羽生雅の雑多話

引越してきました! 引き続きよろしくお願いします!

「努力は報われない」ものだけど~2022北京五輪フィギュアスケート男子シングル感想

 やりましたー、ユーマ&ショーマのダブル表彰台。銀メダルは初出場の若干18歳、鍵山優真選手、銅メダルは2大会連続台乗りの宇野昌磨選手、おめでとう!! 二人ともメダリストにふさわしい演技でした。ショーマのフリーはややミスが目立ちましたが。

 

 そして、ネイサン、4年越しの悲願の金メダル、おめでとう!!

 

 勝負において頂点に立てるのは通常一人で、それゆえ勝利の女神がネイサン・チェン選手にほほえめばユヅこと羽生結弦選手の3連覇は実現しないわけですが、平昌オリンピックのショート17位からの怒涛の追い上げを見せた5位入賞から4年――その間休むことなく走り続けて世界のトップを維持し続けたネイサンの金メダルに文句をつける人は誰もいないでしょう。まだ北京オリンピックの競技は続いていますが、おそらく彼ほど今回のオリンピックの金メダリストの中でも金メダルにふさわしく祝福されるべきアスリートはいないと思います。世界的に注目度が高い競技で、かつ選手寿命が短い競技で、前回オリンピック後の世界選手権、グランプリファイナル、国内選手権すべてにおいて負けなしの連覇、文字どおり4年間ずっと世界王者であり続けました。今回のショートとフリーの演技も別格で、点数も一人異次元でした。演技中盤の4回転ルッツを筆頭にジャンプはもちろん質、安定感ともに抜群で圧巻でしたが、ジャンプ要素が終わってからのステップがダンスナンバーのように軽快で、ネイサン本人も見るからに楽しそうにノリノリで踊っていて、本当に魅力的でした。あの表現力がユーマやショーマにはまだ足りない、これがネイサンとの差だとしみじみ思いました。

 

 この絶対王者ネイサン・チェンを生み出したのは間違いなく羽生結弦です。ユヅがいなければ存在せず、彼の見事な演技も生まれなかったでしょう。奇しくもネイサンが金メダル獲得後のインタビューでユヅについてコメントを求められたときに言っていました――「彼がスケート界にもたらしたものは永遠だ」と。まさにそのとおりで、至言だと思います。羽生結弦がスケート界にもたらしたものが確実に存在し、その功績は永遠に色褪せないものだということです。ネイサンのみならず、ユーマとショーマ、4回転を軸にしたメダリストたちの素晴らしい演技のすべてが生まれなかったでしょう。また、ユヅを目指して努力した選手たちがいたからこそ、ユヅ自身のスケートも進化しました。はっきり言って、1位だった平昌の時よりも、4位に終わった北京の時のほうが格段に上手いです。ショートは4回転サルコウがパンクして点数は伸びませんでしたが、それ以外は一番上手いと思いましたし。2回の転倒があったにもかかわらず、ネイサン、ユーマに次ぐ3位だったフリーの点数からも、ジャンプだけでなく全体的なスケーティングが評価されていることがわかります。ショーマはフリーが5位でしたが、ショートの貯金が生きました。ショートとフリー両方の成績が揃わなければメダルに届かないことは、平昌の時にネイサンが実証しています。ネイサンの優勝を心から祝福していますが、欲を言えば、ユヅが初日のショートで失速したことによりネイサンはだいぶ精神的に楽な状態で二日間滑ることができ、実力を発揮できたと思うので、最後まで一つのミスも許されない緊迫した接戦で手に汗握るような試合が見てみたかったとも思います。接戦でも同じような演技ができたかどうか――は、もはや神のみぞ知るところですが。

 

 前人未到の4回転アクセルに挑戦して、残念ながら今回も成功させられなかったユヅは試合後に言っていました――「報われない努力だったかもしれない」と。努力というものは、どれほど懸命にしようが必ずしも報われるものではないので、それを聞いたときに、「ユヅは今まで報われなかったことがなかったのか?」と思い、それはそれで今日この日まで幸せな競技生活を送れていたということではないかと思いました。正直なところ、ユヅのオリンピック2連覇は運がよかったからだと思っていますし。絶対に報われるわけではない努力が二度も一番理想的な形で報われたのだから、メチャクチャ運がよかったということです。もちろん、そもそも努力をしていなければ、報われることはないので、報われたければ相応の努力をしなければなりません。凄まじい努力をしてきたアスリートたちの中で、今回はネイサンが選ばれて運命の神様がほほえみ、ネイサンの運がよく、本来の力を発揮できる場が与えられ、彼の努力が報われることになった――ということです。

 

 ひと口に「努力が報われる」といっても、「報われた」と思える形はいろいろあり、人によって理想の形は違うのではないかとも思います。メダル獲得という誰の目にも見える形の報われ方は広く価値観を共有できるのでわかりやすいですが、それ以外の報われ方もあると思います。努力は必ずしも報われるものではありませんが、経験で無駄なことは一つもないと思っています。たとえ苦しく嫌な辛い経験でも無駄にはならない、些細なことでも積み重ねた経験は血肉のように自らの力、目に見えぬ財産になっていると幾度も思い知らされてきました。経験が生かされたときに「あの時の努力が報われた」「このためにあのとき努力したのだ」と思えることもあると思います。それがいつになるのか、思えるときが必ず来るのかはわかりませんが。他人から見れば十分に報われているのに、それに気づかず自覚することなく人生を終えることもあるでしょうし。

 

 私自身は、オリンピックを2連覇し引退してもおかしくないユヅが史上初の4回転アクセル成功という目標を掲げることで競技に対するモチベーションを保って現役を続け、そのおかげでさらにスケートを進化させて、ようやく長らく彼に求めていた「頂に辿り着いた者にしか見せられないスケート」を見せてくれるようになったので、平昌五輪後のユヅの努力は十分に意味があったと思っています。また、それによってスケート界全体のレベルも上がり、競技が活性化して魅力が増したのですから、ユヅの努力は本人が今は報われたと思えなくても、スケートに関わる大多数の人間はその価値を認めているものだと思います。なので、4Aが成功してもしなくても、ユヅの挑戦とその挑戦に至るまでの努力の価値は変わらないと思っています。ネイサンが言うように「永遠」に――。とはいえ、記憶やらリスペクトやら人間の心や感情に起因し依存するものは曖昧なので、とりあえず公式戦で初めて認定されてよかったです。努力の結晶――頑張った事実が記録されて、確実に歴史に残りますから。

 

