羽生雅の雑多話

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宝塚メモ~主演男役歴20年。未知の領域を歩み続ける轟悠

 本日は赤坂ACTシアターで宝塚星組公演「ドクトル・ジバゴ」を観てきました。星組公演ですが、トップコンビも二番手も出ない、専科の轟悠さん主演の公演です。

 
 前回の大劇場公演「ベルリン、わが愛」でトップスターのベニーこと紅ゆずるさんしか印象に残らなかった星組ですが、演目がドクトル・ジバゴで理事が主演なら間違いはないだろうということで行ってきました。『ドクトル・ジバゴ』はノーベル文学賞を受賞したロシア文学の名作。小説を読んだことはないのですが、「ラーラのテーマ」という名曲を生んだ映画作品が好きなので。期待どおり、今年観た4本の舞台の中で個人的には一番よかったです。ついパンフレットを買ってしまいました。「All for One」以来です。
 
 私が宝塚を観はじめたときの雪組のトップスターは平みちさんで、彼女のあとカリンチョこと杜けあきさんがトップスターだったときに、トムとかイシゾーとか呼ばれていた轟さんが四番手になり、二番手のいっちゃん(一路真輝さん)、三番手の高嶺ふぶきさんと共に、それぞれがまったく違う個性で輝く雪組の黄金期を作りました。その雪組で生まれた傑作が、今もたびたび上演される『エリザベート』です。いっちゃんのサヨナラ公演で、そのときイシちゃんは狂言回し役のルキーニを演じました。トップスターを務め上げたあと専科に異動し、理事に就任してからは、もっぱら「理事」と呼んでいます。
 
 まずは、いつもと同じく、変わらぬ理事の若さに驚愕。理事の出演作を観るのはチエ(柚希礼音さん)がトップだった星組の『The Lost Glory~美しき幻影』以来でしたが、相変わらずファンを裏切らない美しい男役ぶりでした。はっきり言って、トップの頃からほとんど見た目の印象は変わりません。驚異です。歌は時折不安定な部分も感じられ、年とともに喉が弱くなってきたのかなとも思いましたが、もともと歌ウマで聞こえたタカラジェンヌではないので、ガッカリすることもありません。メリハリがあり、肝心なところでは引き込むような歌い方なので、多少かすれても気にならず。その点が『マタ・ハリ』で印象がよくなかったチエと違うところです。理事の歌は、ちゃんと演技の延長で、演じている役――ジバゴが歌う歌なのですよ。
 
 そして、なんといってもお芝居が圧巻でした。パンフレットの中で、脚本・演出の原田さんが、今の宝塚でジバゴを演じきれるのは轟悠だけだと語っていましたが、私もそう思います。革命後、元貴族たちが生きにくくなったモスクワを離れてウラル山脈の東の土地へ行く途中で、赤軍派の将軍となった、ラーラの夫・パーシャに捕まり尋問を受けて、新たな土地へ行って何をする気だと問われたときに、「生きる」と答えた場面や、ラーラと別れたあと、机に突っ伏して泣き叫ぶのを堪えて無言で手を震わせる場面など、かなりジンと来ました。
 
 理事に引きずられたのか、星組生たちも熱演でした。ヒロインであるラーラ役の有沙瞳さん、妻トーニャ役の小桜ほのかさん、パーシャ役の瀬央ゆりあさん、そして悪役コマロフスキー役の天寿光希さん……いずれも「ベルリン~」の時には何を演じていたのか憶えていない生徒さんたちなのですが、この公演では「こんな生徒いたっけ?」と思うほど、みな解き放たれたように存分に己の持てる力を発揮して、それぞれの役を好演していました。特に、娘役二人と瀬央さんの歌には驚きましたね。
 
