羽生雅の雑多話

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「青天を衝け」総評~長寿を全うした一人の実業家を通して、いつの時代も人間の本質は変わらないことを示したドラマ

 昨日に続いて本日も終日巣ごもり、全日本フィギュア男子フリーを観に行ったため本放送を見そびれたNHK大河ドラマ「青天を衝け」の再放送を見ました。遠征で1回見逃しましたが、昨年の「麒麟がくる」に続いて、初回から最終回まで完走でき、終盤は家にいれば土曜の再放送も見るくらいだったので、ドラマとしてはおもしろい、「麒麟がくる」に劣らぬ秀作だったと思います。約1年間楽しませてもらった満足のいく作品だったので、先週駆け込みで飛鳥山の「渋沢×北区青天を衝け大河ドラマ館」に行ってきました。会場の北区飛鳥山博物館は何度か訪れたことがあり、館内の一角ならばそれほど大きな展示室ではないことは想像できたので、「フィスト・オブ・ノーススター」のソワレを観に行くため仕事を3時で切り上げた22日水曜に、日比谷に行く前に寄り道。会期は最終回の本放送が放映される26日日曜までなので、これ以上遅くなって閉館日近くになれば混むだろうと思ったので。

会場の北区飛鳥山博物館の入口。4時過ぎに行きましたが、この日はまだ空いていました。最終日はチケット売り場に行列ができたようでしたが。

館内に再現されていたパリ万博の日本ブース

 

 とにかく主役の吉沢亮クンの演技が全編にわたって素晴らしかったと思います。吉沢クンの存在を知ったのは、およそ2年半前。ドイツ城めぐり旅行記の記事でちょっと触れましたが、たまたま何年か前に飛行機で「銀魂」の映画を観て、どこかキレ気味の沖田総悟役を好演していたので、その数か月後に大河の主役が決まったと知ったときには驚きましたが、ジャニーズアイドルが主役をできるのだから演技的には問題ないだろうと思っていました。さすがに当初は、まさか91歳まで一人で演じきるとは思いませんでしたが。けれど、途中で年相応の俳優に交代しても吉沢“栄一”の印象が強すぎて、吉沢老け役以上の違和感があり、視聴者も急にはうまく感情移入できず、慣れるのに時間がかかったと思うので、回数が限られている以上あれでよかったのではないでしょうか。

大河ドラマ館のチケット売り場でもらった吉沢“栄一”のハガキ

北区の大河ドラマ館オリジナル企画の「なりきり1万円札」。自分の写真で作れるデジタル体験コーナーですが、「麒麟がくる」の時に同じような「なれルンです」で甲冑写真を撮って、あまりの似合わなさに後悔したので、スタッフに勧められても断ると、「では、吉沢さんの1万円札のお写真を」と、わざわざ展示の前まで案内してくれたので、撮らせていただきました。

 

 ただし、「麒麟がくる」のように考えさせられることはなく、舞台となった時代や登場人物を改めて調べてみようという気も起らず、「渋沢栄一って、やっぱりすごいな、以上。」という感じではありました。深谷大河ドラマ館までは足を延ばす気にならなかったのは、それゆえです。専門は異なりますが、大学時代は日本史専攻だったので、渋沢栄一についてはもちろん知っていて、今さらその偉大な事績に驚かされることはありませんでしたし、ドラマの中で取り上げられたエピソードも世に明らかになっている事柄以上のことはなく、通常とは異なる視点の幕府側から見た開国~大政奉還戊辰戦争明治維新という歴史も、昔さんざん深掘りして、もはや気が済んでいるので。栄一のやったことや生き方がすごいのは伝わってきましたが、栄一が何故あれほどの情熱を持ち続けていられ、その情熱に従って行動できたのかが最後まで不思議で、91歳の生涯を見終えても疑問のままでした。物語的には両親の育て方や従兄弟の影響という答えなのでしょうか……だとしたら、あまり説得力がありませんが。豪農出身で生まれたときから生きるに困らず、家族親族に愛され、経済的にも愛情的にも恵まれていて、どうしてあれほどあきらめない不屈の精神や旺盛な行動の原動力が生まれたのか、さっぱりわかりません。ナゾです。物語の中でそれらしきことが何か提示されれば、「なるほど」と思ったり、「いや違う、こうではないか」とおのずと思考を巡らせたかもしれませんが、特になかったので、「以上。」で「青天を衝け」は終了です。