 今まで現役を続けてくれてありがとう、ユヅ。あなたが頑張ってくれたおかげで、あなたと、あなたを目指して切磋琢磨してきた選手たちの素晴らしいパフォーマンスをたくさん見ることができました。長年第一線で酷使してきた足はボロボロのはずなので、これ以上望むのは酷だと思ってはいるのですが、少しでも長く現役フィギュアスケーター羽生結弦のさらなる高みへの挑戦と真剣勝負から生まれる「頂点を極めた者にしか見えない、辿り着けない、頂のその先にあるスケート」が見られるよう、心底願っています

 

※追記

 スノーボード男子ハーフパイプで2大会連続銀メダルの平野歩夢選手がついに金メダル獲得。おめでとう!! 不可解なジャッジに対する怒りと、その理不尽さに屈しない反骨精神、そして自分にしかできない大技を成功させているというプライドがにじみ出た渾身のランに感動してネット上の記事を読み漁っていたら、ソチ五輪フィギュアスケート男子シングル銀メダルのパトリック・チャン氏のインタビュー記事を発見。ちょっと感動したので、コメントを抜粋して載せておきます。

 
ユヅルが平昌で二度目の金メダルを手にするのを目にしたときに、思いがけない感動がわいてきたんです。実を言うとソチオリンピックでは、まだそれほど経験のない新人に負けてしまったという忸怩たる思いをなかなか拭い去ることができなかった。でもユヅルがソチから見せた成長ぶりと、彼の歩んできたオリンピック2連覇への道のりを目にしたとき、この素晴らしい物語の中に自分も参加できたことを誇りに思いました。ソチオリンピックの結果はなるべくしてなったのだ、と自分を納得させることができた。これほどの選手だったのだから、自分が負けたのは仕方のないことだったのだということを、ユヅルが平昌で証明してくれたのです」(『NumberWeb』2/10配信記事より)
 
 当時の絶対王者としてソチオリンピックに挑んだパトリック。私は大ちゃん(髙橋大輔選手)を応援していましたが、金メダルはパトリックが獲るだろう、世界選手権3連覇の偉業を成し遂げ、今回のネイサンと同じく出場選手の中でも過去4年間のあいだ突出した実績を残してきたパトリックに獲らせたいと思っていました。この記事の中で「フリー演技が終わったときは、人生で最大の失望を感じた」とも語っているので、本人はもちろん誰もが考えていなかった想定外の結果は彼の心に大きな爪痕を残し、「なかなか拭い去ることができなかった」ため、ソチでは努力が報われなかったという悲しい思いを長らく引きずることになったのかもしれません。けれども、4年後に同じオリンピックという舞台でユヅを目にして、彼の金メダル獲得に感動し、オリンピック2連覇王者の物語に自分が参加できたことを誇りに思えたパトリックは、過去の結果に納得し、結果とともにそこに至るまでの過程を肯定し受け入れ、現在のスケート界の進化に繋がったのなら自分の努力はけっして無駄ではなかったとようやく認めることができ、ついに「報われた」のではないでしょうか。
 

上野雪景色~上野東照宮&特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」in国立科学博物館

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 

 年末年始は大晦日から元旦にかけて親元に顔を出しただけで、あとは巣ごもり、明智家系譜&年表づくりに明け暮れていました。というのも、休みの前半に突然天啓のように意外な可能性に思い至ったからです。この説がありえるのか、大掃除もロクにせず検証に没頭したので、結局遠征記は手付かずのまま仕事始めを迎えることと相成りました(検証は続行中)。感覚的にはあっという間でしたが、同じ姿勢でPCに向かっている時間が長かったせいか、ここ数日腰が痛くて困っています。3連休は年1のスキーなのに(笑)。

 

 さて、昨日の東京は何年ぶりかの大雪でした――が、現在国立科学博物館で開催されている特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」の入場予約を入れていたので、上野に行ってきました。会期が12日までで、この日を逃すと行けなかったので。10月14日から始まった特別展で、10月以降はバタバタしていて都合がつく日がわからなかったので、3か月もやっていれば会期中のどこかで行けるだろうと思い、とりあえず前売券を買っておいて、最初の予約を12月の20日過ぎに入れたのですが、年内は忙しくて行けそうもなく、数日前にキャンセル。改めて日時指定の予約を取り直し、土日と年末年始休暇は避けたかったので、それを外したら1月6日しかありませんでした。

 

 ならばついでに初詣にでも行こうかと思い、明治神宮日枝神社神田神社など近場の神社を調べていたら、最寄りの上野東照宮に数量限定のお正月の御朱印、そしてなんとパンダ印なるものが押された御朱印が期間限定で授与されていると知ったので、上野東照宮に行くことに。東照宮主祭神東照神君こと徳川家康なので、改まってお願いしたいこともなかったのですが……。予報どおり雪が降りはじめて、お参りは日を改めようかとも思ったのですが、平日でこの悪天候ならば、いつも混んでいる韻松亭も予約なしで入れるのではないかと思い、また雪なら雪で上野公園界隈は雪景色も風情があり、雪の少ない東京ではねらってもそうは見られないものなので、当初の予定どおり昼で仕事を切り上げて、上野へと向かいました。

 

 上野駅に着いて、いよいよ本降りになってきた雪の中、まずは韻松亭に行ってみると、思ったとおりすぐに入れ、「花籠膳 雪」と、寒かったので晴耕雨読のお湯割りを注文。

f:id:hanyu_ya:20220106235644j:plain雪の韻松亭横山大観がオーナーだったこともある明治8年創業の老舗

f:id:hanyu_ya:20220106235718j:plainランチメニューの「花籠膳 雪」。焼酎を飲んでいたので、ご飯と汁椀はあとで持ってきてもらうことにしました。

f:id:hanyu_ya:20220107003614j:plain会計の前にあった鏡餅。伊勢エビがぴったり似合う大きさの鏡餅を手に届く至近距離で目にすることも少なくなったので、「鏡餅って元来こうだったよなぁ」と感慨深く思い、支払い時に撮っていいか訊いて承諾いただき撮影させてもらいました。

 

 1時間ほどかけて食事を終えると、上野東照宮に参拝。御札授与所で目当ての御朱印をいただいたあと、拝観料を払って透塀の中に入り、キンキンキラキラの社殿を間近で見てきました。

f:id:hanyu_ya:20220107000024j:plain透塀越しの拝殿。重要文化財。慶長4年(1651)に三代江戸将軍家光が造営。2013年に修復を終えたばかりなので金ピカです。

f:id:hanyu_ya:20220107000054j:plain雪の拝殿(右から)

f:id:hanyu_ya:20220107000125j:plain雪の拝殿(左から)

f:id:hanyu_ya:20220107000201j:plain雪の本殿(脇から)

f:id:hanyu_ya:20220107000234j:plain数量限定のお正月御朱印。拝殿と牡丹の絵が入った華やかな御朱印です。今の季節はぼたん苑が開園しています。

f:id:hanyu_ya:20220107000559j:plain御朱印についての説明。右から「天海僧正東照神君藤堂高虎」だそうです。

f:id:hanyu_ya:20220107000625j:plainぼたん苑入口にあった牡丹。雪をかぶっていてよくわかりませんが、「今猩々」とのこと。

f:id:hanyu_ya:20220107000708j:plain期間限定のパンダ押印入り御朱印。日光や久能山の他にも東照宮は全国至る所にありますが、パンダ印が押せるのは上野だけでしょう。しかも双子パンダです。芸が細かい!

