日曜は日比谷で宝塚月組公演「All for One~ダルタニアンと太陽王」を観てきました。組力に加えて作品力、そして生徒個々の力を感じた素晴らしい作品でした。テンポよくスピード感を保って進む隙がない構成、そのスピード感を殺すような無駄な場面が一つもないという凄さ。さすがは小池修一郎センセイ。完全オリジナル作品はまだ信用しきれませんが、元ネタがある話のミュージカル化の手腕はやはりスゴイです。ハンパじゃありません。組力がある今の月組はアンサンブルがいいのですが、今回は個々の見せ場も心に残る場面が多く、たいへん見ごたえがありました。「いつ以来か、これほどおもしろい作品は。ひょっとしてロミジュリ(月組の)か?」と思ったぐらいです。
作品も全体的に完成度が高かったのですが、とにかく配役がハマりすぎでした。特に、みやるり(美弥るりかさん)ととし(宇月颯さん)は、これぞアラミスでありアトスだよという仕上がり。みやるりの徹底した色男ぶりはただの色男ではなく、まさしくフランス男の色男で、アトスの落ち着きと貫禄は、説明されなくてもあなたが銃士隊隊長ですねという感じ。みやるりは長髪のブロンド頭を振る仕草も色っぽく、その色気のある仕草や動きが終始一貫して徹底していて、としは頷くポーズ一つとってもダンディで頼もしく……告解室のアラミス神父の応対とロシュ城牢獄でのボーフォール公爵とアトスのやりとりは特に印象深い場面でした。この二人が『三銃士』の中でも特徴的なアラミスとアトスをしっかりと演じてくれたから、デュマの世界観の構築は二人に任せて、ダルタニアン役のたまきち(珠城りょうさん)や、ポルトス役のあり(暁千星さん)たち下級生も、のびのびと自分の役をやれたと思います。パリの居酒屋の場面なんか出色の出来でした。
陰の月組トップスターの呼び声をほしいままにしている娘役トップスターのちゃぴ(愛希れいかさん)は、今回はなんとルイ14世役で、男女二役と言っていい役。はっきり言って、元男役のちゃぴしかできない役で、ちゃぴしかできない演技でした。ステージの中心にいる時間もセリフの量も多く、もはやトップスター珠城りょうが演じるダルタニアンが主役ではないような気すらしました。
ルイ14世の王妃の座を狙っている、王のいとこで、本作のお笑い担当と言っても過言ではないモンパンシェ公爵夫人役は、元月組生で、現在は専科で活躍するコマ(沙央くらまさん)。相変わらずの芸達者ぶりでした。この人も自由自在に男役と娘役を行き交います。同じ小池さんの「PUCK」では娘役のヘレン、正塚さんの「ルパン」では男役のトニー……どちらの性別であっても、味のある目の離せない演技を披露してきました。このインパクトある人誰? またコマだよ、みたいな……。今回も、舞台に出ればつい目で追ってしまうような、強烈な個性を発揮していました。
他に、腹黒なクセ者感全開の枢機卿マザラン役の一樹千尋さん、王の母で摂政でもあるアンヌ役のすーちゃん(憧花ゆりのさん)ら演技巧者はさすがの安定感と貫禄で、場面場面を引き締め、重鎮やキーマンを好演。クライマックスでアンヌが自分たちの引退をマザランに告げるシーンは、大団円の浮かれた雰囲気の中で、一瞬空気が張り詰めたような感じがし、空気を変えることできる役者さんだとしみじみ思いました。光月るうさんのボーフォール公爵も、少ない出番ながらも大物にふさわしい演技で光っていました。あれだけの露出で、それでもハッピーエンドに向けての鍵を握る重要人物であり、かつ王族らしさを出す演技をするのは難しいと思いますが、十分にその難しい人物像を表現していました。みなキャラクターが立っていて、存在感バッチリでした。
月組異動後の初の本公演だったレイコ(月城かなとさん)は、マザランの甥ベルナルド役で、見た目の二枚目ぶりも、役どころの三枚目ぶりも磨きがかかっていました。高いレベルでお芝居ができ、組としてまとまりのある月組に来てよかったのではないでしょうか。今後より飛躍できると思います。みやるりと同じく美貌の色男でしたが、みやるりはフランス男で、レイコはイタリア男でした。
そして、お芝居もさることながら、今回は殺陣というか立ち回りもよかったですね。こちらも流れるように進む作品の勢いを止めないスピード感があり、絵的にも美しい振付でした。みんな動きが切れていましたし。お稽古は相当大変だったと思いますが、心からカッコいいと思えるものを見せてくれたので、珍しく力を入れて拍手を送りました。
久しぶりに手放しで絶賛できる公演で、正直なところ、お気に入りのトップスターだったまさお(龍真咲さん)やチギ(早霧せいなさん)のサヨナラ公演よりも、「1789」や「スカピン」などの海外物を潤色・演出したイケコの人気作品よりも何倍もよくて、観終わったあとの満足感が違いました。今まで観た作品で本作より上だと思えるのは、私にとっての三大ミュージカルである「エリザベート」と「ロミオとジュリエット」か(三大~のあと一つは「オペラ座の怪人」)、そして「カサブランカ」ぐらいです。そう思えるぐらいいい作品でした。なんとかもう一回リピートしたいと思っていますが、こういう文句なしにおもしろい作品を、宝塚ファンではない人も含めて、より多くの人に見ていただきたいとも思います。