 

 その点、唯一生き方に一つの答えを出していたのは徳川慶喜の描き方で、いささか美化されすぎているような気もしましたが、良心的に見れば、あのような解釈もアリかもしれない――と受け入れることはできました。徳川十四代将軍徳川家茂を研究してきたので、今回脚本家の大森美香さんが造形した慶喜の人物像には手放しで賛同はできませんが、草彅“慶喜”は実に天晴れで、あれぞまさしく快演。個人的には「ミッドナイトスワン」の凪沙以上にハマリ役だと思いました。「輝きが過ぎる」とか「光を消して余生を送ってきた」という言葉は、かつて誰よりも輝いていた国民的アイドルSMAPの一員であり、その身分を外圧によって失い、理不尽に表舞台での活躍の場を奪われた剛だからこそ芝居のセリフを超えた真実味を帯びていて、腑に落ちたような気がします。いま思えば、トップアイドル→トップ武士(将軍)と置き換えれば、境遇が重なりますし。キャスティングした人はそのへんを意識していたのかもしれません。また、自分を演出し見せることに長けたトップアイドルだったからか、セリフがない場面での所作が随所で光り、たびたび目を瞠りました。最後のシーンの、自伝に付箋を貼る手つきの美しさなどは、いかにも貴人らしく、身震いしましたし。美しく端整に、かつおもしろく、印象深く――アイドルとして俳優として長年積み上げてきた草彅剛の経験が至る所で生かされていたと思います。若い頃はSMAPの中でも人気がなく、ライブのMCでもリーダーの中居クンや人気者のキムタクやシンゴに遠慮して一歩後ろに引いていました。そんな時代から見てきて、韓国語をおぼえて韓国単独デビューを果たしたチョナン・カンとしての活動をはじめ、数々の努力の過程を知っているので、ここまで辿り着いてくれて、本当に感無量です。本編で渋沢栄一徳川慶喜に抱く敬愛の念には、吉沢亮の草彅剛に対するそれが確実に重なっていて、まさに演技を超えた表現になっていたと思います。

大河ドラマ館にあった草彅“慶喜”のパネル

 

 「青天を衝け」は、授業でほとんど触れられない元幕臣で農家出身の実業家――渋沢栄一の功績並びに、授業でほとんどが教えられる明治の元勲――生き残った維新の英雄たちの功罪を再認識させました。大倉孝二さん演じる大隈重信が大正時代に二度目の内閣総理大臣職を引き受けたことを80近くにもなって何をやっているんだと栄一に責められたときに「維新の尻拭いをやっている!」と応酬したセリフはとりわけ象徴的でした。幕末から明治、大正、昭和の戦前までの時代の変遷をわかりやすく見せてくれ、今の時代も人間そのものは徳川幕府の時代と大して変わっていないことを教えてくれました。それだけでも十分に意味がある上に、テレビドラマというエンターテインメントとしても、出演陣の熱の入った芝居を筆頭に、去年に続くコロナ禍でロケなども制限があったにもかかわらず映像なども総じて質が高かったので、拍手喝采の出来だったと思います。

 

 来たる2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は小栗旬クンが主役。吉沢クンと共演した「銀魂」の主役――坂田銀時役もさすがのクオリティでしたが、そもそも彼は稀代の演出家、蜷川幸雄に目をかけられた、藤原竜也クンと共に蜷川ファミリーを代表する役者。「銀魂」以前から舞台俳優としていい仕事をしていたので注目し、主演した「時計じかけのオレンジ」なども生の舞台を観に行きました。なので「ついに小栗旬来たー!」というのが正直な感想。今度は大河ドラマ館も鎌倉で、鎌倉なら何回でも行けるお気に入りの観光地なので、鶴岡八幡宮や江の島詣でがてら訪れたいと思います――ドラマがおもしろいことが大前提ですが。期待しています、三谷さん!

飛鳥山公園のお土産売り場の壁にあしらわれていた北区観光協会のオリジナルキャラクター。慶喜とか北区に関係あるのか?と思いましたが、本人とは別物と思い、深く気にしないことにしました。渋沢栄一も肖像写真と違いすぎますし。