f:id:hanyu_ya:20220107000811j:plain参道から見る旧寛永寺五重塔雪景色の正面バージョン

f:id:hanyu_ya:20220107000910j:plain参道から見る旧寛永寺五重塔雪景色の斜めバージョン

 

 東照宮を後にすると、来た道を少々戻り、初詣は神社にしたかったので行きには通り過ぎた清水観音堂に参拝。朱印帳を持ってこなかったので紙で御朱印をいただき、授与所に元三大師みくじがあったので引いたら吉でしたが、内容はよかったです。

f:id:hanyu_ya:20220107001024j:plain雪の清水観音堂。寛永8年(1631)に天海が京都の清水寺に倣って建立したので、不忍池が眺められる舞台が作られています。広重の「上野清水堂不忍ノ池」には春の桜が描かれていますが、冬の雪もいい感じで、「浅草金龍山」と足して二で割ったような景色でした。

f:id:hanyu_ya:20220107001055j:plain韻松亭に行く前に通り過ぎたときに撮ったバージョン。真ん中の月の松がまだわかりやすかったです。2時間ぐらいの差ですが、雪の量が全然違いました

 

 ミイラ展は4時からの予約だったので、3時40分に科博に行くと、入場は15分前からとのことで、5分ほど待つことに。係員に「入場するまでに3か所でQRコードを提示するのでご用意を」と言われたのですが、寒さのせいかスマホの電池の消耗が激しく、そのとき3%だったので、待っているあいだ気が気ではありませんでした。入るときには1%になっていて、どこかで電源を借りなければならないかとドキドキしましたが、なんとか3回クリアできました。

 

 予約制のわりに会場内は混んでいて、はっきり言って密でした。人が通れる通路を確保するためにスタッフが会場内を頻繁に行き来するほどで、これで人数制限しているのかという状態。会期終了間際とはいえ、こんな有り様では感染対策にならず、事前予約制を取っている意味がないと思いました。子供連れも多く、「そういや、まだ冬休みか」と、今さらながら思い出し、子供にはかなわないし、子供にこそ博物館の展示は見てほしいので、ざっと見て20分ほどで出てきました。じっくり見るような環境ではなかったこともありますが、展示品を前にしてもそれほど興味が湧かず、すっ飛ばすことに躊躇もなかったので。

 

 では何故わざわざこんな雪の日に見に来たのかと思ったのですが、展示品を見に来たというよりも、現在の研究でこんなことまでわかるようになったのだということを知るために来たのだと思いました。展示されていた発掘品は過去に見た物と変わりばえしませんが、技術の進歩によって研究成果はその頃より格段に上がっているので。今どういう研究が可能になっていて、この研究によってどういうことが判明したのか、また今後知り得るのか、それを知れたのは収穫だと思いました。言うなれば、可能性の確認――といったところでしょうか。

 

 科博は好きなので、いつもは常設展にも寄るのですが、今回は寒さで気力がなく、雪で交通機関が乱れる前に――とも思ったので、5時前には博物館を出て帰宅。帰ったら上野よりも小降りだったので、玄関前の雪かきをしました。

「青天を衝け」総評~長寿を全うした一人の実業家を通して、いつの時代も人間の本質は変わらないことを示したドラマ

 昨日に続いて本日も終日巣ごもり、全日本フィギュア男子フリーを観に行ったため本放送を見そびれたNHK大河ドラマ「青天を衝け」の再放送を見ました。遠征で1回見逃しましたが、昨年の「麒麟がくる」に続いて、初回から最終回まで完走でき、終盤は家にいれば土曜の再放送も見るくらいだったので、ドラマとしてはおもしろい、「麒麟がくる」に劣らぬ秀作だったと思います。約1年間楽しませてもらった満足のいく作品だったので、先週駆け込みで飛鳥山の「渋沢×北区青天を衝け大河ドラマ館」に行ってきました。会場の北区飛鳥山博物館は何度か訪れたことがあり、館内の一角ならばそれほど大きな展示室ではないことは想像できたので、「フィスト・オブ・ノーススター」のソワレを観に行くため仕事を3時で切り上げた22日水曜に、日比谷に行く前に寄り道。会期は最終回の本放送が放映される26日日曜までなので、これ以上遅くなって閉館日近くになれば混むだろうと思ったので。

会場の北区飛鳥山博物館の入口。4時過ぎに行きましたが、この日はまだ空いていました。最終日はチケット売り場に行列ができたようでしたが。

館内に再現されていたパリ万博の日本ブース

 

 とにかく主役の吉沢亮クンの演技が全編にわたって素晴らしかったと思います。吉沢クンの存在を知ったのは、およそ2年半前。ドイツ城めぐり旅行記の記事でちょっと触れましたが、たまたま何年か前に飛行機で「銀魂」の映画を観て、どこかキレ気味の沖田総悟役を好演していたので、その数か月後に大河の主役が決まったと知ったときには驚きましたが、ジャニーズアイドルが主役をできるのだから演技的には問題ないだろうと思っていました。さすがに当初は、まさか91歳まで一人で演じきるとは思いませんでしたが。けれど、途中で年相応の俳優に交代しても吉沢“栄一”の印象が強すぎて、吉沢老け役以上の違和感があり、視聴者も急にはうまく感情移入できず、慣れるのに時間がかかったと思うので、回数が限られている以上あれでよかったのではないでしょうか。

大河ドラマ館のチケット売り場でもらった吉沢“栄一”のハガキ

北区の大河ドラマ館オリジナル企画の「なりきり1万円札」。自分の写真で作れるデジタル体験コーナーですが、「麒麟がくる」の時に同じような「なれルンです」で甲冑写真を撮って、あまりの似合わなさに後悔したので、スタッフに勧められても断ると、「では、吉沢さんの1万円札のお写真を」と、わざわざ展示の前まで案内してくれたので、撮らせていただきました。

 