 それと、瀬央さんは全体を通しての演技もよかった。同じ組の同期で、すでに二番手のポジションにいること(礼真琴さん)に後れをとってはいますが、さすがは奇跡の95期生。理想に燃えた大学生から、妻となったラーラを信じられなくなって人間不信に陥り、村を焼き払うような血も涙もない将軍に変わり、行き過ぎた粛清が断罪されて捕まり、脱走してラーラの家の前まで来て、結局追ってきた連中に銃殺されて死ぬのですが、その死に際の演技がすごかった。ただ殺されて死んでいく人間があの演技をしても大げさだなと思うだけかもしれませんが、ラーラを愛し信じていたときのやさしい青年時と、信じられなくなって愛を捨てた非情な将軍時をきっちりと演じているから、何もかも失って再び愛を求めてラーラの元に戻ろうとしたけど果たせずに死んだあの演技にとても説得力がありました。そして、このせおっちの迫真の演技があるから、パーシャの壮絶な最期を聞いたジバゴが、脱走した夫の罪のために捕まれば収容所に入れられるラーラを、自分を犠牲にして極東に逃がす――断腸の思いで愛する人を手放し別れる決断をするという理事の演技が生き、切ない心情がひしひしと伝わってくる素晴らしい場面になっていました。
 
 たぶん万人が観て楽しいと思えるような作品ではないし、宝塚っぽい作品でもありませんが、とても完成度の高い秀作でした。ですが、これも宝塚です。もう何十年も宝塚を観ている私のような人間は、正直なところ、大劇場の作品よりも、こういった大劇場以外――いわゆる「別箱」での公演のほうがおもしろいと思える作品が多いです。今回の「ドクトル・ジバゴ」もそうですが、「カラマーゾフの兄弟」や「春の雪」など古典と言ってよい名作を舞台化した作品や、マンガが原作の「ブラック・ジャック 許されざる者への挽歌」とか歴史小説原作の「Samurai(サムライ)」とかも大好きですね。
 
 宙組の前トップスター、まぁくんこと朝香まなとさんのサヨナラ公演だったウエクミ(上田久美子)さん作の「神々の土地」がイマイチだった理由も今回の公演でわかりました。やはりロシア革命の前後という時代背景は大劇場向きではないのです。血なまぐさくて重苦しく、笑いを誘うような場面はないし、宝塚らしさである華やかさが出せなくて、ストーリーはもちろんのこと視覚的にも暗いし……宝塚らしさを求めてくる観客も多い大劇場ではもちません。無理にふくらませず、別箱の作品にすればよかったのに……とつくづく思いました――今さらですが。
 
 兎にも角にも、これから星組を観るのが楽しみになったなと思ったのですが、今の星組は、ベニーがいるとベニーにしか目が行かないのが実情。今日の公演を観たら、みんなもっと力があるのに本公演ではそれが十分に発揮できていないような気がしました。力がないのなら仕方がありませんが、トップのベニーが個性的で、一人だけ変に存在感がありすぎて合わせづらいとか組みにくいとかで、ベニーにしか目が行かない状態になっているのなら、それは明らかに悪目立ちで、よいことではないように思えます。今日の公演は主役にばかり目が行くということはなかったので、貫禄があり、もちろん存在感も抜群ですが、理事だけが浮いているといったようなことはまったくありませんでした。そのあたりは、自分よりずっと若い組子たちとがっぷり四つ組んだお芝居ができる轟悠という役者の巧さなのだと思います。
 
 友人と一緒に観劇したときは、終演後に食事をしつつ感想を言い合うのですが、今日は平昌オリンピックの女子カーリングの三位決定戦をテレビ観戦するから終わったらすぐに帰ると言うので、幕間にインフルエンザで行けなかった平昌のお土産をもらって、寄り道せずに帰宅。
 
 家に帰ってきてから、私はカーリングではなくスピードスケートのオリンピック新種目である女子マススタートを観戦しながらこの記事を書いていましたが、高木菜那選手が冷静沈着なレース運びで、みごと金メダルを獲得。最終周回では今大会で初めて立ち上がって「行け~」と叫んでいました。おめでとう!! 高木選手。カーリングチームも銅メダル獲得おめでとう!! 二人ともさっさと帰宅した甲斐がありました。

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友人からもらった平昌のお土産。韓国土産といえば韓国海苔ですが、パッケージにスホランの絵が付いた公式グッズで韓国海苔があるとは思いませんでした。が……いい仕事していると思います。トマトの味は、はっきり言ってわかりませんでしたが、美味しかったです。