手のカレー(柚香光さん)。こちらもひと目見たら忘れられない圧倒的な美貌で、みりおの隣に立っても霞まない、呑み込まれない存在感を放っていました。たいへん貴重だと思います。これまでネックだった歌もお芝居ではかなり上達して聞こえたので驚き、やはりトップになるともなるといろいろ変わってくるのか……と感心したのですが、残念ながらショーではいつものカレーの歌(笑)。まだ安定して上手く歌えるわけではないのだろうと納得しましたが、伸びしろが感じられたので、ひと足早く星組トップスターになる同期のこと(礼真琴さん)に比べると、勝っているのはヴィジュアルだけで、芸事の完成度が低く、トップ就任はまだ早いと思い、不安でしたが、今回のパフォーマンスを見て、カレーでいいのかもしれないと思いました。ここ数年、最大の人気を誇ったトップスターであるみりおの次はプレッシャーが大きいと思いますが、他にこの重責を担える人もいませんし。
 
 私の現花組イチ押しであるマイティー(水美舞斗さん)は、お芝居ではカレーの叔父役で、キーパーソンだけど過去の人という、出番も少なく、マイティーらしくない微妙な役でしたが、ショーでは「次期二番手か⁉」ってほど光っていました。一方、お芝居で目立っていたのは瀬戸かずやさん。今後カレーがトップになったときの二番手以下も気になります。
 
f:id:hanyu_ya:20190929184459j:plainマイティーとカレーのポートレート。同期が並んでいます。
 
 ショーといえば、アンサンブルばかりではありましたが、わりと踊っていて、そこはかとなく「ダンスの花組」感が醸し出されていて、一応意識しているのかも……と思いました。宝塚男役の真骨頂である黒燕尾姿で大階段を降りてきて踊る、おなじみの群舞もあったのですが、そのBGMが「愛遥かに」で、これにはやられて、最後の最後で目頭がじーんときてしまいました。歌われていたら、かなめ(涼風真世さん)と比べてしまってモヤモヤしたと思いますが、歌なしのインストゥルメンタルだったので、ノックアウトです。後からパンフレットを見たら、振付はヤンさん(安寿ミラさん)とのこと。宝塚の歴史の中でも稀有な人気を誇った花組トップスターを送るサヨナラ公演の中に、花組を象徴する場面である黒燕尾の群舞を組み込み、その振付を名ダンサーだった元花組トップスターに振付させるという粋な計らいに、作・演出を担当した稲葉さんの花組愛が感じられました。「ダンスの花組」の歴史を大事にしたいという……。ヤンさんは、なーちゃん(大浦みずきさん)のサヨナラ公演で花組二番手に昇格し、なーちゃんの後を継いだ、「ダンスの花組」の中でも踊りを得意とした典型的ダンサーのトップさん。「ザ・フラッシュ」で、男役のヤンさんが娘役として相手役に抜擢されて、なーちゃんと踊った「サテンドール」などは、今でも忘れられません。このジャズの名曲をバックで歌っていたのは、しいちゃん(峰丘奈知さん)でしたし……あの頃の花組は本当に最強でした。
 
 ともあれ、みりお、長いあいだお疲れ様でした。在団中はずっと、ものすごいプレッシャーの中で闘ってきたと思います。稀に見る歌劇団の爆上げを受けて、いわれなき中傷など、内外でいろいろなことを言われてきたと思います。私も厳しいことを言ってきましたし……。でも、月組時代から楽しませていただきました。ありがとう。たびたび不満を口にしても、あなたが出る作品を観ないという選択肢はありませんでした。美しいあなたを見れば、それなりに満足でき、けれども、それなりでは物足りない、さらに上を期待するがゆえの不平不満でしたから……なんかユヅに対する思いと似てますね。ユヅと同じく、数いるトップの一人ではなく、その先のトップ・オブ・トップに到れた者だけが見せられる、頂点の先の世界を見せてほしいと願っていたのかもしれません。でもまあ、しばらくは、ゆっくり休んでほしいと思います。最後のほうは心配になるほど痩せ細っていましたから。現在東京では、みりおに先駆けて、星組トップスターのベニー(紅ゆずるさん)がサヨナラ公演中ですが、こちらのチケットもカスリもせず、今のところ観劇予定はなし。このチケット全然取れない状況、なんとかしてください、宝塚歌劇団さん。
 
f:id:hanyu_ya:20190929190152j:plain観劇後はホテルグランヴィア大坂のバーで一杯。夕食代わりのクラブサンドと。