 ただし、「麒麟がくる」のように考えさせられることはなく、舞台となった時代や登場人物を改めて調べてみようという気も起らず、「渋沢栄一って、やっぱりすごいな、以上。」という感じではありました。深谷大河ドラマ館までは足を延ばす気にならなかったのは、それゆえです。専門は異なりますが、大学時代は日本史専攻だったので、渋沢栄一についてはもちろん知っていて、今さらその偉大な事績に驚かされることはありませんでしたし、ドラマの中で取り上げられたエピソードも世に明らかになっている事柄以上のことはなく、通常とは異なる視点の幕府側から見た開国~大政奉還戊辰戦争明治維新という歴史も、昔さんざん深掘りして、もはや気が済んでいるので。栄一のやったことや生き方がすごいのは伝わってきましたが、栄一が何故あれほどの情熱を持ち続けていられ、その情熱に従って行動できたのかが最後まで不思議で、91歳の生涯を見終えても疑問のままでした。物語的には両親の育て方や従兄弟の影響という答えなのでしょうか……だとしたら、あまり説得力がありませんが。豪農出身で生まれたときから生きるに困らず、家族親族に愛され、経済的にも愛情的にも恵まれていて、どうしてあれほどあきらめない不屈の精神や旺盛な行動の原動力が生まれたのか、さっぱりわかりません。ナゾです。物語の中でそれらしきことが何か提示されれば、「なるほど」と思ったり、「いや違う、こうではないか」とおのずと思考を巡らせたかもしれませんが、特になかったので、「以上。」で「青天を衝け」は終了です。

 

 その点、唯一生き方に一つの答えを出していたのは徳川慶喜の描き方で、いささか美化されすぎているような気もしましたが、良心的に見れば、あのような解釈もアリかもしれない――と受け入れることはできました。徳川十四代将軍徳川家茂を研究してきたので、今回脚本家の大森美香さんが造形した慶喜の人物像には手放しで賛同はできませんが、草彅“慶喜”は実に天晴れで、あれぞまさしく快演。個人的には「ミッドナイトスワン」の凪沙以上にハマリ役だと思いました。「輝きが過ぎる」とか「光を消して余生を送ってきた」という言葉は、かつて誰よりも輝いていた国民的アイドルSMAPの一員であり、その身分を外圧によって失い、理不尽に表舞台での活躍の場を奪われた剛だからこそ芝居のセリフを超えた真実味を帯びていて、腑に落ちたような気がします。いま思えば、トップアイドル→トップ武士(将軍)と置き換えれば、境遇が重なりますし。キャスティングした人はそのへんを意識していたのかもしれません。また、自分を演出し見せることに長けたトップアイドルだったからか、セリフがない場面での所作が随所で光り、たびたび目を瞠りました。最後のシーンの、自伝に付箋を貼る手つきの美しさなどは、いかにも貴人らしく、身震いしましたし。美しく端整に、かつおもしろく、印象深く――アイドルとして俳優として長年積み上げてきた草彅剛の経験が至る所で生かされていたと思います。若い頃はSMAPの中でも人気がなく、ライブのMCでもリーダーの中居クンや人気者のキムタクやシンゴに遠慮して一歩後ろに引いていました。そんな時代から見てきて、韓国語をおぼえて韓国単独デビューを果たしたチョナン・カンとしての活動をはじめ、数々の努力の過程を知っているので、ここまで辿り着いてくれて、本当に感無量です。本編で渋沢栄一徳川慶喜に抱く敬愛の念には、吉沢亮の草彅剛に対するそれが確実に重なっていて、まさに演技を超えた表現になっていたと思います。

大河ドラマ館にあった草彅“慶喜”のパネル

 

 「青天を衝け」は、授業でほとんど触れられない元幕臣で農家出身の実業家――渋沢栄一の功績並びに、授業でほとんどが教えられる明治の元勲――生き残った維新の英雄たちの功罪を再認識させました。大倉孝二さん演じる大隈重信が大正時代に二度目の内閣総理大臣職を引き受けたことを80近くにもなって何をやっているんだと栄一に責められたときに「維新の尻拭いをやっている!」と応酬したセリフはとりわけ象徴的でした。幕末から明治、大正、昭和の戦前までの時代の変遷をわかりやすく見せてくれ、今の時代も人間そのものは徳川幕府の時代と大して変わっていないことを教えてくれました。それだけでも十分に意味がある上に、テレビドラマというエンターテインメントとしても、出演陣の熱の入った芝居を筆頭に、去年に続くコロナ禍でロケなども制限があったにもかかわらず映像なども総じて質が高かったので、拍手喝采の出来だったと思います。

 

 来たる2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は小栗旬クンが主役。吉沢クンと共演した「銀魂」の主役――坂田銀時役もさすがのクオリティでしたが、そもそも彼は稀代の演出家、蜷川幸雄に目をかけられた、藤原竜也クンと共に蜷川ファミリーを代表する役者。「銀魂」以前から舞台俳優としていい仕事をしていたので注目し、主演した「時計じかけのオレンジ」なども生の舞台を観に行きました。なので「ついに小栗旬来たー!」というのが正直な感想。今度は大河ドラマ館も鎌倉で、鎌倉なら何回でも行けるお気に入りの観光地なので、鶴岡八幡宮や江の島詣でがてら訪れたいと思います――ドラマがおもしろいことが大前提ですが。期待しています、三谷さん!

飛鳥山公園のお土産売り場の壁にあしらわれていた北区観光協会のオリジナルキャラクター。慶喜とか北区に関係あるのか?と思いましたが、本人とは別物と思い、深く気にしないことにしました。渋沢栄一も肖像写真と違いすぎますし。

五輪銀と世界ランク1位でも手の届かない異次元の領域に入った五輪王者・羽生結弦のスケート〜2021全日本フィギュア感想

 昨日が仕事納めで、今日からようやく待ちに待った長期休暇です。この休暇中になんとかまだ記事にできていない仙台&出羽三山と奈良&高野山の遠征記をアップできればと思っています。9月と11月のことなので、もはや備忘録みたいなものですが。

 

 さて、日曜はさいたまスーパーアリーナで全日本フィギュア男子シングルフリーの試合を観てきました。心から来てよかった、観られてよかった、この会場にいることができた幸運を感謝したいと思った素晴らしい戦いでした。羽生、宇野、鍵山、三浦、友野までの1~5位はいずれの選手も文句なしにスタンディングオベーション、13番滑走のフリー8位総合9位の壷井達也選手にも立ち上がって拍手を送ってきました。

26日の滑走順リスト

 

