羽生雅の雑多話

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「シェヘラザード」と「エクソジェネシス」の感動ふたたび~メダルウィナーズガラ感想(+羽生結弦選手への辛口エール)

 土曜は横浜アリーナで行われた一夜限りのアイスショー、「THE LEGENDS~メダルウィナーズガラ」を観てきました。大ちゃんもユヅも真央ちゃんも出ませんでしたが、いやもう素晴らしかった。本当によいものを見せてもらいました。

 お目当てはメリル・デイヴィス&チャーリー・ホワイト組。ソチ五輪アイスダンス金メダルのペアですね。同行した中学時代からの友人も彼らのファンで、あとエカテリーナ・ゴルデーワが見たいというので一緒に行ってきました。エカテリーナも若くしてワールドチャンピオンになり、世界選手権4回優勝、オリンピック2連覇の名スケーターです。

 メリルについては、見た目もスケーティングも彼女ほど気品に満ちたスケーターはいないと思っています。エカテリーナも品がありますが、メリルの気高さはそれ以上。硬質な美しさで、技術も貫禄も、まさしく女王様のスケートです。今回はソチ金メダルのフリープログラム「シェヘラザード」の簡易版を当時と同じブルーのコスチュームで滑ってくれまして、現役時代とさほど変わらないレベルで、彼らの演技を、大好きなプログラムで観られて感無量でした。

 メリル&チャーリー組の次に滑ってショーのトリを務めたのは荒川静香さん。しーちゃんもトリノ五輪金メダルのフリープログラム「トゥーランドット」の簡易版を滑ってくれまして、こちらも素晴らしかったです。彼女は子供を産んでいるんですよね。よくぞここまで滑りも体形も戻したと思いました。メリルもしーちゃんも細身なのですが安定感があり、「たぶんインナーマッスルは結弦より鍛えられていると思う」と友人は言ってました。しーちゃんのトリノ五輪のフリーも神演技で、今まで競技を見ていて演技の途中で金メダルを確信したのはこの演技と、バンクーバー五輪後の世界フィギュアで大ちゃんが滑った「道」ぐらいだと思います。

 そして、メリチャリ組と同じぐらい感動したのが、ジェレミー・アボット。さいたまアリーナで見たソチ五輪後の世界フィギュアでのフリープログラム「エクソジェネシス交響曲第3部」が、まっちー(町田樹さん)のショートプログラムエデンの東」と同じぐらい素晴らしい神演技だったのですが、これをやってくれまして(涙)、あの時と同じく震えました。私がフィギュアスケートをこよなく愛するのは、本当によい演技を見ると震えるほど感動するからなんですよね。他のスポーツは感動することはあっても震えはしません。フィギュアスケートがスポーツでありながら、それだけにとどまらない、芸術性を兼ね備えた稀有なスポーツだからでしょう。ジェレミーのこのプログラムは衝撃的で、スケートの真髄を表していると思います。彼のこのプログラムを見ると、スケートのジャンプやスピンに感動するのではないということがよくわかります。動きと音の調和、意思を持つ人間の体の動きによって表現される音楽世界――そういうものに心動かされるのだと自覚します。

 佐藤有香さんもよかった。さすがはジェレミーのコーチです。教本のようなスケーティングでした。彼女はしーちゃんのように背も高くなく典型的日本人体形なのですが、それでも美しく見えるのは、基本的なスケーティングが美しいからだと思います。全日本で表彰台に上った現役選手たちも出演しましたが、彼女たちは佐藤さんを見習うといいと思います。浅田真央選手や本郷理華選手は背も高くて見栄えがいいですが、他の選手はその点について恵まれているとは言いがたく、しかし体形に関しては国民性や遺伝的なものがあり、どうにもならないので、世界で通用するトップスケーターになるためには基礎スケーティングの技術と体の使い方を向上させるしかないでしょう。宮原知子選手はそれを実践していると思いますが、今日の「惑星」を見るかぎり限界を感じますね。技術的には問題ないのかもしれませんが、どうしても小さくまとまっている感が付きまといます。

 現役選手の演技はあまり印象に残らなかったのですが、宇野昌磨選手はよかったです。今季のショートプログラム「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー」を滑ってくれて、4回転も見られましたし。ジャンプ時、テレビで見て思っていたよりも高く跳んでいるのが意外でした。

 ジェフリー・バトルは完全にアーティストとしてのパフォーマンスで、ますます自己陶酔型の滑りに磨きがかかっていましたが、殿(織田信成さん)はプロだけど現役選手たちに近い滑りでしたね。ただ一人しゃべる機会があって、自分の演技を自分で解説し、ロングエッジとか暴露していましたが。まだまだ加点がもらえるような質の高いトリプルアクセルを跳びますし、表現力が向上して、昔より上手くなっている気がします。ちなみに殿は2010-2011シーズンのショートプログラム、「Storm」を披露してくれました。

 という感じで、あっという間に過ぎた2時間でした。メリチャリ、ジェレミー、しーちゃん……いずれも魅せられたのはジャンプやスピンというよりも、スケーティングの美しさでした。それゆえに、だから自分は羽生結弦選手のスケートが物足りないのだと再確認した時間でもありました。4回転を跳べばいいってもんじゃない、それはフィギュアスケートの真髄ではない。内村航平選手だって技の難度を上げること以上に、まず美しい体操であることにこだわっていますし。競技は違えども、その演技を見た人が付ける評価で決まる採点競技は、それが正しい方向のような気がするんですけどね。

 そんなことを言うなら、ジャンプとかが重要視される競技ではなくてアイスショーを観ればいいと思うかもしれませんが、真剣勝負の究極の緊張を味わう中で重圧と闘い、それに選手が打ち勝ってくれた時にだけ見られる競技における演技は特別で、時には凄みすら感じられて、同じプログラムでも別格の感動を与えてくれますから。2011-2012シーズンの大ちゃんのフリー、「イン・ザ・ガーデン・オブ・ソウルズ」の世界フィギュアでの演技とか。その点でアイスショーの演技は絶対的にかないません。だから私は、見に行く機会があれば、エキシビションではなく試合を、中でも勝者が決まる決勝のフリーを好んで見に行くのです。

 ユヅよ、羽生結弦選手よ。絶対王者とかいうのなら、競技会の最高峰でメリルやしーちゃんのような滑りを見せてくれ~、彼女たちがソチやトリノで見せてくれたような。すでにオリンピックチャンピオン、ワールドチャンピオンの肩書きを持ち、勝っても当然と思われてしまうあなたが目指すべきはその領域。トップに辿り着いた者にしか見えない、目指せない、その先にある頂。豊かな音楽世界を完璧に表現する身震いするような美しい滑りと体の動きに、人間の身体能力の限界に近い技を組み込んだ、いまだかつて人々が目にしたことのないパフォーマンスを見せてほしい。勝ち続けることは重要ではない。意味がないとは言わないけど、いつか必ず途切れる時がくる。それが途切れた後も、プロになってからも、年を取ってからも見たいと思えるスケーターになってほしい。それだけの素質を与えられ、ここまで努力してきたのだから。

 次の生演技は久しぶりに大ちゃんが見たいですね。とりあえず「氷艶」は観に行くつもりです。