今回公開されているエジプトコレクションは、世界遺産となっているベルリンの博物館島にある新博物館が所蔵するもので、博物館島には5年ほど前にフリードリヒの絵を見に行き、その時にナショナルギャラリーの他、新博物館を含む五つの博物館を見てきたので、特別展は見ても見なくてもよかったのですが、時間があったので軽い気持ちで寄ってみたら、想像以上に気合いの入った展示で驚きました。日本初上陸という展示品もかなりあって、しかもその多くが撮影を許可されていたことにもビックリしました。
ハトシェプスト女王のスフィンクス像(紀元前1479~1458頃)。3500年前の物ですが、奇跡的な保存状態です。
セクメト女神座像(紀元前1388~1351頃)。彫像として完成度が高いです。
ツタンカーメン王の前で腰をかがめる廷臣たちのレリーフ(紀元前1333~1323頃)。こういうレリーフにしては珍しく、よくある記号みたいな人間描写ではなく、現代でも見られるような生きている人間の日常的な様子が描かれていて、3000年前が一気に身近になりました。
タイレトカプという名の女性の人型棺(紀元前746~525頃)。棺という箱にしては、かなり写実的です。
ハヤブサ頭のワニの小像(紀元前664~332頃)。こういう生き物を想像できる発想力が見事です。
有翼のイシス女神に保護された、ミイラ姿のオシリス神の小像(紀元前664~332頃)。2000年以上前に、すでに青銅でここまで精巧なものを作るほどのデザイン力と造形力があったことに驚嘆します。
バレメチュシグのミイラ・マスク(紀元50~100頃)。金による加飾も彩色も圧巻です。
ベルリンの新博物館は王妃ネフェルティティの胸像があることでも知られますが、他にもシュリーマンが母国に持ち帰った発掘品(略奪品)などがあり、そのコレクションはロンドンの大英博物館にも劣らぬものだと思います。今回来日しているのはそのうちのほんの一部で、博物館内には似たようなものがゴロゴロあり、取り立てて有名でもなく特にフィーチャーされるような品々ではないのですが、それでも一つ一つ丁寧に見せられると、それぞれの作品が目に飛び込んできて、その凄さを強く訴え、古代エジプト美術のデザイン力や制作技術等々、改めてレベルの高さを感じることができました。ベルリンで見たときには、あまりに展示品が多く情報量が過多で、かつ無造作に展示されているので、見ているうちにありがたみも薄れて、しまいには食傷気味になり、途中から流して見ていましたから。それに、エジプトの偉大さよりもドイツ帝国の偉大さを見せつけられた印象のほうが強かったですし。なので、多くのものに圧倒される展示もそれはそれで魅力的ですが、その中からセレクトされたものを少しずつ見る展覧会も、個々を深く鑑賞できて、これはこれで悪くないと思いました。そして、本展では、現代人を凌ぐ古代人の豊かな想像力と表現力に触れられ、東博で開催された大英博物館帰国記念の「土偶展」に匹敵する芸術的刺激がもらえるので、コロナ禍ではありますが、できるだけ多くの人に見てほしいと思いました。