 壷井選手はショート12位で第3グループの1番手だったのですが、ほぼノーミスの演技で、第2グループと第3グループのあいだにはこれほど大きな差があるのだという格の違いを見せてくれました。そして同グループの5番手、17番滑走は2019ジュニアグランプリファイナル金メダリストの佐藤駿選手。後半のジャンプでミスが続いて総合7位でしたが、冒頭の4回転ルッツで、世界大会ゴールドメダルホルダーのレベルの高さを見せつけてくれました。あまりの出来栄えのよさに、加点が気になって帰ってからプロトコルを確認したら、思ったとおり4.44も付いていて、単独ジャンプで16点という驚異的な数字をたたき出していました。4回転アクセルが実現していない今、4回転ルッツは最高難度です。しかも佐藤選手はまだ17歳。末恐ろしいです。「第3グループでこんなすごい4回転跳んでいるけど、最終グループどうなの? 大丈夫?」と思っていたら、続く友野一希選手もクリーンな3回のクワドと、氷上のアーティストとして知られるミーシャ・ジー振付の密度の濃い「ラ・ラ・ランド」を軽快に踊ってくれ、今季グランプリシリーズロシア大会3位の実力をいかんなく発揮。まだ上位6人を残した時点でこんな状況だったので、「このあとの表彰台争いは、これ以上のどんな演技を見せてくれるのか」と、ゾクゾクするようなワクワク感でいっぱいでした。最終グループでも全日本ジュニアチャンピオン、弱冠16歳の三浦佳生選手がそれまでとは段違いの勢いを感じさせるスピード感のある会心の「ポエタ」を見せてくれ、端正な山本草太選手の演技を挟んで、いよいよSPトップ3が登場。タイプが違う3選手がそれぞれに異なる持ち味を見せて、存分に魅せてくれました。

 

 まずは鍵山優真選手。テレビで観ていると、線が細いというか貧弱な感じで、上手さより迫力のなさのほうが気になり、同世代では佐藤選手や三浦選手のスケートのほうが好みだったのですが、初めて生で観て、柔らかなスケーティングに驚きました。テレビ観戦ではまったく伝わってこなかったので……単に見る目がないだけかもしれませんが。軽くショックを受けて、思わず「うわ、なんじゃこりゃ」という声が出そうになり、マスクの下でモゴモゴしてしまいました。全然力みが感じられないというか……ちょっとここ近年では記憶にないタイプ。かなり過去に遡れば、私をフィギュアの世界に引き込んだスコット・ハミルトンに通じるような気もしました。何分はるか昔のことで、彼のスケートもうろおぼえではありますが……。それでいて4回転は失敗しそうにないというか、ふわりとやさしい動きの中に確たる安定感があり――いやはや、現世界ランク1位は伊達ではありません。やはり生で観るのは違うと改めて思いました。大人になりきっていない18歳の今だから可能なスケーティングかもしれないので、これから体も技術も成長していく中でどう変化していくのか、大いに楽しみです。

 

 続いての滑走は、ショーマこと宇野昌磨選手。打って変わって気迫あふれる力のこもった演技でした。途切れるところがなく、息継ぎする暇がない、ひと息つけるところがない濃密なプログラムを懸命に、渾身の力で滑っていました。観ているほうもつい力が入ってしまい、終わったときには一緒になって疲れて息切れしているような感じ。なので、しいて難を言えば、もう少し余裕のなさが表われなくなるといいと思いました。今は見るからにいっぱいいっぱいという印象ですから。

 

 そしてトリは、ユヅこと羽生結弦選手。手に汗握るようなショーマの熱演後でしたが、リンクに出ると一瞬で空気を変え、会場内に静けさをもたらしました。こんなことができるようになったのかと感心していると、にわかに胸がドキドキしてきました。ユヅが勝てるかどうか心配しているのではなく、どんな演技を見せてくれるのか、期待で緊張しはじめたのです。

 

 このブログでもわりとしつこく書いてきましたが、私は長らくユヅの演技に物足りなさを感じていました。技術的には問題がなく試合で勝てても、手や腕を含めた体全体の使い方に不満があり、王者ならもう少し細やかに隅々まで気をつかって、もっと表現面を向上させてほしいと願い、注文を付けてきました。しかし平昌オリンピック後は、五輪2連覇王者というアマチュアスポーツ選手の頂点を極めながら彼はその立場に甘んじず、新たな目標を掲げて、それに向かって努力を続けてさらに上手くなり、ショーマからタイトルを奪還した去年の全日本あたりから、私が彼に求めてきた、高い技術と豊かな表現を融合させた、スポーツであり芸術でもある究極のパフォーマンス――「頂点を極めた者にしか辿り着けない頂のその先のスケート」を見せてくれるようになったので、今回も元々期待しかなかったのですが(勝ち負けに関しては、ユヅが勝ってもショーマが勝っても、どちらでもよかったので)、フィギュア観戦で緊張をおぼえるのは初めてだったので、けっこうビックリしました。

 

 世界初のクワドアクセルは成功しませんでしたが、最初に大技にチャレンジして体力気力を大幅に消耗しながらも、けっして勝負を放棄せず、4Aのあとは他を寄せ付けない、8か月ぶりの公式戦とは思えない、最後まで集中力の切れない完成度の高い演技を披露してくれました。完成度が高いだけでなく、とにかく内容が濃い。ショート4位フリー12位で総合8位の山本選手なんかはジャンプを跳ぶ前に何でそんなに進路を見るかなと思うぐらい助走が長いのですが、ユヅやショーマはその間にいくつかの振りをこなします。ショーマの場合は、たとえポージング時間が1秒であっても、とりあえず多くの振りを入れるといった感じで、まだまだ頑張って入れていますという雰囲気があって、やや慌ただしさが拭えないのですが、今のユヅは、一連の動作の一つとして流れるようにジャンプの前後に振りを入れてきます。それが今の二人の差かもしれません。たまたま印象に残っている山本選手を例に挙げましたが、他の選手も同様で、ユヅとショーマが特別なのです。殿こと織田信成さんも「そっからなんで跳べるの~」とツイッターでつぶやいていたので、日本代表として国際大会で活躍したプロスケーターレベルでも、準備や助走なしでは4回転や3回転アクセルなどの高難度ジャンプは跳べないのが普通なのだと思います。

 

 そして、ユヅとショーマは手が遊んでいる時がなくなりました。足が器用にせわしくなく動いているのに、手や腕などの動きが鈍かったり指先など隅々まで神経が行き届いていないのは、やはりアンバランスで、上半身が物足りなく見え、必然的に演技全体の完成度が低く見えます。純粋にスケーティング技術で競うコンパルソリーなら足の使い方が上手ければよかったかもしれませんが、ショートプログラムとフリープログラムでは技術力の他に表現力も求められます――現に両方の点数が別々に出ますし。そして表現力が評価されるのは足だけではないのです。二人のプログラムは4分間で演技をしていない時がなくなり、その結果、ジャンプやスピンといったエレメンツの構成だけでなく、全体的により密度の濃い演技になっていました。実際、ユヅの演技中には息が詰まって、「なるほど、息づまるって、こういうことか」と今さらながら実感しましたし。知らず知らず呼吸するのを忘れて息を止めていたのですね。

 

 2度のオリンピックを経て、頂点を極めた者しか辿り着けないその先の世界に進み、そんな己を自覚して(オリンピック3連覇の権利を有するのは自分しかいないという発言に、頂点を極めた者としての自覚を感じました)、羽化したようにさらなる進化を遂げたユヅと違って、ショーマは初五輪後はしばらく低迷し、ステファンに師事するようになってようやく以前のレベル――世界大会でメダル争いができるところまで復活。今季は伸び悩んでいたスケート自体も総合的に上手くなり、今大会の演技は全日本チャンピオンになってもおかしくない出来栄えでした。事実、2年前まで4連覇していたときよりも上だったと思います。ここ数年で最高といってよい、あれほど素晴らしいパフォーマンスをしても優勝できなかったので、羽生結弦という規格外と同じ土俵で戦わなければならないショーマの不運が少々気の毒になりましたが、そもそもユヅがいなければ、ショーマもここまで成長できなかったはずなので、まさに禍福は糾える縄の如しといった感じで(喩えがビミョーかもしれませんが)、運命の神様は容赦ないな~と思いました。しばらく勝てないかもしれませんが、それでも志を高く持って、挫けないでほしいですね。

 

 全日本フィギュアのシングルの試合は24人が出場し、まともに全部を観戦すると4時間以上かかるので、仕事帰りに行ってちょうどいい最終グループの手前――第3グループぐらいから観はじめることが多いのですが、今回は日曜で、しかも受付前に行列ができているとニュースで報じられていたので早めに行き、思っていたよりも時間がかからず入場できて試合開始に間に合ったため、1番滑走から観戦しました。全日本の場合、上位は世界大会メダリストクラスの実力者ですが、下位は予選である地方大会を勝ち上がってきた選手で、正直なところ大学の部活動レベルもいて、前回までは見ていられず、第1、第2グループの時間帯は席を立って、長丁場を凌ぐため売店や会場外の店で腹ごしらえをしていました。しかし今回は見ごたえがあったので、初めて最初から最後まで観ました。通路から遠い席で、頻繁に出にくいという理由もありましたが。途中1度だけトイレに行き、混みそうな整氷時間を避けて第2グループの6分間練習時を選びましたが、それなりに混んでいて開始までに戻ってこられなかったので、7番滑走の大島光翔選手だけは観られなかったのですが、それ以外の23人の演技を観て、日本の男子は確実にレベルが上がっていると思いました。3年連続表彰台のあと2年連続4位で、平昌オリンピックの代表でもあった田中刑事選手も、今大会のフリーは第3グループで、最終的にも11位というトップ10を逃す厳しい結果。けれど、今回の演技の出来と今の実力ではそれも納得で、妥当な順位です。田中選手自身も引き際だと感じたようですし。ともあれ、若手の台頭を感じた大会でした。早くも4年後が楽しみです。

大会のパンフレット。女子シングルの紀平梨花選手とペアの三浦璃来と木原龍一の両選手は欠場でした。男子は表紙の三人が表彰台に乗りましたが、女子は台乗りを果たしたのは向かって一番左の坂本花織選手だけ。どういう基準で表紙のメンバーを選んでいるのでしょうね。パンフ巻頭のスケ連会長のあいさつ文でグランプリファイナルが中止になったことが触れられていたので、パンフの制作は12月中旬ぐらいだったと思うのですが……。

小松原組の限界と髙橋・村元組の可能性~2021全日本フィギュア感想

 今日はクリスマスです。Merry Christmas!

 

 イブの昨夜は、高校時代からの友人と海外旅行の打ち合わせで使っている恵比寿のフレンチレストランでクリスマスディナーを食べ、丸ごとの鮑や、さくら和牛に舌鼓を打ってきました。キノコ好きなのでシーズン本番の秋は好んでフレンチを食べに行くのですが、先月は毎年行っている代々木のフレンチレストランの予約が取れず当初の予定よりひと月遅れで月初に行き、先週は仕事仲間との忘年会が中野のフレンチレストランだったので、なんと今月三度目のフレンチ(笑)。いくらなんでもエンゲル係数高すぎ~と思いますが、9月までほとんど外食をしなかったので、まあいいやと思っています。オミクロン株の足音がヒタヒタと聞こえてきて、また遠からず思うように外食ができない日が来るかもしれませんし。みんなそう思って今のうちに外で食べているのか、週末の店はどこもかしこも混んでいて、恵比寿の店も予約は取れましたが満席で、その日のテーブル席は入れ替え制とのこと。タイムリミットを気にしながらコースを食べるのも落ち着かないので、いつもは客席として使用していないカウンターに席を作ってもらい、そこだけ時間制限なしにしてもらいました。

プティフルールはサンタさんとキノコでした。クリスマスディナーならではです。

 

 ということで、クリスマスイブに気が済むまで豪勢に飲み食いしたので、クリスマス当日はおとなしく終日巣ごもり。「青天を衝け」の再放送を見、午後指定にした配送業者が異なる再配達の荷物を四つ受け取り、3時半からは例年のごとく全日本フィギュアをテレビ観戦しながら年賀状を書き、夜の女子フリー最終グループの滑走前になんとか書き終えました。元旦に届くのは今日までの投函分ですが、平日はまとまった時間が取れないので仕方がありません。

 

 女子シングルの優勝は坂本選手でしたが、今回の全日本は紀平選手が欠場のため、順当な結果。トリプルアクセルはなくても、ジャンプの質が他と違いすぎるので。元々日本人には珍しい高さと幅のあるダイナミックなジャンプを跳ぶスケーターが、自分の長所を自覚して、トリプルアクセルの習得を捨てて、その他の完成度を高めることを選び精度を上げてきたのだから、紀平選手以外は勝てません。紀平選手も坂本選手に勝つためにはトリプルアクセルの成功が絶対条件だったでしょう。つまり、足に不安を抱える今の状態では、強行出場しても五輪切符は決まらなかったので、回避は妥当な判断ということです。

 

 アイスダンスの優勝は小松原組で、大ちゃん(髙橋大輔選手)ペアは去年に続いて2位でしたが、今日のフリーダンスの得点は上だったので、実に惜しかった。リズムダンスの転倒がなければ――と思いはしますが、あんなケアレスミスをしていてはオリンピックではとても通用しない、とも思います。正直なところ、フリーダンスでも大ちゃんは時々ふらついているように見えましたが、曲を表現するのが小松原組より勝っていたと思います。小松原組は日本人スケーターによく見られる几帳面さや真面目さからくる硬さが抜けきれず、SAYURIの世界を表現しきれていないと思いました。かつてSAYURIを演じた宮原選手もそうでした。国民性ゆえにか日本人スケーターにありがちな几帳面さ真面目さからくる硬さは、丁寧さキッチリさといえば聞こえはいいのですが、言い換えれば、型にはまった面白味のなさでもあります。小塚崇彦さんや中野友加里さんのスケートがそんな感じで、それゆえ殻を破れませんでした。SAYURIとか蝶々夫人とかの題材は、スケーティング技術はもちろん重要ですが、それ以上ににじみ出る昏い色気が必須なので、基本的に恵まれた生活を送っている今の日本人に厳しい道を歩んだ彼らを表現するのは難しいというか、無理だと思います。なので、外国人が取り上げるのはいいのですが(完全に別物として見るので)、日本人は下手に手を出さないほうがいいテーマだと思います。それと、小松原組に関しては、男性が人種的にはアメリカ人で、持ち味など欧米選手と同じ土俵で戦っているため、現時点では彼らに勝てないと思うので、世界に出たときには、欧米の選手とは違う魅力で勝負している髙橋・村元組のほうが通用する可能性があるように思えます。とはいえ、全日本の結果を軽視することはできないだろうから、オリンピック代表は小松原組で世界選手権代表は髙橋・村元組、あるいは、可能ならば、オリンピック代表の個人戦は小松原組、団体戦は髙橋・村元組になればいいと思います。

 

 明日の男子フリーは生観戦です。おそらくユヅ(羽生結弦選手)の最後の全日本ですし、世界初のクワドアクセル(四回転半)が実現する世紀の一瞬に立ち会えるかもしれないので。会場はさいたまスーパーアリーナで、日帰りで行けますし。今月行われるはずだったグランプリファイナルは、ネイサン(・チェン選手)とジェイソン(・ブラウン選手)とリーザ(エリザベータ・トゥクタミシェワ選手)が出るので、チケットが当たれば大阪まで見に行くつもりでしたが、オミクロン株のせいで大会自体がなくなってしまいました。そして、渡航直前のインフルエンザ感染でキャンセルする羽目になった平昌オリンピックのリベンジを果たそうと思っていた北京オリンピック現地観戦の望みもコロナウィルスのせいで絶たれました。せめてユヅとショーマ(宇野昌磨選手)の真剣勝負――最後になるかもしれない直接対決の頂上決戦をこの目で見なければ、長年のフィギュアスケートファンとしてはやりきれません。チケットが当たって、観客を入れての大会が実施されて、本当によかったです。

 

※12月27日追記

 なんと、大ちゃんペアが世界選手権の代表に決まりました~\(◎o◎)/!

等々力渓谷→野毛大塚古墳と特別展「縄文2021―東京に生きた縄文人―」in江戸東京博物館

 恐れていた新たなコロナウィルスの変異種が確認されてしまいました。ドイツやオーストリアも感染が再拡大し、とんでもないことになっています。日本も第6波の到来は時間の問題かもしれません。

 

 抗生物質を処方してもらって体調も改善したので、当初の予定どおり飛び石連休は奈良と高野山に遠征し、先週末は俳友と等々力渓谷に行ってきました。遠征記は長くなるので後日にまわします。

f:id:hanyu_ya:20211130002645j:plain等々力渓谷の谷沢川に架かる利剣の橋。左奥は稲荷堂で、その隣の龍の口から出ているのが不動の滝。

f:id:hanyu_ya:20211130004802j:plain不動の滝から上に登っていく参道から見る等々力不動尊の舞台

f:id:hanyu_ya:20211130002928j:plain舞台から見える紅葉その1

f:id:hanyu_ya:20211130002959j:plain舞台から見える紅葉その2

f:id:hanyu_ya:20211130003031j:plain本堂と山門の間にあるイチョウ

 

 すぐ近所なので、足を延ばして野毛大塚古墳にも寄ってきました。

f:id:hanyu_ya:20211130003124j:plain野毛大塚古墳の円墳部。陽が差している西のほうに前方部と造出部がある帆立貝式古墳です。

f:id:hanyu_ya:20211130003210j:plain円墳の頂上は舗装されていて、埋葬品についての説明タイルが嵌め込まれていました。

 

 野毛大塚古墳は5世紀初頭に造られたものらしく、古代の遺跡としてはそんなに古いものではありませんが、折りしも3週間ほど前に江戸東京博物館で特別展「縄文2021―東京に生きた縄文人―」を見たばかりだったので、古代人の足跡は関西や東北だけでなく東京にもたくさんあるのだと改めて思いました。今は近現代的な建築物が密集する大都会で、江戸時代より前は湿地帯の未開地のような気がしていましたが。

f:id:hanyu_ya:20211130003409j:plain特別展で展示されていた縄文海進時代の奥東京湾の海岸線図

f:id:hanyu_ya:20211130003543j:plain海岸線の変化についての解説

f:id:hanyu_ya:20211130003630j:plain関東の貝塚分布図

f:id:hanyu_ya:20211130003704j:plain東京の貝塚分布図

f:id:hanyu_ya:20211130003730j:plain土偶その1「多摩ニュータウンのヴィーナス」。大英博物館土偶展でも展示されたメジャー土偶みたいです。

f:id:hanyu_ya:20211130003800j:plain土偶その2。この単純な造形で笑顔がきちんと表現できているのがスゴイです。

f:id:hanyu_ya:20211130003953j:plain土偶その3。ものすごく省略しているのに、何故か眉やら鼻の穴やらはちゃんと作られているのが不思議です。

f:id:hanyu_ya:20211130004027j:plain土偶その4。右上の77番を筆頭に、かなり個性的な面々。

f:id:hanyu_ya:20211130004119j:plain土偶その5。両面土偶

f:id:hanyu_ya:20211130004154j:plain「東京の縄文土偶100」についての解説。100体の土偶が展示されていました。

 

 なかなかおもしろい展示でした。縄文海進時代は大宮の氷川神社あたりまで海が迫っていたことが確認できたので、それだけでも収穫でした。

石川遠征~金沢城(付・国立工芸館)

 那谷寺からの続きです。

 

 14時16分に金沢駅に到着すると、まだ体力が残っていて大丈夫そうだったので、那谷寺まで行く気力がなかったら行こうと思っていた金沢城へと向かいました。4月から週末と観光シーズンだけ特別公開されていた重要文化財が11月は28日まで毎日公開されているからです。金沢城は菱櫓、五十間長屋、橋爪門続櫓などが一般公開されていて見学できますが、これらは平成時代に復元された建物で、江戸時代に建てられた建造物は特別公開時しか内部を見学することができません。

 

 ――ということで、駅前からバスに乗って兼六園下バス停で降り、紺屋坂、石川橋を通って石川門口から金沢城公園に入り、まずは金沢城の顔である石川門を見学。

f:id:hanyu_ya:20211128134901j:plain石川橋から見る石川門の石川櫓

f:id:hanyu_ya:20211128183007j:plain石川橋から見える石川櫓の反対側から入ります。

f:id:hanyu_ya:20211128183044j:plain石川門についての説明板

f:id:hanyu_ya:20211128183125j:plain石川櫓内から見る櫓門

 

 続いて鶴丸倉庫、三十間長屋へ。

f:id:hanyu_ya:20211128183245j:plain石川門から鶴丸倉庫に向かう途中、城壁越しに兼六園の方向を見たら山がきれいに見えたので、金沢城から見える山とは何山かと気になりました。

f:id:hanyu_ya:20211128184343j:plain鶴丸倉庫

f:id:hanyu_ya:20211128183459j:plain鶴丸倉庫についての説明板その1

f:id:hanyu_ya:20211128183543j:plain鶴丸倉庫についての説明板その2

f:id:hanyu_ya:20211128183627j:plain鶴丸倉庫から三十間長屋に向かう途中にある戌亥櫓跡の石垣と橋爪門続櫓(向かって右)

f:id:hanyu_ya:20211128183721j:plain石垣のアップ。同じ石垣でも角は石の積み方を変えていることが判ります。

f:id:hanyu_ya:20211128184417j:plain三十間長屋

f:id:hanyu_ya:20211128184457j:plain三十間長屋についての説明板

f:id:hanyu_ya:20211128184621j:plain三十間長屋の内部。長いです。当然のことながら、梁の数が尋常じゃありません。

f:id:hanyu_ya:20211128184722j:plain梁の上。何本もの梁を渡すためには、普通の工法ではダメなのだろうと思いました。

f:id:hanyu_ya:20211128185309j:plain複雑すぎて、もう何が何だか……梁なのか桁なのかわかりません(笑)。

 

 特別公開は3時半までなので、駆け込み見学者を避けて、5分前には三十間長屋を出て、来た道を引き返し、鶴の丸休憩館へと向かいました。休憩館は石川門から鶴丸倉庫に向かう途中にあるので、行きに寄ったのですが、その時にどういう順番で見学するかリーフレットを見て検討したら、特別公開が3時半までであることを知り、休憩館内にある「豆皿茶屋」は4時までだったので、まずは見学を優先し、閉店15分前のオーダーストップまでに戻ってくることにしました。3時35分に入店し、本日のお寿司をメインとした食事メニューがあったので、まだ食事もできるのかとダメ元で訊いたら、できると言うので、お寿司とお菓子の6品にコーヒーが付いた「姫皿御膳」を注文。

f:id:hanyu_ya:20211128185717j:plain鶴の丸休憩館内にある御休み処「豆皿茶屋」から見える橋爪門続櫓、五十間長屋、菱櫓

f:id:hanyu_ya:20211128185830j:plain目にも楽しい豆皿を並べた脚付膳で出された「媛皿御膳」。元々このメニューに付いているコーヒーは普通の金沢珈琲でしたが、単品メニューに金箔入りコーヒーがあったので、差額を追加して、そちらに変更してもらいました。

 

 閉店間際なので先に会計を済ませ、帰りの新幹線は金沢発17時56分のかがやきの切符を取っていて、まだ1時間ほど余裕があったため、食べながらこの後どうするか検討。目の前に見える復元建造物の最終入館受付は4時終了で、もはや間に合わなかったので、改めて公園周辺マップを見ていたら、県立美術館の近くに「国立工芸館」という文字を発見。――と同時に、竹橋から移転することになっていたのを思い出し、移転がいつなのかおぼえていなかったのでスマホで確認したら、昨年秋に移転済みで、ちょうど開館1周年記念展を開催していることがわかったので、行ってみることに。レトロな赤レンガ倉庫が残る緑豊かな本多の森に、東京のド真ん中で見ていた明治期の洋館によく似た洋館が建っているのを見て、本当に移転したんだ――と、感慨深く思いました。防災面からも東京一極集中はいかがなものかという考えなので、今後も首都機能の地方移転が少しでも進むとよいと思っています。

f:id:hanyu_ya:20211129004252j:plainオーダーストップの直前だったからか、他に客はなく貸切状態だったので、静かな環境で加賀百万石の城を正面に眺めながら金沢の味で腹を満たす極上の時間を過ごせました。

f:id:hanyu_ya:20211128225958j:plain2020年10月に東京から金沢に移転した国立工芸館。建物は旧陸軍第九師団司令部庁舎と旧陸軍金沢偕行社を使用。

f:id:hanyu_ya:20211128230603j:plainこちらは2019年11月に撮影した旧東京国立近代美術館工芸館。建物は旧近衛師団司令部庁舎を使用。現在の名称は東京国立近代美術館分室だそうです。

 

 入館は事前予約制を取っていましたが、整理券を配っていて、予約がなくてもこの券で4時半から入れるというので、10分ほど待って入館。しかも文化の日だからか、入館料は無料でした。記念展は「《十二の鷹》と明治の工芸―万博出品時代と今日まで 変わりゆく姿」という名称で、明治26年(1893)のシカゴ万博に出品され、現在は重要文化財に指定されている鈴木長吉作の「十二の鷹」が展示の目玉でした。

 

 国立工芸館を出ると、県立美術館裏手の美術の小径を下って本多公園を経由して金沢21世紀美術館へ行き、ミュージアムショップを物色。いくつか気になる物を購入し、美術館を出たときにはけっこうギリギリな時間だったので、金沢駅行きの本数が多い香林坊バス停まで行ってバスに乗車。駅に戻り、ホテルに寄って預けた荷物を引き取ると、タカラ缶チューハイを求めていくつかの売店に寄ったのですが、残念ながら見あたらなかったので、アルコールを調達するのはあきらめて新幹線に乗車。これにて遠征終了です。

f:id:hanyu_ya:20211128225222j:plain金沢21世紀美術館ミュージアムショップで買ったパスポートカバー。PVCに葛飾北斎の「凱風快晴」がプリントされていて、富士山の部分は透明で、パスポートを入れると赤富士の絵が完成するようになっています。現在発行されている日本のパスポートはビザページに「凱風快晴」をはじめとする北斎の「富嶽三十六景」の絵があしらわれているので、なかなか洒落がきいている――とおもしろく思い、つい衝動買いしてしまいました。